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魔法使いの悪友  作者: 春香秋灯
嫁取り
17/40

元婚約者

 俺が店で宿泊すると気づいたナナキは、ものすごく不満のレーリエットを連れて、先に戻っていた。俺はユーリと二人で朝帰りだ。

 店を出ると、何か、いやな感じがした。店の中では、俺はユーリに甘えるようにくっついていたが、外ではユーリから離れ、貧民街全体を探る。

「ルキエル?」

 ユーリは何も感じていない。俺の纏う空気が変わったので、驚いている。

「コクーン爺さんのとこで、何かあったみたいだ。行こう」

「あ、ああ」

 ユーリはわけがわからない、といった顔となるが、俺に言われるままに、走った。

「お前の周りは、問題事ばかりだな」

 最高位妖精カーラーンは、何が起こっているのかわかっているようだ。俺の体力とか、色々、回復してくれた。お陰で、ユーリに置いていかれることなく、あの頑強な建物の近くまで行けた。

 いつもは早朝訓練で騎士たちや兵士たちがにぎわっている広場に、随分と小綺麗な騎士たちがひしめき合っていた。物々しい空気だ。そこから先に行こうとしても、騎士たちがそれを邪魔する。そのため、ユーリは先に進めなかった。

 俺はというと、魔法使って、気配とか断って、さっさと先に進んだ。どこの騎士かなー、なんて見ながら、誰にも気づかれることなく、ひしめく騎士たちを通り抜けて、建物の前に到達する。

「ルキエル!?」

 何故か、コクーン爺さんの孫ヘレンお嬢さんが、俺が来て、驚いている。

 俺は、どうなっているのかなー、とヘレンお嬢さんのほうを見れば、立派な服を着た貴族が、ヘレンお嬢さんの手をとっていた。ヘレンお嬢さんは、俺を見て、貴族の手をぱっと離した。そんなヘレンお嬢さんの隣りで、苦々しい顔をするコクーン爺さんが、俺を見る。

 まずいトコに来ちゃったな。これを見て、悟ってしまう。俺は、問答無用で巻き込まれるな。

 立派な服を来た貴族は、なかなかの好青年である。ここに集まった騎士たちを保持するのだから、よほどの高位貴族なのだろう。

「おはようございます、ヘレンお嬢さん、コクーン爺さん。これから、内戦でもするのですか?」

 まずは、軽く、相手の反応を見てみる。

 見るからに、怪しい俺が近づいても、ヘレンお嬢さんとコクーン爺さんが止めないので、相手の貴族は戸惑った。

「貴様は、何者だ!?」

 貴族は残念なことに、俺に噛みついてきちゃう。ダメだよ。俺のことは無視しなきゃ。身分的には、この貴族は、俺みたいな貧民を相手にしてはいけないんだ。

「発言して、良いですか?」

 礼儀を守って、俺は許可を求める。相手は貴族だ。最下位である俺は、答えるにしても、許可が必要だ。

 俺がきちんと上として扱うことに、貴族は俺を下と見た。

「許可しよう。貴様は、何者だ」

「ここでは、男相手に身売りをしている」

 明らかに、最低な職業の俺に、貴族は蔑むように俺を見る。

「一年前までは王都の貧民街で、元支配者の娼夫として、随分と可愛がられていた」

「っ!?」

 俺の元の肩書に、貴族は危険を感じた。俺は、実は、扱いが非常に難しいからだ。

 俺の噂は、一年で、帝国中に広がった。貴族も、平民も、貧民も、俺のことは噂で知っている。わざわざ、味見をしに来る貴族だっているのだ。

 俺にどんな後ろ盾があるかわかったものではない。そう、貴族は危ぶんだ。

 実際は、貴族や平民みたいな後ろ盾なんてないけどな。はったりだよ、はったり。

 だけど、情報が足りないので、相手は俺の背後を勝手に勘ぐるのだ。

「それで、これから内戦でもするの? まさか、コクーン爺さんと一緒に、帝国に戦争仕掛けるの?」

「そんな恐ろしいことはしない!?」

「しません!!」

 貴族だけでなく、ヘレンお嬢さんまで叫んで否定した。

「お兄ちゃん、邪魔しちゃダメよ!!」

 建物の中から、妹のレーリエットが出てきて、俺の腕をつかんだ。

 レーリエットはいくら貧民とはいえ、物凄い美少女である。ついつい、貴族だけでなく、騎士たちまで、レーリエットに目を奪われる。

 邪魔、と聞いて、なんとなく読めた。

「なるほど、あんたとヘレンお嬢さん、元は婚約者か」

 貴族ではよくある話だ。幼い頃に、家同士を繋げるための婚約をしたのだろう。

 何せ、コクーン爺さんは、元は貴族だという。どういうわけか、落ちぶれてしまって、今は貧民の支配者となってしまったが、影響力はまだまだある。いまだに、コクーン爺さんを慕って、わざわざ貧民になる騎士や兵士がいる。ユーリも、そうだったな。

 ヘレンお嬢さんは、気まずい、みたいに顔を俯かせる。

 コクーン爺さんは、ヘレンお嬢さんを何故か俺の所に押しやって、貴族の前に立つ。

「何度も、再婚約の話は、お断りしている。帰ってくれ」

「冗談だと思われただろうから、こうして、迎えに来ました。ヘレンを私の花嫁として、連れて帰る!」

「もう、ワシもヘレンも貧民じゃ。ヘレンを連れて行っても、お主たちに旨味はない」

「そういう意味で、迎えに来たわけではない。私の妻は、ヘレンだけだ。そう、幼い頃からずっと、決めていた」

「もう、お互い、身分は違う」

「だったら、ヘレンを私の知り合いの貴族の養女にして、身分を並べます。ヘレン、一緒に行こう!!」

 貴族は戸惑うヘレンお嬢さんに手を差し伸べる。コクーン爺さんの説得は諦めて、ヘレンお嬢さんの情に訴えた。

 ヘレンお嬢さんは、何故か俺の後ろに隠れる。どうして!?

「お前は、ヘレンとは、どういう関係だ。あの汚らわしい肩書きで、まさか、ヘレンを」

「俺はヘレンお嬢さんのお世話になっているだけだ。何せ、汚らわしい身の上だ。ヘレンお嬢さんは、そんな俺を更生しようとしているだけだ。残念ながら、生きている年数の半分以上を支配者の娼夫だった俺は、更生しようがないけどな」

 俺が品を作ってちょっと笑いかけてやれば、貴族はちょっと心が揺れたように顔を真っ赤にする。女の経験値が足りないな。

「ヘレン、その男はもう手遅れだ。私たちとは生きてる世界が違う。こちらに来なさい」

「………わたくしは、もう、貧民ですから」

「迎えに来るのが遅くなってしまった。もう、苦労はさせない。一緒に戻ろう」

「今更、貴族など、無理です」

「君は、私の隣りで笑っているだけでいい。さあ」

 俺を間に置いて、押し問答である。俺は、ヘレンお嬢さんが後ろで隠れているので、動くに動けない。かといって、口出しは出来ない。

 どうしようかなー、とコクーン爺さんを見てみると、俺に何か訴えてきてくれる。いやー、俺に頼られたって、体使って、男を篭絡するだけだよ。

 目の前のお貴族様を篭絡かー。ちょっと体型が残念だな。よくある、文官タイプの貴族だな。ちょっと前に殺した貴族は、なかなかいい体してたな。惜しかったなー。

「それで、あんたの本当の目的は何?」

「お兄ちゃん!?」

 仕方がないので、間に入ると、レーリエットが俺を引っ張って、その場から退場させようとする。だけど、俺は男にしては力がないけど、女には負けないんだな。

「この女を連れて行きたい、て言ってるんだから、いいじゃない。それとも、お兄ちゃんは、この女のことが好きなの?」

「お前、なんて恐れ多いこと言ってくれてるの!? ヘレンお嬢さんは高嶺の花だぞ!! 観賞用だよ、観賞用」

「本当に?」

「ナナキ、レーリエットを引き取ってくれ。邪魔だ」

 俺がちょっと命じれば、建物の中からナナキが出てきて、嫌がるレーリエットを連れて行ってくれる。

「目的、言ってやろうか?」

「っ!?」

 貴族の顔がこわばる。それはそうだろう。真の目的は別にあるんだからな。その目的のために、ヘレンお嬢さんをどうしても連れて行きたいのだ。

「コクーン爺さんが断ってるのも、あんたたちの真の目的を知っているからだろう。ヘレンお嬢さんは知らないようだがな」

「どういうことですか!?」

 ヘレンお嬢さん、さっきまでも弱弱しい態度が消える。元婚約者だから、ちょっと夢みたいなことが起こっていると戸惑っていたが、実は違うということに、ヘレンお嬢さんはご立腹だ。乙女心を利用すると、後々、怖いんだよ、女は。

 貴族はすぐに表情を隠す。遅いけど。

「何のことだか、わからないな。私は、ヘレンのことが忘れられなくて、迎えに来たんだ」

「だったら、きちんと段階を踏むべきだ。こんな、武力を使って脅すようなこと、するもんじゃない。あれか、ヘレンお嬢さんは今は貧民だから、脅して連れて行けばいい、なんて考えたのか?」

「っ!?」

「図星か。腹芸が出来ないとは、若いな。いいか、女をあまり甘く見ないほうがいい。女はな、いざとなったら恐ろしいぞ。それは、貴族、平民、貧民、関係ない。ヘレンお嬢さんを連れて行きたいのなら、まずは、口説くことからだ。貴族同士の婚約だってそうだろう。まずは段階を踏んでからだ。力づくだなんて、貧民がやることだぞ」

「貴様っ」

「俺は力づくで娼夫に堕とされた。お前は、今、それと同じことをヘレンお嬢さんにしようとしている。力づくで連れて行く、ということは、そういうことだ。段階を踏め」

「一緒にするな!! こんな所にいるよりも、私の側にいるほうが、遥かにいい事だ!!!」

「貧民も捨てたものじゃないぞ。犯罪行為し放題だ。お前たちは、帝国の法律に縛られて、色々とあくどいことが出来ないだろう。身分と保障がないかわりに、やりたい放題だ」

「ヘレンを犯罪者にするつもりか!?」

「バカだな。ヘレンお嬢さんを犯罪者にしないために、俺みたいな奴が手を汚すんだよ。お前は、手を汚すことすら出来ない腰抜けか。そんなんで、ヘレンお嬢さんを連れて行こうとはな。片腹痛い。出直してこい」

 甘っちょろい貴族が、口でも行動でも、俺に勝てるはずがない。

「だったら」

 そうして、とうとう、貴族は武力に物を言わせようとする。

 途端、貴族が連れてきた騎士たちを包囲するように、コクーン爺さんが鍛えた騎士たちや兵士たちは姿を見せる。それぞれ、統率された行動に、貴族が連れてきた騎士たちは、慌てて武器を構えるが、剣だって抜けない。だって、互いが近すぎて、危ないのだ。

「戦争バカの一族に武力で勝とうなんて、無駄なことを。出直せ」

「ヘレン!!」

「行きません!! 利用されるなんて、まっぴらです!!!」

 ヘレンお嬢さんは貴族を拒絶した。真実が見えないのだから、そうなるだろうな。

 ヘレンお嬢さんが拒絶したことで、コクーン爺さんも動き出した。

「ここで、お前の首をとって、送り帰してもいいんだぞ。お前では、ワシには勝てん」

 コクーン爺さんは剣を抜き放ち、殺気を漲らせる。おう、こわっ。

 貴族は仕方がない、と一歩下がる。

「貴様、名前は?」

 何故か、俺に聞いてくる。えー、さっき、ヘレンお嬢さんが俺の名前、叫んだじゃん。

「まずは、あんたからだ」

 とりあえず、誤魔化した。どうせ、俺の存在はゴミに見てたから、覚えていないんだろうな。

「私は、侯爵家次男ミリアム」

「一年前まで、王都の貧民街の元支配者の娼夫をしていたルキエルだ。良かったら、一度、俺を買ってくれ。夢を見せてやる。よくわからないが、俺を抱いた男は、いい夢を見れるという」

 誘うように笑って言ってやれば、侯爵家次男ミリアムは、ちょっと心が揺れたみたいに呆けた。

 こんな時でも商売する俺に、コクーン爺さんは呆れて、殺気をひっこめた。

「お主は、どうしてそう、残念なんじゃ」

「仕方がない。ほら、ミリアム、まずは、段階を踏んでからだ。女は皆、お姫様のように扱われたい、と夢見ている。優しく段階を踏むか、力づくで強奪するか、もう一度、考えるんだな」

「そうだな」

 分が悪い、とやっと気づいたミリアムは、騎士を引きつれて去っていった。





 俺は、何故かコクーン爺さんの私室に連行された。力では、男に絶対勝てないので、仕方がない。

 コクーン爺さんの私室には、ワシムも同席となる。ヘレンお嬢さんは別の用事を押し付けられて、同席を許されなかった。

 俺はワシムがいれた茶を飲みつつ、コクーン爺さんの向かいに座る。いつもなコクーン爺さん、斜め前の上座なのに、珍しいな。

「客人なのに、面倒事に巻き込んでしまって、すまん」

「俺だけでなく、妹や、その護衛まで世話になっているし、この街で身売りも許してもらっているから、気にしていない。それで、あの男の目的、コクーン爺さんは気づいてる?」

 その場では、侯爵家次男ミリアムに、裏の目的があるようなことを俺は言ってやったが、コクーン爺さんは気づいているのかどうか、謎だった。何せ、ヘレンお嬢さんは、気づいていないのだ。

「わからん!」

 やっぱりー。

「ただ、何かある、とは感じていた。勘じゃな」

「さすが、戦争バカの一族だ。その勘、大事にしたほうがいい」

「褒めてる? 貶してる?」

「褒めてる!!」

 ちょっと疑い過ぎだ。

「勘というものは、あながち、無視してはいけないものだ。ヘレンお嬢さんも、なんとなく、感じていたんだろう。でなければ、あんなふうに迎えに来られたら、心だって揺れる」

「………」

 なんか、物言いたげに見られる俺。何か、間違ったこと言った!? コクーン爺さんだけでなく、ワシムまで、呆れたように俺を見てくるよ。

「俺なりに、あんたの一族の経歴は調べたし、ヘレンお嬢さんからも聞いている。すぐそこの子爵家の領地、元はあんたの一族の領地だったんだってな」

「知っておったのか!?」

「あんた、有名なんだよ。ちょっと調べれば、わかる。元領地から近い貧民街を牛耳っているんだ。あんたを慕う奴は、噂を聞きつけて、集まってくるさ」

「そんなに有名になってしまったか」

「だから、良からぬことに利用される。ヘレンお嬢さんを使って、侯爵家は、あの子爵家の領地を乗っ取ろうとしてるんだよ」

 貴族はずる賢くなければ、その地位を守れない。

 コクーン爺さんの一族は戦争バカだ。戦争さえあれば、その地位を守っていられた。しかし、皇帝ラインハルトは、戦争を永遠になくしたのだ。そのため戦争しか出来ない貴族は用無しとなった。

 コクーン爺さんは、貴族の足の引っ張り合いで負けたのだ。

 しかし、それで終わらないのが貴族の足の引っ張り合いだ。

「どうして、ヘレンが必要なんじゃ?」

「契約だ。ヘレンお嬢さんが領地を引き継ぐこととなっていたのだろう。そのため、ヘレンお嬢さんは婿養子をとらなければならなかった。そこに目をつけたのは、侯爵家だ。侯爵家は、次男をヘレンお嬢さんの婚約者に押し込んだんだ。あんたたちは戦争バカの一族だ。利用されても気づかないから、契約までしたんだろう」

「しかし、我々は貴族でなくなった。ヘレンを連れて行ったところで、契約は無効じゃ」

「そうではない。帝国は弱肉強食だ。強者こそ正義だ。無効となった契約も、強者であれば、有効に出来てしまう。ヘレンお嬢さんとの婚姻によって得られる領地の契約書を持ってすれば、領地戦の理由付けが出来る」

「っ!?」

 ここまで話せば、コクーン爺さんも、ワシムも、侯爵家の裏の目的に気づいた。

 そう、ヘレンお嬢さんと侯爵家次男ミリアムを結婚させ、契約を有効にするのだ。そして、その契約を元に、子爵に領地戦を申し込む。

 こんなバカバカしいことを考えてしまうのが、足の引っ張り合いで生き残っている貴族たちである。

 領地なんて、面倒臭いってのにな。俺は一生、貧民で自由気ままに生きていこう。

 貴族の裏の目的は暴露した。だけど、このまま、あの貴族は黙って引き下がるわけがない。

「この後、どうなる?」

 コクーン爺さんにしては、ちょっと不安そうに俺を見てくる。

「そんなこと、気にしなくて、いつも通りにすればいいだろう」

「ワシはな、戦争しか知らん。こういう裏や表があることは、読めない」

「俺だって読めないけど」

「ワシよりは、読めるじゃろう」

「ルキエル、頼む!!」

 ワシムまで頭を下げてくる。えー、責任重大だなー。

「間違っていても、怒らないでくれよ」

「参考じゃ、参考」

「まずは、下調べをするだろうな。コクーン爺さんが持つ武力を調べて、侯爵家はそれ以上の武力を持って、強襲してくるだろう。そこは、弱肉強食の帝国だ」

「そんなことをして、皇帝は黙っていないだろう」

 あまり大きな武力をぶつけることは、帝国に叛意を持つ、と言われかねないことだ。

「相手が貴族平民だったらな。だけど、ここは貧民街だ。貧民街は、帝国にとって制御出来ないところだ。そこの掃除をしました、と言われてしまえば、帝国だって黙っているしかない。領地戦は許可が必要だが、貧民街はそういうのがないからな。それに、婚約者のヘレンお嬢さんを保護しに来た、なんて言い訳だって出来る」

「そうか、それで、内戦か」

 俺が貴族相手に、内戦、と口にした理由をコクーン爺さんは今更ながら気づいた。

 俺はてっきり、その場で内戦でもして、ヘレンお嬢さんを強奪するものと思っていた。しかし、あのお貴族様、頭だけのボンボンだ。そこまで考えていなかったのだろう。武力が少ないなー、と思ってみていれば、ただの脅し用だったのだ。脅せばヘレンお嬢さんも従う、なんて考えていたのだろう。

「今回、失敗したから、次は内戦だろうな。さて、どれくらいの武力を投入してくるのか、楽しみだな」

「お前、他人事みたいに」

「悪いが、今回のことでは、俺は役立たずだ。他人事になる。危険だとわかったら、逃げる」

「最低だな!?」

「誉め言葉だ」

 どんなにワシムが責めたって、俺はこれっぽっちも気にしない。

 俺はいまだに、どこなに属しているわけではない。ここでも、客人なのだ。危なくなったら逃げるのは、貧民特有である。

「武力を集めるにしても、それなりに時間がかかるだろう。明日にでも、レーリエットは王都に行ってもらろう」

「ルキエルも王都に逃げるか」

「王都には行かない。あそこには、ろくな思い出がないからな」

 王都に戻れば、間違いなく、俺は誰かの娼夫に堕ちる。だから、王都にだけは行かない。

 もう、俺がどこの誰なのか、コクーン爺さんも、ワシムも、知っている。王都で、実の父親に閨事を強要され、今では、男なしでは生きていられない身の上だ。

「俺が出来ることは、神と妖精、聖域に祈るくらいだ」

「随分と信心深いな。妖精憑きだからか?」

「友達が、よく、そういう言葉を使っていた。受け売りだ」

 妖精憑きだから、妖精が見えるけどな。

 俺の傍らには、俺にしか見えないが、帝国最強の妖精憑きハガルの最高位妖精カーラーンが護衛としてくっついている。俺がまともな文句を口にしたので、無茶苦茶、驚いていた。

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