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魔法使いの悪友  作者: 春香秋灯
悪友
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悪友との出会い

 あの妖精憑きとの出会いは、女遊びの店だった。

 大魔法使いの側仕えが女遊びに嵌っている、という話は、かなり有名だった。地味な見た目だから、女に縁がない生き方をしていたのだろう。だから、いつも決まった店で女と遊んでいるという。

 そんな噂が流れるので、様々な権力者たちが、その妖精憑きを篭絡しよう、と訓練した女を店に送り込んでいた。

 俺は、というより、皆、大魔法使いの側仕え見たさに、女遊びの店に行った。

 接客する女にも、客にも、良心的な店だ。接客する女の背景をしっかりと聞き取り、無体な客をあてがわないようにしている。客は、良心的な料金で、女の接客を受けられる。

 そんな店に、一人で行ってみた。女遊びなんて、初めてのことだから、一緒に行こう、なんて言える仲間はいなかった。

 こっそり行ってみれば、物見遊山な客で溢れかえっていた。皆、大魔法使いの側仕えを一目見よう、という客たちだ。

 一目、大魔法使いの側仕えを見て、それぞれ、微妙な顔をする。

 俺は、適当な女からお酌を受けて、大魔法使いの側仕えを見て、唖然とした。

 平凡な男だ。どこにでもいる、無害そうな男だ。女遊びの店だというのに、せっせと、テーブルについた女に果物の盛り合わせや、何やらを食べさせ、ソフトドリンクを飲ませて、と甲斐甲斐しくしている。時々、女に食べさせてもらったり、飲ませてもらったりしているが、それだけだ。ちょっと手を握ったり、肩を軽く抱いたりしてはいるが、女が拒むと、それ以上しない。何が楽しいのか、わからない。

 毒にも薬にもならない、善良な男が、大魔法使いの側仕えだという。

 わざわざ来たのだから、と客は女遊びに精を出す。ただ、大魔法使いの側仕えを見ただけで帰るなんて、バカらしい話だ。

 俺もそうだ。相手は触るどころか、料金次第で、別室で本番だって良いという。そういう女をあてがわれた。女も、何か期待しているように、俺に笑いかけてくる。

「ハガルちゃん、今日も来てくれたのね」

 そこに、とんでもない声が響き渡る。見てみれば、大魔法使いの側仕えハガルのテーブルに、女を恰好しているが、筋肉ムキムキの男である店長がついたのだ。あまりの姿に、視線が集中する。

「ママに会った日と会わない日では、眠りの深度が違うんだよ。あれかな、飲み物に薬しこまれてるからかな?」

「あの夜の再現をもう一度したいわ」

「妖精憑きは、本気になれば、酒も薬も無効化出来る」

「そんな!? せっかく特性ドリンクを提供したのに!!」

「あの夜は、俺の未熟さだな。忘れろ」

「忘れない!!」

「俺は忘れたい」

「もう一度!!」

「しない」

 ハガルは憂鬱な顔をしながらも、店長のお酌を受けている。ついさっきまで、ハガルについていた女たちは、店長が来たので、すすっとハガルの席から離れて行った。

 唖然とする客たち。ハガルの席だけ、異様になった。見ていて、物凄く気の毒だ。女遊びの店なのに、女装の男にお酌されるって、どうなの!?

 だけど、これはこれで、ハガルにとっては楽しいのだろう。店長の筋肉ムキムキな腕にもたれかかった。

「ママ、聞いてよ。最近、金で女買ってることが妹にバレて、ものすごく蔑んだ目で見られたんだよ。可愛い妹に、あんな風に見られるなんて」

「ハガルちゃんは毎日、忙しい中、ちょっと癒しを求めているだけなのにね。気に入った娘はいるかしら?」

「ママは別格だからなー。こう、可愛い感じの娘がいいな」

「いっぱいいるじゃない。さっきの娘たちだって良かったでしょ?」

「俺ね、男としての自信がないんだよね。男知ってる娘はちょっと」

「わかるの!?」

「わかっちゃうんだよ。まあ、遊ぶ分にはいいよ。だから、次も彼女たちよろしくね」

「妖精憑きって、色々とわかってしまって、大変ね」

「俺みたいな地味な男は、まず、金の力で出会いを設定するしかないんだよ!?」

「可哀想!! いざとなったら、アタシがいるわ」

「ごめん、俺はやっぱり女好きだ」

「きぃいいいいいー------!!! 女に生まれたかったわ!!!!」

 店長は泣きながら、ハガルの席から走り去っていった。

 ぽつんと取り残されるハガル。店長が来たせいで、ハガルには女の接客がなくなっていた。ハガルは物寂しそうに、一人手酌である。

 身分とか、色々と難しい相手だ。ハガルは大魔法使いの側仕え以前に、見習い魔法使いである。凡人が関わるような相手ではない。客のほとんどが、ハガルを一目見ようという物見遊山だ。

 ハガルは詰まらなそうに飲み物を口にするも、店内を見回す。だいたいは、複数でお店訪問である。一人で来ているのは、よくよく見れば、俺くらいだ。

 そうして、俺はハガルと目があってしまった。ハガルは、悪戯っ子みたいに笑って、俺の席に移動してきた。

「お邪魔していいかな?」

「勝手に来ておいて、それはないだろう」

「おー、俺が来ても動じないとは、いい感じだな。よし、このテーブルは俺が奢ってやろう」

「それくらいの甲斐性はある」

「だったら、彼女を一晩買ってやれよ。待ってるぞ」

 接客している女は俺に笑顔を見せる。

「お前が買ってやればいいだろう」

 俺の好みではない女なので、ハガルに押し付ける。

「ハガル様は、女を一晩買っても、何もせずに帰ってしまいますから。私は本番もしてくださる方のお相手をしたいです」

 笑顔で女がハガルの女遊びのやり方を暴露する。

「え、何が楽しいの?」

 聞き耳をたてていた近くの客たちも驚く。まさか、女に手を出さない腑抜けなんて、思ってもいなかった。

 わざわざ金で女を買うのだから、気持ち悪い男なんだろうな、なんて俺も思っていた。ところが、ハガルは店の女たちには嫌われていない。むしろ、好意的に見られている。中には、ハガルに本気で想いを持っている女だって見られる。

「こういうふうに遊ぶんだぞ、と皇族の方に教えてもらったんだが」

「皇族!?」

 雲の上の人だ。とんでもない人の教えをハガルは鵜呑みにしていた。

 それは、騙されてるよ。魔法使いは世間知らずだ。女遊びに嵌ったハガルは見習いといえども魔法使いだ。完璧に騙されている。

「それ、絶対に嘘だぞ」

 俺は真実を告げる。皇族といえども、嘘はよくない。

「俺に女遊びを教えて皇族は、女に本番をするのに興味がない方だ。ただ、何もしないのは、皇族の沽券にかかわることだから、金だけ渡して帰るんだ。だから、嘘ではない」

「いやいや、だからって、何もしないのは、女側にも失礼だろう」

「本番やって、大したことなかったら、恥ずかしいだろう。もう、この店で女遊び出来ない」

 本番やらないのも、恥ずかしいことだと思うんだが。言いたいが、さすがに黙っていた。だって、俺は、今、本番しない側なんだ。

 怪しい薬が入っているかもしれない飲み物を一気にあおるハガルは、ニッと笑う。

「それで、お前はどうするの? こういう店を一人で来て、女を一晩買わないのか?」

 藪蛇だ。俺が女を買わない、ということはいけない感じになっている。

「だけど、君は無理にやらないほうがいい。一人の身じゃないんだから」

 ところが、ハガルは女のほうを止める。女は首を傾げるも、何か思い当たることがあるようで、お腹を撫でた。

「誰か、ママ呼んできて」

 ハガルが声をかければ、手があいている店員が奥に消えていった店長を呼び戻す。

「ハガルちゃん、今日はアタシをご指名?」

「ママのご指名は一回のみだ。二度目はない」

「そんなぁあああああー-----!!!」

「ほら、彼女、身重だから、奥に戻して」

「あら、いけない。お酒飲ませちゃったわ。ほら、行きましょう」

 そうして、俺のテーブルから女が消えた。

 呆然となる俺。助かった、といえば助かった。しかし、男の沽券が、というものもある。

「お互い、女がいなくなって寂しくなったな」

「また、別の女を呼べばいい」

「今日は客が多すぎて、女が足りない。だから、俺の席には女が戻ってこなかったんだ」

 ハガルは別のテーブルに行ってしまった女たちを羨ましそうに見た。

「悪いね、俺が声かけちゃって、こんなことになって」

「最初から、俺についた女が目的か」

「生まれる子がもしかしたら、妖精憑きかもしれない。妖精憑きは帝国の宝だ。だから、大事にしないとな」

「さすが、見習い魔法使いだな」

「あれ、俺、そんなこと言った?」

「お前は俺のことを知らないが、俺は、というか、皆は、お前のことをよく知っている。大魔法使いの側仕えハガルだろう」

「この平凡な見た目で、そんな有名になっちゃうのは、全て、大魔法使いアラリーラ様の威光だな。この調子で、可愛いお嫁さん探しをしよう。で、お前の名前は?」

「なんで俺が名乗る話になるんだよ」

「俺だけ知られているのは、不公平だ。せっかくだから、知り合いくらいにはなろう」

 何か引っかかる言い方だ。わざわざ、この中で俺を選んだように見えないが、選ばれたような気になってしまう。

 裏があるようで、俺は警戒してしまう。

「ま、どっちでもいいけどな。どうせ、明日から、この店には来ないんだろう。だったら、名乗らなくていい」

 ハガルのほうから距離をとってきた。それはそうだ。この店にいるほとんどの客は、ハガルという男を見たくて来たのだ。

 この中で常連とはるのは一部だろう。そこに、俺は含まれない。俺は、店で女の接客を受けて気づいた。それほど女遊びは楽しくない。

 無言を肯定ととったのだろう。ハガルは俺の支払いを持って、テーブルを離れようとする。俺はハガルの腕をつかんだ。

「おい、それは俺の支払いだ!!」

「いや、これは」

「しっかり払う!!」

「だから、こういう時は」

「返せ!!」

「店側に問題があるから、支払いはなくなるんだが」

「………」

 俺は顔を真っ赤になるのを自覚した。女遊び自体、初めてのことなので、接客側の不祥事について、わかっていなかった。

 テーブルについた女は身重だ。だが、女は一晩を買う男を見繕ってテーブルについていた。そういう目的だろう、と店側だって計算して、俺のテーブルにつけたのだろう。だが、女は身重だと発覚した時点で、店側の不祥事となるのだ。

 俺は慌ててハガルの腕を離した。思ったよりも力強くつかんでしまったようで、ハガルの腕は赤く腫れていた。

「わ、悪い」

「この程度は、ちょちょいと治せる」

 俺が瞬きするだけで、ハガルの腕は綺麗に治った。俺はついつい、ハガルの腕を触って確かめてしまう。

「もう少し、鍛えたほうがいいぞ。女みたいだ」

「気にしてるんだよ!!」

 今度は、ハガルが顔を真っ赤にして叫んだ。筋肉すらついていない華奢な腕だということをハガルはとても気にしていた。

「俺だって、本気になれば、ママみたいになれるはずだ」

「あれは無理だ。才能だな」

「くそっ!!」

 持っていない物を憧れるのは、誰だってある。ハガルにとって、店長は憧れなんだろう。

「ルキエルだ」

「?」

「俺の名はルキエルだ。ここに来るかどうかはわからないけどな。会ったら、声をかけてくれよ。俺からはかけないからな」

「え、どうして?」

「俺は平民、お前は見習いといえども魔法使いだろう。身分が違う」

「ま、俺はそんなに外出歩かないから、会うとしても、この店だけだろうがな。次は、好みの女を買いに来いよ」

 そうして、俺とハガルは知り合いとなった。





 ちょっと教会にでも、と行ってみれば、大魔法使いアラリーラ様とその側仕えハガルが慰問に来ていた。その日は、本当にたまたまだった。

「お、ルキエルだ!」

 俺を見つけると、仕事中だろうに、ハガルが駆け寄ってくる。

 アラリーラ様は相当な美丈夫だから、目立つ。側仕えは残念ながら、地味で平凡なので、人の輪から簡単に抜け出せてしまう。俺に駆け寄ってきても、誰も注目なんてしない。

「お前、本当に興味本位で店に来てただけだったんだな。あれから、一度も来てないって、ママが言ってた」

「妙な所で俺を有名人にするなよ!!」

「女遊びの道連れ、もとい、仲間が欲しいじゃないか」

「本音と建前を一緒に口にするなよ!?」

「俺はどっちも恥ずかしいとは思ってない」

 ハガルはかなり図太い男だ。隠しておくべき本音も簡単に口にする。それでも、憎まれないのは、この平凡な姿と、許してしまう空気かもしれない。

「ハガル、こちらはお友達ですか?」

 そうしていると、大魔法使いアラリーラ様がやってくる。うわっ、俺、注目されちゃってるよ。恥ずかしい!!

「ママの店で、冷やかしに来てたお客さんだよ」

「違う言い方があるだろう!!」

「お友達ではない?」

「違います!!」

 きちんと否定しておくと、ハガルは傷ついたような顔をする。

「同じ飲み物を飲んだ仲なのに!?」

「お前が俺をからかいに来ただけだろう!!」

「こいつについた女が、妊娠してたから、酒を止めに行っただけです」

「そうだったのですか」

「………」

 教会は静謐な場所である。そこに、女遊びで知り合いました、なんて遠まわしに言われて、周りの視線が痛い痛い痛い!! なんで、俺はこんな目にあうんだよ!?

「せっかく俺が、金と時間を作っては通ってるってのに、来ないなんて、あんまりだ」

「そんな簡単に行くような店じゃないだろう!?」

「そうなんだ」

 魔法使いは世間知らずだ。あの店だって、決して安いわけではない。ちょっと興味本位で行くくらいである。しかも、興味の対象は、目の前にいる男だ。一度見れば、満足である。

「俺も、もうそろそろ、店には行かなくなるかもしれないけどな」

「なんだ、金が尽きたか?」

「気に入った女を身請けするかもしれない」

「そうなのですか!?」

 俺よりも横で聞いていたアラリーラ様が先に驚くので、俺は黙り込むしかなかった。

「幼い頃からずっと見ていましたが、ハガルも大人になったということですね。嬉しいような、寂しいような」

 ちょっとしんみりとなるアラリーラ様。この人も、魔法使いだけあって、世間知らずだ。話を聞いていると、浮世離れしているような感じがある。

 その場にいる誰もが驚く爆弾発言をしたハガルはというと、顔色一つかえないでいる。

「というわけで、もうそろそろ、店に行かなくなるから、今日あたり、来てくれよ。奢るから」

「お、おう」

 これほどの人が見ている前で、拒否はし辛い。一方的に、俺は約束させられた。





 二度目の女遊びの店に行けば、先にハガルが来ていた。ただ、テーブルについている女はいない。その代わり、どこか高貴っぽい男が同席していた。

「あ、来た来た、ルキエル、こっち」

「大声で呼ぶな。恥ずかしい」

 ハガルは平凡だけど、名前と顔が知られている。しかも、女遊びの店では常連である。目立つのだ。

 俺はじろじろと他の客に見られながら、ハガルがつくテーブルに行く。

「逃げずに来たな」

「逃げずにって、なんで逃げないといけないんだ。俺は犯罪者か!?」

「女遊び、そんなに好きじゃないだろう」

「………」

 図星だった。何も返せない。俺は無言でハガルの近くに座る。

 ハガルと同席している男は、手慣れたもので、適当の食べ物と飲み物を注文していた。

「ルキエル、この方は、皇族アイオーン様だ。俺に女遊びを教えてくれた方だよ」

「っ!?」

 まさか、すぐ側に皇族なんて雲の上の人がいるなんて考えていなかった俺は、体がこわばった。無理だ無理だ無理だ!! 絶対に不敬罪で処刑される!!!

 皇族アイオーン様は、すでにきている酒を一口飲んで、にっと笑う。

「ここでは無礼講だから気にするな。私は、はずれ皇族だからな」

「アイオーン様は優しい方だぞ。なんと、今日はアイオーン様の奢りだ!! さて、ルキエルの好みの女はいるかな?」

「これは難しいな。お前、女遊び、というか、そこまで女好きじゃないだろう」

「あの、俺、どういう目にあってるのですか?」

 ハガルとアイオーン様の会話がおかしい。まるで、俺好みの女を当てようとしている感じだ。

 ハガルとアイオーン様はにやにやと笑う。

「お前好みの女を当てよう、と勝負してるんですよ」

「こういう楽しみ方もある、ということを実地で教えてるんだよ」

「俺を玩具にしないでぇええええ!!!」

「奢るから」

 目の前に、高級料理が並んだ。いくら俺で遊びたいからって、随分と金をかけるよな、この皇族は!?

 悔しいので、食べてやる。うまい!!

「それで、身請けするのはどの娘?」

 がらりと対象がハガルに代えられる。皇族様は、飽きっぽいな。

「ママと交渉中。身請けするから、店には出さないようにしてもらっている」

「今度こそ、逃げられないといいね」

「え、逃げられる?」

「知らないの? ハガル、身請けした女の子全て、逃げられてるんだよ」

「あ、痛い痛い痛い!! そういうこと、言わないでください!!!」

 ハガルの中では、耳やら胸やらが痛い話のようである。半分、泣きそうな顔となった。

 俺は知らなかったが、ハガルは身請けした女全て、一週間くらいで逃げられているという。

「え、実は、特殊な趣味の持ち主?」

「特殊かどうかは、こう、わからないよね。俺は普通だと思ってるんだけど。きっと、この平凡な見た目がダメなんだよ。そうに違いない」

 ハガルにとって、その見た目が全てを台無しにしている、と思い込んでいる。

 俺とアイオーン様はまじましとハガルを見てしまう。

「ハガルさ、ちょっとしつこすぎなんじゃない? 夜とかどう」

「平均がわからない」

「教えてよ」

「平均以下だったら、恥ずかしいじゃないですか!? 黙秘します」

「えー、聞いてみたいよね」

「そ、そうですね」

 皇族相手に、平民の俺が逆らえるはずがない。俺は目をそらしながらも頷く。

 ハガルは、言いたくない!! という顔を見せる。でも、気になるな。この見た目平凡な男、実はえげつないのかもしれない。

「ハガルちゃん、うまいわよ」

 そこに、店長が混ざってきた。最後の飲み物を俺、ハガルの前に置いた。

「先日は大変、失礼しました。まさか、身重な子がいるなんて、気づかなくて」

「あ、いえ、気にしないでください。支払いしてませんし」

 ぐいぐいと身を寄せてくる店長。筋肉の圧力が強い! 距離を取りたいけど、さすがに皇族アイオーン様にぴったりくっつくわけにはいかない。

「えー、そうなの? 誰情報?」

「ひ、み、つ!」

 皇族相手だというのに、店長はあえて黙っている。先日、聞いてしまっているが、明らかに店長情報ですよね。ついでに、体験したのは、店長自身だ。

 俺はハガルを見てしまう。ハガルは気まずい、みたいに店長から顔を背ける。そうしたくなるほど、過去に店長と関係を持ってしまったのだろう。

 アイオーン様は隠されていても気にしない。皇族だけど、心広い方なので、それ以上、店長に詰め寄ったりしない。

「ま、次こそは、ハガルの運命の相手だといいけどな。お前、こんなにいい奴なのにな」

「見た目ですよ、見た目!! この平凡な見た目が、どうしても、逃げたくなるんですよ!!!」

「夜は?」

「黙秘します!!」

 ハガルはついでに席を立つ。ハガルが離れると、店長まで離れてしまう。

 そうして、俺は平民でありながら、皇族様と二人っきりにさせられる。

「ハガルが随分と気にかけてたよ」

「どうして!?」

「そこはよくわからない。ハガルは一度、気に入ると、何かと関わってくる。かくいう私も、ハガルに気に入られて、今では、師弟関係になっている」

「あ、女遊びを教えたという」

「そうそう」

「女を一晩買うのは興味がないから、金だけ払って帰るという」

「………」

 本当だった。アイオーン様はおもいっきり顔を背けて、コップに残った酒を一気にあおった。

「女の子と話したりするのは好きなんだよ。行為までは興味が持てなくてね」

「いい薬、教えましょうか?」

「いやいや、出来るから。皇族は、子作りが大事なんだよ。皇族の血筋をしっかりと残さないといけないからね。だから、やれば出来る」

「やったことがあるのですか?」

「あるさ。だから、問題ない。作業だよ、作業」

 この皇族も、色々と問題があるな。話をしてみて、そう思った。

「お互い、ハガルに気に入られた者同士、仲良くしよう。で、どの子がいい? ハガルが戻ってくる前に教えてよ」

「………」

 俺は黙秘を貫いた。

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