本物
ちょっと前に、俺を誘拐しようとした奴らの尋問、コクーン爺さんはすぐに終わらせてくれた。やっぱり、その道の人にやらせると、早いね。俺はねー、尋問相手が男だから、体篭絡してから、と時間かかっちゃうんだよ。あ、一人、篭絡済みだったな。
もう、俺一人で行動させてくれないナナキとレーリエット。出来るなら、レーリエットはご遠慮願いたいんだけどね。あまり、見せたくない。
尋問後の男たちは、大変な状態である。
「こいつら、どうする?」
「てっきり、コクーン爺さん、殺して埋めちゃうと思ってたんだけど」
「ワシらには関係ない奴らだからな。判断は、ルキエルに任せる」
「任せるって、もう殺したほうがいい感じだけど」
見慣れた光景である。レーリエットが心配でちらっと見てみれば、平然としている。そうか、レーリエットも親父から、こういう英才教育受けちゃったかー。やっぱ、親子だな。
「依頼主の名前は聞いたことがないな。偽名だろう。貴族らしいが、どこの誰かなー?」
「こいつら、王都の貧民街で活動している奴らだ」
「俺の弱点を知ってるのが気になる。依頼主は、誰に聞いたんだ?」
「知り合いの貴族にいるのか?」
「もう、この世にはいないな」
俺の弱点を知っていそうな貴族は、ハガルが妖精の呪いという刑罰で、一族ごと消滅した。貴族同士は、足の引っ張り合いだ。こういう秘密は、簡単に外部に漏らさないだろう。
俺の身売りの噂は、相当、遠くまで流れているはずだ。何せ、この噂を聞いて、ナナキとレーリエットがわざわざ海の貧民街まで来たのだ。ルキエルではなく、王都の貧民街の元支配者の娼夫に興味を持つ輩はいるだろう。そこに、貴族がいたとしても、俺の弱点を知っているのはおかしい。
「もう少し、ワシのほうで、調べてやろうか?」
「いや、そこまではいい。しばらくは、身売りの仕事は休もう。また、同じような方法で誘拐されそうだ」
「だったら、僕が護衛しますから、貧民街を案内してください」
「さっさと王都に帰れ」
「そうですね。さっさと王都に戻って、支配者を誰かに押し付けてきます!」
どっちにしても、ナナキは側に戻ってくるのか。面倒臭いな、こいつ。
「お兄ちゃんにあんなもの使って誘拐しようとするなんて、汚らわしい」
レーリエットは、やっぱ、潔癖症だな。妖精を狂わせる香を使われたことを知って、蔑むように誘拐犯たちを見下ろす。
「たまに使われると、楽しかったけどな。あれはあれで良かった」
「もう、お兄ちゃん、いやらしい顔してる!? その顔、嫌い!!」
「仕方がない、そういうのが大好きなんだから。最近、やってないなー。ユーリに頼もうかな」
「お兄ちゃん!!」
「冗談だ、冗談。ここでは身売りしない」
身売りはしていないけど、閨事はしたことあるけど。一度目は敵として捕まえたタリム、二度目は目の前でボロボロになってる奴。ユーリにこっそり、閨事頼もうかな。
俺の考えを読めるほど理解を深めた最高位妖精カーラーンは、蔑むように俺を見下ろしてくれる。ここで閨事する場合、カーラーンの協力は必要だ。人払いから防音まで、最高位妖精様は万能だからね。
「ナナキ、こいつら、楽にしてあげて」
「わかりました」
俺のご指名に、ナナキは大喜びだ。俺自身の手でやってあげたいが、妖精殺しの短剣をナナキの目の前では使いたくない。使ってはいけないような予感がする。
「王都の貧民街にいながら、ルキエル様に手を出すとは、身の程を知らぬ若造には、生きている価値はない」
支配者の顔をして、ナナキは誘拐犯たちを殺した。
最後に閨事をしたのは、あの誘拐犯を相手にした時だ。動けない男を下にして、一方的に俺が動いてただけなので、ちょっと物足りなかった。妖精を狂わせる香による情欲は、まあまあ落ち着いたかに見えたが、それから身売りもしていないから、満足いかなかったようだ。
レーリエットはぐっすりと眠っている。明日には、王都に戻るというので、今日も同衾である。妹相手に、間違いを犯すことはない。
ナナキは、寝ているかと思ったら、起きていた。床で寝ながら、物言いたげに俺を見上げている。
「悪い、起こしたみたいなだな」
「僕がお相手しましょうか?」
「………お前はちょっと」
「男だからですか?」
「いや、その、お前のものが、想像つかない」
この綺麗な顔の男の下半身が想像できない。元妖精なんだけど、あるんだ。だって、昔は俺がナナキの面倒を見ていた。服だって脱がして、風呂にも入れたんだ。きちんと男だと確認出来るものが、下半身にあったことを思い出す。
ナナキと出会ったのは、ナナキが幼い姿だった。可愛かったな。下半身も可愛かったな。あれが、成長したんだけど、どうなっているのか、わからない。小さいままだったら、俺のほうががっかりしちゃうよ。
「あの男がするように、出来ますよ。よく、盗み見ていました」
迫ってくるナナキ。俺の隣りには、潔癖症のレーリエットがいるんだけど!!
「あの妖精に防音とかさせればいい。レーリエットには、眠りの魔法をすれば、朝まで起きない。ちょっと、変は夢を見るかもしれないがな」
「床でやるのか!? 悪いが、きちんとベッドでやったぞ!!」
この部屋でも、一応、ベッドで閨事した。床は親父相手でも、やったことは、あるけど、それは俺への罰だ。俺が抵抗したから、床に押さえつけられて、痛い目にあわせながらの閨事だ。
ナナキは俺をベッドから床へと引きずり落とす。俺は力がないので、ナナキにされるがままだ。あっという間に、俺とナナキは逆転する。俺は床に転がされ、ナナキは俺の上に圧し掛かる。
「男になって、後悔した。女だったら、ルキエルの子が産めた」
「良かったな、女だったら、永遠に圏外だ」
「そうだな」
ナナキは俺に深く口づけし、俺をうつ伏せにし、背中を服の上から撫でる。
「ここに、契約の跡がある。僕のルキエル様に、こんな契約を施すなんて!! 痕跡といえども、許せない!」
服の上から、ナナキは俺の背中を撫で回す。その感触に俺はのけ反る。もう痕すらなくなったはずの皇族に絶対服従の契約紋をナナキは見えるかのようになぞっていく。そうされると、思い出してしまう。
一度だけ、皇族に服従させられた苦痛を。
契約紋をなぞるように触れられ、苦痛を思い出させるも、それを塗り替えるような、しびれるような悦楽が与えられる。そうして、苦痛の記憶が、ナナキから与えられる悦楽へと塗り替えられ、俺の全身は震える。閨事など、児戯だと思い知らされるほどの、恐ろしい悦楽だ。それをナナキは手で触れただけで与えるのだ。
振り返り、ナナキを見る。ナナキは恍惚な顔で、俺の背中を見ていた。どんどんとナナキに染められる俺の背中。それが終わると、服の上から、なぞるように口づけを落とされる。そして、振り返って、息を荒げる俺に、深く口づける。
「これで、僕のルキエル様だ」
「もう、様をつけるな、ナナキ」
「もっとルキエル様に支配されたい」
「本物が欲しい」
俺はナナキの下で体を仰向けにして、ナナキに口づけする。
「本物?」
「ハガルと皇帝みたいな、あんなものに、なりたい」
心の奥底から、そう願う。あんなふうになりたい。
ハガルと皇帝を見てしまった。あんなものを見てしまったら、求めてしまう。ナナキを本物にしたい。
俺がどのような顔をしているのか、わからない。きっと、情欲に溺れているだろう。そんな俺を見て、ナナキは嬉しそうに笑い、口づけを返してくれる。
「ルキエル、僕のルキエル」
ナナキは俺に支配されたい、と願った。だけど、今、俺がナナキに支配されている。
そこから、意識を失うまで、ナナキに蹂躙された。
最高位妖精様様だ。あれほど大変な状態だったというのに、カーラーンが何も言わないでも、後処理をしてくれた。俺は、気づいたら、ベッドで横になっていた。ベッドの横には、ナナキが膝をついて、俺の上に頭を乗せて甘えていた。
「重い」
俺はナナキを押し離して起きた。カーラーン、本当にいい奴だな。体力まで回復してくれてる。あんなに濃い閨事をしたから、色々と覚悟していたが、気だるさもない。頭のほうもすっきりだ。数日、苛まれていた物足りなさがなくなった。
「すっきりした」
「お前、他にいうことがあるだろう!?」
カーラーンが黙っていられなくて、俺に怒る。
「ナナキ、俺のことは、呼び捨てにしろよ」
「他にもいうことがあるだろう!!」
「今度は、レーリエットのいないところでやろう」
「違うっ!! あんなに互いを求めあっていたというのに、なんだ、これは!? もっと、こう、いうことがあるだろう!!」
「煩いな、カーラーン」
どうも、カーラーンは、夢見がちなところがある。そんな、甘っちょろいもの、俺にあるわけがないだろう。
「最低だな!!」
「若いな。こういうとこがいいんだ」
閨事では、あんなに俺を支配していたナナキは、日中ではすっかり俺に支配されちゃってるよ。それを喜んでいるナナキ。それを見て、カーラーンは頭を抱える。
「こんなのが本物だと? ハガルと皇帝は、もっと、こう、違ったぞ!!」
「お前な、人の数だけ、本物の形があるんだ。同じものばっかりだと、詰まらないだろう。俺とナナキは、これでいいんだ」
「………」
納得はしてもらえたようだ。しかし、カーラーンの中で、俺とナナキの関係は、残念でならないようだ。本当に、夢見過ぎだよ、この妖精は!!
「じゃあ、ナナキ、今日こそは、王都に向かって行ってくれ」
「離れたくない」
「一緒にいるための、必要な儀式だと思え。あとくされなくしてから、レーリエットと戻ってこいよ」
「レーリエットを置いていってはダメ?」
「レーリエットの護衛は、ナナキの役割だ。忘れるな。王都に戻る時は、レーリエットも一緒だ」
「それはいいが、往復で、時間がかかる」
「そうだ。それがいい。時間をかけて、往復しろ。時間をかけて、長く離れて、次、会った時は、想像以上の喜びだろうな」
「………そうだな」
想像したのだろう。もう、一年以上、離れていたしな。一年ぶりの再会を思い出して、物凄く嬉しそうに笑うナナキ。ごめん、俺はその時、面倒くさいのが来たな、なんて思ってた。
次の再会は、どんな気持ちになるのか、想像がつかない。もし、ナナキが俺の本物だったら、すごいことになるのだろう。
ナナキにとって、俺は本物だ。だけど、俺にとってナナキが本物となるかは、まだわからない。心も体も縋りついてくるナナキは、無償で全てを捧げてくる。人によっては、それは重い、と言われるだろう。
実際、体全てを傾けて、重いものを押し付けてくるナナキ。一夜を経たことで、ナナキは体全体で俺を求めるように抱きしめてきた。
「準備しろ」
だけど、鬱陶しいと感じるので、俺は押し離した。
「お前、本当に最低だな!!!」
「誉め言葉だ」
カーラーンにそう言われるのは、嬉しいな。ついつい笑ってしまった。




