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魔法使いの悪友  作者: 春香秋灯
嫁取り
16/40

最果ての貧民街の支配者

 身辺整理を失敗した俺は、面倒臭いこととなっていた。

 姉リンネットの置き土産だ。あの女、俺の情報を貴族に売りやがったが、売り先がどうやら、貴族だけではなかったことが、後々、わかった。

 はるばる、最果ての貧民街の支配者が、俺の身売りに使っている店にやってきた。

 物凄い数の手下連れて、やってきやがったよ。本当にやめてぇ!!

「俺が可愛がってやるし、不自由はさせない。最果てに来い」

 なかなかの見た目の男だ。俺より若いかな。若い力で、最果ての貧民街を牛耳ったんだな。俺の手を握ってくるが、なかなか使い込まれてるよな。手の皮が堅くて、分厚くて、傷だらけで、いかにも、男!! という手で、羨ましい限りだ。この手が欲しかったな、俺。

 最果ての貧民街の支配者ヤイハーンは、俺の手を触り心地を堪能する。

「いいな、この手。離したくなくなる」

 頬ずりまでしてきたよ。

「僕のルキエルの手を触るな」

 俺の横では、王都の貧民街の支配者ナナキが、俺の手から力づくでヤイハーンの手を離させた。

「そうよ、お兄ちゃんに触らないで!! 汚らわしい」

 潔癖症な俺の妹レーリエットが、蔑むようにヤイハーンを睨む。

「レーリエットも一緒に、最果てに来い。俺の正妻はレーリエットだ!!」

「俺の妹を口説くな!! 俺の審査は厳しいぞ。交際すら、許してやらないからな!!!」

「お義兄さんも一緒に、可愛がるから」

「俺の可愛い妹に邪な目を向けるな!!」

 ヤイハーンめ、俺目当てで海の貧民街まで来たくせに、俺の可愛い妹レーリエットに一目惚れしやがった。絶対に許さん!!

「お前ら、迷惑だから、それぞれの家に帰りなさい」

 連日、こんな迷惑な騒ぎを起こしているので、海の貧民街の支配者コクーン爺さんが駆り出されていた。好々爺みたいな顔をしているが、物凄い武人だ。剣を持たせれば、この中では、一番、強いよ。

 なんと、帝国にある五大勢力の内、三つも俺の周りに集結した。もう、どうしろっての、これ!?





 俺の姉リンネットは、さる貴族に俺の情報を売って、俺を利用して、貴族に取り入った。が、身の程をわきまえていなかったので、貴族の逆鱗に触れ、リンネットは貴族に殺された。

 俺の情報をリンネットから買った貴族は、俺の力で消えてもらったので、もう平和かと思われた。が、リンネット、俺の情報を他にも売っていたのだ。

 帝国には五つの貧民街が存在する。その中で、最大勢力なのは、最果ての貧民街である。何せ、最果ては広大だ。貧民街も広大である。貧民の数も、かなりのものだ。リンネットは、最果ての貧民街の支配者に取り入ろうとしたのだ。中身はともかく、見た目は物凄い美人だ。ついでに、王都の貧民街の支配者の身内だ、という肩書きを勝手に使って、近づいたのだ。そして、どうにか最果ての貧民街の支配者ヤイハーンの女たちの一人となった。リンネットは、どうにか、ヤイハーンの女として、一番になるため、俺の情報を売ったのだ。しかし、肝心の俺がどこに行ったのかわからなくて、俺の情報は意味がなかった。それも一年して、俺の噂が帝国中に流れ、貴族からヤイハーンの元に、俺の誘拐の依頼がきたわけだ。それを盗み聞いたリンネットは、俺を使って貴族に取り入ろうと、ヤイハーンを裏切り、王都の昔の手下を使って、俺を誘拐しようとしたわけである。本当に、あの女、どうしようもないな。

 リンネットが裏切り、貴族も消され、ヤイハーンは怒りが収まらない。そうして考えていると、リンネットから聞いた俺の話を思い出したのだ。そして、貴族から依頼された誘拐する対象者が、リンネットの弟であることに気づいた。

 リンネットは、貴族にも、俺が妖精憑きであることを話した。ヤイハーンにも、俺が妖精憑きであることを話しただろう。俺の噂は色々と流れているので、興味を持ち、ヤイハーン自身が、海の貧民街までやってきたのだ。





 そして、現在、不毛なこととなっている。王都の貧民街の支配者ナナキは、一度、王都に戻ることとなっていた。俺を手に入れようとしていた貴族も始末したので、王都に戻ろうとした矢先に、最果ての貧民街の支配者ヤイハーンが来て、俺を口説きだしたのだ。それを目の前でやられて、怒り狂ったナナキは、俺から離れなくなった。

 ナナキは単独行動しない。俺の命令で、俺の妹レーリエットの護衛をしている。だから、俺がヤイハーンに口説かれている現場には、レーリエットもいたのだ。レーリエットは俺のこと、大好きだから、怒り狂ったわけだ。レーリエットは、物凄く可愛い。潔癖症であるが、その姿は可憐な可愛らしさだ。そんなレーリエットにヤイハーンは一目惚れした。

 ヤイハーンは、妖精憑きの俺だけでなく、レーリエットをも連れて行こうとするので、兄である俺が怒り狂うこととなる。レーリエットは、俺の良心だ。そこらの男にやるわけがない。大金積んだって、やらない。力づくでこようものなら、俺も容赦なくヤイハーンを潰してやる。そんなことを公然と言ってしまったから、海の貧民街の支配者コクーン爺さんが仲裁に入ることとなったのだ。

 身売りを仲介する店が、とんでもない修羅場となって、もう、商売どころではない。客だって逃げていく。店長なんか、プルプルと店の端で震えちゃってるよ。文句言おうにも、五大権力者の内の三人が相手では言えない。命が惜しいよね。

「あ、ユーリ!!」

 こんな騒ぎに、運悪く店に来てしまった騎士ユーリは、俺に呼ばれちゃう。いや、悪気はないんだよ。

 ユーリは海の貧民街の支配者コクーン爺さんとこに所属する騎士なんだけど、俺のことが大好きだ。お付き合いを申し込まれているが、ユーリの下半身は、ちょっと足りなくて、お断りしたのだ。過去、付き合った男タリムは、完全に体目当てだ。俺と付き合うには、まず、体が俺好みでないといけない。だから、俺は永遠にユーリとはお付き合いしない。ごめん!!

「ルキエル!!」

 あんなに俺に振られているというのに、ユーリは純粋だ。俺に呼ばれると、嬉しそうに駆け寄ってくる。俺は、こんな悪い空気の輪からさっさと出ていく。

「ユーリ、今日は部屋代だけでいいから、俺と閨事してほしい。今日はユーリがいい」

 俺はユーリに抱きつく。今日は、ユーリな気分なんだな。今、わかった。

 ユーリは嬉しそうに笑い、俺を抱きしめてくれる。ユーリも体格いいよな。男!! て感じで、羨ましい。こういう筋肉も欲しかった。

「お前、勝手に逃げるな!! だいたい、先に話をしていたのは、俺だろう!!!」

 ヤイハーンが俺の腕を引っ張る。

「今日はユーリの気分だ。ヤイハーンはまた今度な。最果てに帰れ帰れ」

「この、とんでもない性悪だな、こいつは!?」

「そういう所がいいんだ。ルキエル、終わるまで、ここで待っていよう」

 ヤイハーンと違って、ナナキは俺のこと、よくわかっているな。俺が他の男と閨事しても許してくれる。ナナキは、俺が求めるもの全て持っていて、満たしてくれる。邪魔なヤイハーンを俺から離してくれる。

「もう、お兄ちゃん、身売りなんかやめて、王都に戻ろう!!」

「王都には、絶対に行かない」

 いくら可愛い妹の頼みでも、それだけはいやだ。王都には、俺を男なしでは生きていられなくした親父の思い出がいっぱいだ。二度と、王都には行かない。

 俺が見るからに不機嫌になったので、レーリエットは泣きそうな顔をしながらも、黙り込んだ。レーリエットは、俺に嫌われたくないので、我慢した。可哀想だけど、そこだけは、俺は譲れない。

「ほら、商売の邪魔だ。それとも、ヤイハーンは、この店の一日の売上の金を落としてくれるのか? 連日、邪魔してくれて、やっていけない女が、もうそろそろ、出てくるぞ」

「わかった。これまでの損失は、俺が出そう」

「さすが最果ての貧民街の支配者様だ。懐がでかいな」

「だから、今日のお前の相手は、俺だ」

 そうきたか。お世話になっている店の損失を補填するなんて、かなりの額だ。条件だってつけるよな。

「今日は、ユーリの気分だ」

「しかし、それでは」

 騎士であるユーリは、身を引こうとする。それを俺はユーリの体に抱きついたまま離さない。

「三日後、来てくれ。その日は、ヤイハーンの相手をしよう。それまで、男の抱き方を勉強してくるんだな」

 ヤイハーン、まだ、俺と閨事したことがない。何せ、俺を口説いている所に、横やりがいっぱいやってきたのだ。そこから先に進めていない。

「い、いや、俺はそういうつもりは」

「可愛がってくれるのだろう? ぜひ、俺を女のように可愛がってくれ。大丈夫だ、俺は乱暴にされても、喜べるように仕込まれている」

「………わかった」

 楽しみだな。ヤイハーンの体は立派だ。下半身も期待しよう。俺が流し目を送ってやると、ヤイハーンは頬を赤くして、見惚れてくれる。うーん、俺の見た目、また、綺麗系に向かっていってるな。

 やっと、それなりに静かになったところで、俺はユーリと部屋へ行った。

 部屋に入ると、途端、ユーリは我慢の限界のように、俺を壁に押し付け、口づけする。この男は、本当に俺のことが好きで、激しく求めてくる。

「ベッドに」

「す、すまない」

 俺はすぐ、腰砕けてしまうので、ユーリは俺を抱いて、ベッドに連れていってくれる。俺をベッドに下ろすと、すぐに圧し掛かって、口づけする。

 しばらく、舌を絡めてくるユーリ。それが長い。真面目だから、いくつもの動作が出来ないのだ。一つ一つ、段階をふんでいくのがユーリだ。


 ユーリは何もかも実直で不器用だ。そのため、見た目はいいのに、付き合う女からは、すぐに捨てられる。申し込みは女から、捨てるのも女からだ。付き合ってみると、女にとって、ユーリは詰まらないという。

 そんな生真面目なユーリは、最初、俺のことが大嫌いだった。身売りをして、鍛錬は中途半端で、ともかく目ざわりだ。そんな俺をちょっと痛めつけてやろう、と騎士たちや兵士たちが、身売りをしている俺を買うのだ。ユーリもそうだった。

 俺を抱くと、男は皆、自信を持てるようになる。どんな男でも、俺は喜ぶ。どんなに下手でも、俺はきちんと受け止める。

 それは、ユーリ相手でも同じだ。これまで付き合ってきた女たちが満足しなかった閨事でも、俺は満足する。

「芝居はやめろ」

「芝居ではない」

「これまで付き合った女は、全て、詰まらない、と言った」

「一つ一つ、丁寧なんだ。いいことだ」

「嘘をつくな!?」

「お前のような閨事も、たまにはいいな。穏やかで、足りないものを満たしてくれる。気が向いたら、また、抱いてくれ」

 俺は正直に言っただけだ。こういう不器用さも良かった。一つ一つ、丁寧にしてくれるので、もどかしくて、貪欲に求めると、満たしてくれた。ちょっと、剛直は足りないがな。そこだけは、残念だ。

 それから、ユーリは俺に夢中になってしまった。週に一度は俺を買い、どんどんと深みにはまっていき、それが好意となっていったのだ。

 女の巡り合わせが悪かったんだろうな。俺みたいな女、探せばいるんだが、ユーリはめぐり合えなかったんだな。気の毒に。

 だからといって、俺の信念は変わらない。ユーリとは付き合わない。そこは絶対だ。





 基本、俺は店では寝ない。俺を買ったお客さんは店で一泊するが、俺はさっさと帰る。一泊しようか、帰ろうが、料金は同じだ。だけど、俺は海の貧民街の支配者コクーン爺さんとこでお世話になっているので、外泊しないようにしている。あの爺さん、心配性だから。

 今日も、俺はさっさと帰る準備だ。ユーリはというと、ベッドに倒れたまま、俺を不思議そうに見ている。

「体力がないというのに、歩いて帰られるのが、不思議だな」

「ユーリは、泊まり? 随分と体を使ったから、一泊するなら、俺からコクーン爺さんに伝言しておくよ。早朝訓練、たまには休んでも、怒られたりしないって」

「いや、一緒に帰りたい。もう少しだけ、ここにいてくれ」

「いいよ。一晩は、俺は、ユーリのものだ」

 俺は横になっているユーリに抱きつく。

「ユーリは、コクーン爺さんに憧れて、わざわざ、ここまで来たんだってな」

「誰から聞いたんだ!?」

「皆、言ってるし、俺を買う騎士どもや兵士どもが、べらべらと話してくれる。そしていうんだ。どうか、ユーリを受け止めてやってくれ、と」

「っ!?」

「お前が俺に誠実で、本気だから、応援してんだよ。いい奴らだな」

「面白がってるだけだ」

 顔を真っ赤にしていうユーリ。可愛いな。ついつい、俺はユーリに口づけしてしまう。

 たった、それだけで、ユーリはまた、俺をベッドの奥に引きずり込み、上に圧し掛かる。若いなー、こういうとこが。

「すまない、元気に、なって、しまって」

「ダメに決まってるだろう!!」

 待てが出来なかった王都の貧民街の支配者ナナキが部屋に入ってきた。

「ほら、体力のあるうちに帰りましょう!!」

「ユーリと帰る。ナナキは先に帰ってろ」

「続きやるつりもでしょう!!」

「明日の朝までは、俺はユーリのものだからな。そこは仕方がない。出て行け」

「いやです!!」

 ナナキ、順番待ちなんてしない。だって、こいつは王都の貧民街の支配者だ。身分的には、ユーリより、ナナキが上だ。

「俺は我慢するから、帰ろう。それに、今日は部屋代だけで、身売りの金は出していない」

「やっぱ、ユーリ、続きやろう」

 いい奴だな。俺はユーリに抱きついて離れない。

「俺のことよりも、レーリエットのほうに行け。レーリエットに悪い虫が取り付いたら、俺が許さん」

 レーリエットまで、店で待ってるよ。店の中だとはいえ、ここは貧民街にある店だ。万が一ということがあった場合、相手が大変なことになる。

 俺は妖精憑きだ。たぶん、そこら辺の野良の妖精憑きよりは強い。そんな俺にとって、妹のレーリエットは大事だから、危険がないように俺の妖精を護衛に付けている。俺は、ナナキにレーリエットの護衛を命じているが、それは、レーリエットに付いている俺の妖精の復讐を防ぐためだ。

 人は神の使いである妖精には、絶対、勝てない。そんな妖精をレーリエットの守りに俺は使っている。妖精はレーリエットを守るように命じているが、守り方まで、俺は指定していない。こういう場合、だいたい、妖精はレーリエットに悪意を持って手を出した相手に復讐するのだ。だいたいは、その場で絶命させられて終わりである。

 そういう無駄死にを防ぐために、ナナキを護衛につけている。ナナキという最強の防衛を突破するような相手なら、仕方がないので、死んでもらうしかない。

 ナナキにとって、俺の命令は絶対だ。俺から離れがたいが、大人しく、ナナキは従って、部屋を出ていった。

「これで、邪魔者はいなくなった」

 俺はユーリに口づけし、押し倒した。いつもと逆なのに、ユーリは驚く。

「たまには、ユーリのものを舐めたい」

「い、いや、それはっ」

 ユーリ、色々と頭が凝り固まっている。これまで付き合った女にも、そんなことさせていないのだろう。だから、ユーリは俺の肩をつかんで止める。

「いいじゃないか。今日はそうしたい。俺がこうするのは、珍しいんだぞ。ナナキにだってしていない」

 一年前、俺が見捨てたタリムには、閨事のたびにしていたけどな。そこは黙っている。

 物凄い葛藤だろう。俺を止めるために肩をつかんでいるユーリの手、そんなに力がない。俺がユーリの手に口づけして、そのまま、ユーリの口に深く口づけする。再び、ユーリはベッドに倒れる。

「したい。いいだろう?」

「………」

「どうしても、口でしたいんだ。ほら、いいと言ってくれ」

 ねだるように頬や額、首へと俺は口づけを落とす。そうして、どんどんと下へと移動していくと、もう、ユーリは抵抗しない。口では何も言わないが、堕ちたな。

 それから、ユーリの理性は壊れ、乱暴にされたり、肩を嚙まれたり、と散々なことをしてくれて、それを俺は喜んだ。





 身売りでの泊まりは、これが初めてのことだった。目を覚ませば、眠っているユーリにしっかり抱きしめられ、出るに出られなくなっていた。

「そうか、ユーリは噛むのを我慢していたのか」

 口説かれて、随分と経ったが、ユーリは何か我慢しているような感じがしていた。だから、女にとって詰まらない存在となってしまったのだろう。

 生真面目なのも、抑圧からだ。ユーリはきっと、抑圧されて、成長したのだ。

 随分といい寝顔をしている。ついつい、眠っているユーリに口づけした。それに何か感じたのか、それとも、日頃の習慣からか、ユーリはうっすらと目を開ける。

 そして、目の前の俺を見て、飛び起きた。

「す、すまない!!」

 顔を真っ青にして謝るユーリ。昨夜のこと、思い出したんだな。

 俺は肩に触れる。うわ、けっこう、噛まれたな。血は止まっているが、触ると、すごいことになっている。

「痛いのも気持ちよくなるように、仕込まれているから、気にするな。ここで身売りを始めてからずっと、皆、お行儀が良い奴らばかりだ。こういうのは、ここに来て初めてだな。良かった」

 俺はユーリに口づけする。

「また、噛んでくれ」

「そんな、言われても、そう簡単に出来ることでは」

「出来る時でいい。噛まなくても、乱暴に扱ってもらえるだけでいい。昨夜は最高だ」

 ユーリの胸に寄りかかるようにしてくっついた。ユーリは、俺を抱きしめ、口づけを落としてくれた。

「俺も、良かった」

「ユーリだからだろうな。他の奴では、こうはならない。次も、部屋代だけでいい」

「ルキエル?」

「身請けだけの関係は終わりだ」

 とうとう、俺のほうが堕ちた。

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