内戦
内戦準備は、思ったよりもはやく出来たようである。侯爵家次男ミリアムから、内戦の宣言が書かれた書状が送られてきた。日付まで書くなんて、親切だな。あれだ、領地戦の練習のつもりなんだろうな。
内戦が始まるとわかれば、ただの貧民は逃げるだけだ。さっさと海の貧民街を捨てて、方々に逃げていく。
「ルキエルは行かないのか!?」
身売りの店に挨拶に行けば、店長がそんなことを聞いてくる。ほら、いつもと変わらない恰好だから。
「海の貧民街で待ち合わせしてる奴がいるんだ。ギリギリまで待ってないと、怒られる」
「お前には、本当に世話になった。一緒に行こう」
面倒事もいっぱい持ち込んだ、というのに、店長、俺を連れて逃げようとしてくれる。いい奴だな。
「命があったら、また世話になるよ。その時は、よろしく頼む」
「ルキエル!?」
「俺は足手まといだ。そこらの女より力があるといっても、俺は何かと狙われている。俺と一緒のほうが、危ない。さっさと逃げろ」
「………中央都市にいる。絶対に、来るんだぞ!!」
「ああ、必ず行く」
口約束だから、守るとは限らないけど、その場の雰囲気で、言ってしまった。
そうして、どんどんと、無力な貧民は海の貧民街を捨てて逃げていくと、すっかり街は静かになった。
俺は、妖精を使って、貧民街全体を見回る。
「手伝うのか?」
「まっさか。俺ごときが出来ることなんて、ちょっと威嚇程度の火柱だ。お前の力を使うと、大変だしな」
最高位妖精カーラーンの力を使えば、きっと、貴族側を殲滅出来るだろう。だけど、それやったら、帝国に逆らったことになってしまう。ハガルが動く。それだけは出来ない。
「ハガルに頼め。ハガルなら、すぐに収めてくれる!!」
「筆頭魔法使いに、そんなことはさせられない。あいつは、帝国のための魔法使いだ。こんな男むさぼってる貧民のために魔法を使ってはいけない」
「ルキエル!!」
「煩い」
しつこいから、ついつい、俺も怒りを表に出してしまう。
聞き入れてもらえないから、カーラーンも怒っている。カーラーンには、理解出来ないのだ。すぐそこに、巨大な力があるのだから、使えばいいのに、なんて考えている。
「妖精の力は便利だ。だけど、それに慣れ過ぎてしまうと、失った時、大変なことになる。俺は一度、ハガルに捕まって、妖精の力を失った。あの絶望はすごいものだった。だから、頼ってはいけないんだ。妖精の力に頼ると、後で、手痛いことになる」
「それは、そこらの凡人だけだ。貴様やハガルは違う。心がけだ。あるがまま、と受け入れる、それが、尊く、神が好む。お前たちは、それをよくわかっている」
「ありがとな。ここで死んだって、気にするな。それが俺の寿命だ。だから、余計なことはするな」
「………」
絶望的な顔をするカーラーン。お前な、俺に傾倒しすぎだ。もっと、距離をとって接するべきだ。
それは、仕方のないことだ。俺が海の貧民街に来たばかりの頃は、俺自身の妖精憑きとしての格が低かったから、カーラーンの姿を視認できなかった。それも、ちょっとした事で、俺の格が爆上がりしてしまい、カーラーンの姿を視認出来るようになってしまったのだ。ついでに、カーラーンの力を借りることも出来るようになった。
俺が視認出来なかったら、カーラーンも、ここまで俺に傾倒しなかっただろう。視認出来るようになってから、一年も付き合えば、カーラーンも俺にちょっと情も湧くというものだ。
「ま、俺は往生際が悪い男だ。そう簡単には、死なないけどな。道連れ出来るものは、道連れしてやろう。せめて、あの残念貴族令息をどうにかしてやろう」
「身体強化か。反動が来た時、貴様の命はないぞ」
「戦場で命を散らすって、男らしいじゃん!! 男の沽券が、と心配しなくて済む」
「そんな、死に方なんぞで、男らしさを求めるな」
「仕方がない。俺、日に日に、男らしさが失われていってるから」
妖精憑きの格が爆上がりしたせいで、俺自身の見た目が、どんどんと綺麗系に磨かれていっている。一年で、男にばかり、口説かれているよ。女口説こうにも、この見た目だから、敬遠されちゃっているしね。
逃げ遅れっぽい子もちらほらと見つかる。親がいない子どもは、保護する機関なんかないので、そのまま捨てるように置いていかれる。そういう子を見つけては、声をかけて、安全っぽい所に導いていく。
そうしていくと、コクーン爺さんの軍勢にぶち当たる。
「まだ、ここにいたのか」
「もう行くよ。一年も世話になったな。だから、恩返しをしないと」
「妖精憑きの力を使うつもりか?」
コクーン爺さんは声をひそめて言ってくる。
「とりあえず、逃げ遅れた子どもを隠しておいた」
「………ありがとう」
物凄く驚いて、そして、笑顔でお礼をいうコクーン爺さん。
「俺が表立って出来ることは、これくらいかなー。ヘレンお嬢さんには、無駄な抵抗はしないように、言い聞かせるんだぞ。死んだら終わりだ。生きていれば、どうにかなる」
「………」
「生きていたら、いい加減、俺にも教えてくれ、あんたの一族のこと」
「………生きていたら、話そう」
「約束だ」
「ああ、約束だ」
コクーン爺さん、やっぱり何か隠してたな。ちょっと言ってみれば、ぽろっと漏らしてくれた。
コクーン爺さんの一族には、何か秘密がある。その秘密のために、俺は海の貧民街に居座っているようなものだ。
口約束だけど、生きていれば、コクーン爺さんは守ってくれるだろう。俺はコクーン爺さんから別れて、魔法で存在を消して、軍勢を抜けた。
だいたい、軍勢の端に、大将を置くものだ。海の貧民街の軍勢を抜けると、何もない原っぱだ。その向こうに、侯爵家次男の軍勢だ。その数は、コクーン爺さんが抱える軍勢の倍だ。随分とはやく調べたんだな。
この軍勢の差を上手に縮めるのが、コクーン爺さんだ。コクーン爺さんは毎日、騎士たちや兵士たちを鍛えている。鍛錬をしっかりとしているので、一騎当千だろうな。
俺は魔法で、敵である侯爵家次男の軍勢も通り抜けると、大将であるミリアムを見つける。魔法使っているので、俺の存在、見えないはずなのだが、ミリアムの側にいる男が、俺を見つける。
「ミリアム様!」
「………ルキエルじゃないか。いい、こいつは無害だ」
「………」
物言いたげに見てくる男。姿があれだ、魔法使いだな。こんな内戦のために、まさか、魔法使いなんか連れて来たのか。よく帝国が許可したな。
魔法使いは妖精憑きである。妖精憑きは帝国の所有物だ。たかが一貴族が連れて行けるわけではない。ハガル、許可下ろしちゃったのかー。
「これから、逃げるのか?」
一晩、俺と閨事して、随分とお気に召したようだ。ミリアムは馬から降りて、俺の手を握ってきた。
「私の所に来るがよい。今夜も、可愛がってやろう」
「俺は高いよ」
「また、金か。金で命は買えないぞ」
「こういう関係を割り切るためだ。何せ、男に抱かれないと生きていけないが、俺自身は男でいたい。だから、金という理由で、男に抱いてもらっているんだ。そうでないなら、死んだほうがましだ」
「そんな、勿体ない!! 欲しいものなら、何でもやろう。金も、やろう。さあ、私の所に来なさい」
ちょっと泣き言を言ってやれば、情が湧いてしまったミリアムは、俺の手を離せない。金まで出すという。さすが貴族、平民では出来ないことを簡単に言っちゃえるな。
「ミリアム様、この男は危険です! 何か、得たいの知れないものを感じます!!」
さすがに魔法使いは、俺に何かを感じていた。
「あの程度の格で、私が隠す妖精は見えないがな。下っ端が」
感じているが、カーラーンが俺に憑いている妖精まで隠しているので、視認が出来ていないという。すごいな、カーラーン!! 俺が野良の妖精憑きだって、これでバレないな。
「気にしすぎだ。この男は、男相手に閨事をして生きている。この通り、体も華奢だ」
「しかし、先ほどまで、気配一つ感じさせませんでしたし」
「これほど弱いんだ。気づくものではない」
俺を後ろから抱きしめて、体をまさぐってくる。俺はついつい、喜んでしまう。
「こんな所で、やめてくれ。内戦が無事、終わったら、ゆっくりしたい」
「ああ!! ルキエルはここにいるがいい」
「………」
だけど、俺は無言で海の貧民街とは逆のほうへと歩いていく。
「ルキエル、ここにいろ!!」
ミリアムは俺の腕を掴んで引っ張る。俺はただ、笑って、何もない向こう側を見つめる。
「時間通りだな」
ミリアムの手を払った。
「ルキエル!!」
「俺の相手は、俺が好きなように決める。お前では、役不足だ」
「なんだとっ!?」
逆らう俺を捕まえようとするも、俺は上手に避けた。
「ミリアム様、戻って!!」
魔法使いと騎士数名が、ミリアムを連れ戻した。
「何をっ!!」
「何か来ます!!」
物凄い音と土煙が遠くからたってきた。それに魔法使いが気づいたのだ。格は低いが、腐っても魔法使いである。妖精を使って、何か感じたのだろう。
先頭に人を殺せそうなほどの軍馬に乗る者が四つの方向から、物凄い軍勢を連れて、俺がいる元にやってきた。
「ルキエル!!」
王都の戻ったはずのナナキが、軍馬から降りて、俺を抱きしめる。
「ご苦労だった、ナナキ」
「ルキエルの命令は絶対だ。王都の貧民街の軍勢全て、ここに集結した!!」
まだ、ナナキは王都の貧民街の支配者だ。ナナキが一声あげれば、軍勢を動かせる。親父の代から鍛え上げられている軍勢は、俺の顔見知りばかりだ。俺を見て、なんとも言えない表情となる。
他にも、三人ほど、とんでもない大物が俺の元にやってくる。
「どういうことだ、ルキエル!!」
ミリアムは、俺の後ろに広がる軍勢に、怒りの声をあげる。
俺は、ナナキに口づけする。
「こいつは、王都の貧民街の支配者だ。こいつがガキの頃、俺が拾って育てた男だ。俺には絶対服従だ。そうだろ、ナナキ」
「僕の主はルキエルだ。ルキエルこそ、王都の貧民街の支配者だ!!」
「だそうだ」
続いて、なかなかいい体格の隻眼の女に口づけする。
「何をっ」
「祝福だ。この女は、山の貧民街の支配者、山賊姫ナラータだ。道具の使い心地はどうだ?」
「貴様がいない一年間は、酷いものだった。もう、隠れるんじゃない!!」
「仕方がない。俺の飼い主が死んだんだ。野良になったんだから、次の飼い主を探すしかない。一応、コクーン爺さんを通して、道具は届いていただろう」
「何故、ここにいるんだ!? アタシのところに来てくれればいいだろう!!」
「コクーン爺さんには助けてもらったからな、仕方がない。まだ、仮宿だ」
続いて、びしっと軍服をきた賢そうな男に口づけする。
「これ、やらないといけないのか?」
「挨拶挨拶。この男は、中央の貧民街の支配者、智の武人ケリンだ。図面は役立っているか?」
「道具だけでなく、仕様書まで作ってくれて、助かっている。まだ、定住先が決まっていないのなら、僕の所に来てくれ。大歓迎だ」
「そうだな、一度、ケリンと閨事してから、考えよう」
俺はケリンの下半身を見て、舌なめずりする。いいもの持っているかもない。
そして、最後に最果ての貧民街の支配者ヤイハーンである。
「これは、最果ての貧民街の支配者ヤイハーンだ。貴様には俺の妹は渡さん」
「お義兄さん、大切にします!!」
「聞いたぞ、貴様、女が十人もいるんだってな。そんな所に俺の良心であるレーリエットをやるわけがないだろう!!」
「全ての女とは別れる!!」
「煩い!! 過去全てが許さん。姉貴も貴様のトコにいたんだってな。女見る目がなさすぎだ。そんなトコに、レーリエットは絶対に渡さん!!!」
ヤイハーンだけは口づけしない。俺の可愛い妹を娶ろうなど、腹が立つ。
そうして、帝国の五大勢力の内、四大勢力を紹介して、俺は改めて、ミリアムに向き合う。
「さて、後方は俺の軍勢が囲った。こうなると、そちらの軍勢は、袋のネズミだな」
「私の味方ではないのか!?」
「お前のどこに、味方する要素がある?」
「あんなに熱く、まぐわったではないか!?」
ギラリ、とナナキが俺を睨んできた。ナナキのいないトコで閨事したんだ。ナナキとしては、浮気なんだろうな。身売りだから、そうじゃないんだけど、ナナキにだけ説明するのは面倒くさいので、とんでもないことをしてやる。
「金を貰ったからな、芝居してやったんだ。お前をやった後、ユーリで口直しをしたんだぞ。見た目もそうだが、その下半身も、がっかりだ!!」
吐き捨ててやる。ついでに、受け取った金もぽんと投げつけてやる。
「芝居とそうでないのがわからないとはな。もっと勉強してこい」
怒りに震えるミリアム。こんな大衆の面前で、お前の下半身は残念だ、と大声で言われたのだ。そりゃ、怒るよな。
お陰で、ナナキの怒りは収まった。ナナキは嫣然と微笑み、だけど、獲物としてミリアムを見ている。ナナキ、ミリアムを殺す気だな。
「殺して、いや、捕まえて、酷い目にあわせてやる。あの男を捕まえろ!!」
「内戦の前哨戦か。いいぞ。相手になってやる」
ミリアムが合図すれば、侯爵家次男の軍勢は、俺のほうに向かってくる。
だけど、俺に味方する四大勢力が、俺の周りを素早く囲い、侯爵家の軍勢に襲い掛かっていった。
まず、数が違い過ぎる。それぞれの軍勢だったらいい。しかし、四つの軍勢だ。侯爵家の軍勢四つ分だ。
なにより、敵と味方がはっきりしている。侯爵家の軍勢さん、身ぎれいな恰好をしているので、目立つのだ。一人に対して四人五人が襲い掛かってくる。共闘しているわけではない。身ぎれいな奴は敵だ、と認識しているだけだ。むしろ、敵の取り合いである。
そういう光景を守られながら眺めていると、俺の傍らにナナキが跪く。
「武器だ」
「親父の愛剣かー」
俺が持つには、かなり重い奴だ。それを俺は身体強化を使って持つ。
「行ってくる」
「バカ、ここにいればいいだろう!!」
阿鼻叫喚の中を出て行こうとするのを、貧民街の支配者三人が止める。
「そんな細い体で行ったら、大変なことになるぞ!」
「細い言うな。気にしてんだ!!」
中央の貧民街の支配者ケリンに言われて、傷つく。くっそ、お前は頭はいいし、体もがっしりしていて、羨ましいな!!
「仕方がないだろう!! 細いし、折れそうだし。アタシが行ってやる」
「男の沽券の問題なの!!」
山の貧民街の支配者ナラータにまで言われちゃう。ナラータ、見た目はともかく、女だ。男としては、進むしかない。
「お義兄さん、せめて、レーリエットとの交際の許可を!」
「許さん!! 絶対に生きて戻って、邪魔してやるからな」
こんな時でも、最果ての貧民街の支配者ヤイハーンは腹が立つことを言ってくれる。こいつだけ、俺を止めないが、生きて戻ってこれないと悟ってるな。ちくしょー、生きて戻ってやるからな!!
「無理して行くものじゃないだろう。ここで待っていれば」
「ハガルに手土産を送りたい」
最高位妖精カーラーンまで止めてくれるが、俺は飛び込んでいく。
俺はとんでもない事となっている戦場に飛び込んだ。
俺みたいな力のないような存在、どっちも邪魔で仕方がないだろう。だけど、俺は敵だけを切り裂いて、先に進む。ちょっと進めば、侯爵家次男がいる場所だ。
身体強化様様だな。死んだ親父の愛剣でも、すぱんすぱん切れるよ。これくらいの力があると良かったなー。
そうして、俺は返り血ばっかり浴びて、魔法使いに守られたミリアムの元に到着する。ちょっと騎士が数名、邪魔してきたが、そこは簡単に切り殺して終わりだ。
俺の見た目で、かなりの腕前の騎士数名が殺される様を見て、ミリアムは魔法使いの後ろに隠れる。そんなミリアムより遥か向こうにいるコクーン爺さんの軍勢は、呆然としているよ。コクーン爺さんは、わざわざ高いトコに移動して、俺がいるのを確認して、驚いている。俺はコクーン爺さんに手を振ってやる。
後ろを振り返れば、魔法使いの魔法で、他の敵は入ってこれなくなっている。
「どうして、貴様は入ってこれるんだ!?」
魔法使いは俺から距離をとろうと後ろに下がるのだが、それをミリアムが邪魔している。
「お前がそれなりに力のある妖精憑きであれば、俺が何者か、わかっただろうな。それで、魔法使いの助力、筆頭魔法使いは知っているのか?」
「っ!?」
「えー、知らないのー。もしかして、内緒で助力しちゃってる? いいのかなー」
「あの男が気づくはずがないだろう!! あの無能が!!!」
魔法使いから吐き出される、ハガルへの悪口に、最高位妖精カーラーンが怒りの形相となる。あ、大変なことになるなー。
俺はカーラーンの力も借りて、人払いの魔法をする。ついでに、魔法使いの妖精も盗ってやる。
魔法使いは、妖精全てが盗られたことに気づいて、絶望で、膝をついた。
「私の妖精がっ!!」
「おい、何をやっている!! はやく、あの男を動けなくしろ!!!」
「無理だ! 私の妖精が盗られた!! 貴様、何者だ!?」
「カーラーン、見せてやれ」
「わかった」
カーラーンは、隠していた妖精全てを妖精憑きである魔法使いにだけ見えるように解放する。
俺は一年前、ハガルが持っている下位妖精や中位妖精を見ることとなった。あれ、普段は最高位妖精が隠しているのだ。しかも、俺が見たあの妖精の群れは、ハガルに憑いている最高位妖精一体分が隠し持っている妖精だという。
あの恐ろしい数の妖精が、カーラーンの元から解放される。見渡す限りの空を妖精が覆い隠すほどのそれに、魔法使いは絶望で、もう、動けなくなる。
これは、妖精憑きでないとわからない恐怖だ。これほどの妖精を隠し持つ最高位妖精は、格の低い妖精憑きでは視認出来ないという。普段から、ハガルは最高位妖精だけを引きつれているのなら、下っ端魔法使いは、どうしてもハガルを下に見てしまうのだろう。
実際は、とんでもない化け物だ。これほどのものをハガルは普通に使役しているという。
「俺は、野良の妖精憑きなんだ。その男よりも強いぞ」
「そうなのか!? いくらでも金をやろう!! 私のものになれ」
「俺の後ろ盾が、それを許してくれないだろうな」
「どこの誰だ? 私は侯爵家だぞ」
侯爵家って、まあまあな家柄だろうな。俺の後ろ盾をそこら辺の商人とか、貴族だと思ったのだろう。妖精が見えないミリアムは、普通に俺に近づいてくる。
「侯爵よりも上だ」
「嘘をつくな!? 貴様のような貧民が、さらに上と繋がるなど」
「俺は、野良の妖精憑きだが、一応、魔法使いなんだよ。俺の後ろ盾は、筆頭魔法使いハガルだ」
俺は、ミリアムの耳元で囁いた。
ミリアムは、最初、呆然となった。そして、しばらくして、思考が動き出した。
「う、嘘だっ」
「なあ、ハガルに許可なく魔法使いを使うのって、どうなるのかな?」
俺にしか見えないカーラーンに聞いてみた。
「魔法使いは、帝国のものだ。つまり、皇帝のものだ。皇帝の所有物を許可なく使われたんだ。ただでは済まないだろうな」
笑ってしまう。なんだ、ミリアム、無事ではすまないじゃないか。
俺はミリアムに剣の切っ先を向ける。
「ほら、剣を抜け。俺に勝てば、きっと、ハガルも見逃してくれるぞ」
俺が死んだら、カーラーンが告げ口するけどな。そこは黙っていよう。俺が死んだ後なんぞ、知らん。
ミリアムは俺を見る。見るからに、力のない俺だ。全身、返り血で酷いが、それでも、この見た目である。勝てるかな、なんて思ってしまう。
ミリアムは使い慣れないだろう剣を抜き放った。やっぱり、文官よりだな。腰がひけているよ。
「ほら、来い」
「うぁああああああー------!!」
意味のない叫び声をあげて、ミリアムは胴体がら空きで向かってくる。隙まみれだ。
容赦なく、俺はミリアムの胴体を一刀両断する。
地面に転がるミリアム。苦痛のまま、死ねないミリアムは、縋るように俺を見上げる。
「た、たすけ、て」
「俺の後ろ盾を知ってしまったんだ。生かしておくわけないだろう」
「ひっ!」
魔法使いは逃げる。だけど、俺は容赦なく、魔法使いを動けないようにする。
「親父の愛剣な、俺が切れ味よくする魔法かけてるんだよ。これで、親父は俺を傷つけた男ども全てを殺してくれた。まだまだ、切れ味がいいな」
ちょっと一閃してやれば、魔法使いの首は簡単に飛んでいった。




