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和泉あずさの実験

 クラス委員の仕事だの本格的に始まった勉強だのに始まって数週間がたったある日の昼休みの食堂内。

 弁当をあまり作ってこない俺は一人学食でラーメンを食べていた。はずが弁当を持ってきたスザクたちに囲まれいつの間にやら普段と変わらぬメンバーで食事をしていた。

 

 「そういやクロ、お前安西先輩とはなんか進展あったのか?」


 「っぶ!!な、何だよいきなり!?」


 竜馬からの突然の質問にすすっていた麺を少しふきだしてしまった。


 「いやぁこないだお前が安西先輩と話してるの見てな。なんかお前に進展があったらいいな~っていう友達想いな意見だろ」


 面白がる竜馬の言葉にスザクも大いに乗ってきた。


 「私も気になる!でクロどうだったの?うまくいった?いかなかった?いかなかったら私と付き合おうよ!私はクロが大好きなんだよ!!」


 「ああはいはい。さいですか」


 例によっていつもどおりなスザクのノリは軽く流しておいた。


 「別に何かあった訳じゃねぇよ。こないだのホストのときに活躍したらしいねって言われただけだよ。・・・まぁ、うれしかったけど」


 そのときの先輩の笑顔を思い出し思わずにやけてしまった。


 「神楽坂くん、食事中ににやけない」


 「え?ああごめん」


 「クラス委員なんだから、ちゃんとしなきゃダメですよ」


 「はい・・・」


 何で秋風さんはちょっと不機嫌なのだろうか。

 

 「なんなら、私がアンタの恋が成就するか占ってあげようか?」


 そして、俺の前でニヤニヤおっさんみたいな笑いをするこの女子は誰だろう?


 「・・・・え~っと・・・」


 「っふん!!」


 「っで!!」


 目の前にいる女子におもいっきり足の甲を踏まれた。なに!?俺が一体何したの!?


 「アンタが私に対して『コイツ誰?』みたいな顔してたから制裁を加えたわ」


 「って俺何も言ってないじゃん!忘れてなんてないよ!!」


 知らないだけだ!!


 「じゃあ私は誰?」


 「・・・・っさ」(顔を背ける俺)


 「私はあずさよ。死ね」


 ・・・ひどい


 「それじゃあ今日私たちが集まった目的を発表するわね」


 「え?みんなでお弁当食べるためじゃないんですか?」


 「ブッブ~。今日の目的は、この馬鹿に神様を貸してあることを実験するためよ」


 「実験?」


 「それじゃあ今回は、スザクちゃんよろしく」


 「え!?私でいいの!?んっとね~それじゃぁ・・・クロ私とキスして!!きゃ~~」


 「断固拒否する」


 俺のファーストキスは安西先輩と決めてんだ。たしかにスザクはけっこうかわいいが、さすがにキスは拒否させてもらおう。今回の神様レンタルは中止だ。


 「・・・でなんであずささんは俺の手首をつかむんですか?」


 そしてなぜかあずさは俺の手をまっすぐに前へと強制的に出させた。


 パンッ!


 人のごった返す食堂に手と手がぶつかる軽快な音が響いた。


 「ほい契約完了」


 「なんちゅぅことしてくれてんじゃぁぁぁぁぁ!!」


 契約完了ってことは俺キスせにゃならんじゃねぇか!好きな人じゃなくて友人と!!


 「さっさクロ、思い切って顔こっちに近づけてよ。ちゅ~」


 スザクが眼を閉じ顔を赤らめながら唇をつきだし徐々に近づいてきた。


 「す、スザクちゃんダメだよ!こんなトコで!!あずささんも神楽坂くんにキスするとかそういう約束を簡単にさせないで!」


 そんなスザクを秋風さんがどうにか止めてくれた。た、助かった・・・・。


 「ははは。そんなに嫉妬しなくても大丈夫よ琴音ちゃん♪ちょっとした冗談だから」


 「し、嫉妬じゃありません!ただ、私もしたこと無いのにスザクちゃんが神楽坂くんにしようとしてるのが嫌なだけです!」


 「おいちょっと待てあずさ!今俺の幸・不幸を冗談って言っただろ!!」


 「クロ、少しは話し聞いとけよ・・・」


 あ?竜馬の奴、今なんか言ったか?


 「ほらクロは飯食ったならさっさと出てく。キスもしなくていいから」


 「え?なんだよさっきは自分からやらせようとしたくせに」


 「ほらさっさと行け」


 「ああもう分かったから押すな!行くよ、行きますよ。行きゃいいんだろ!」


 俺はぶつぶつと文句を言いながら食堂を後にした。


 「ああ~クロ~・・・・まだキスしてないのに・・・・」


 「・・・ふふ。さ~て、この後クロはどうなるかしら?」


 当然、あずさの奴が食堂で悪い考えをめぐらせていたことなど、知る由も無かった。

 

 食堂を出たはいいものの、この後の予定などまったく考えていなかった俺は目的も無くその辺の廊下をぶらつく事にした。

 

 「あれ?君ってたしか・・・そう神楽坂くんだ」


 「あ、安西先輩!!」


 しばらく歩いていたとき、すれ違った安西先輩に声をかけられた。

 

 「こ、こんにちわ!!きょ、今日はいい天気ですね!!」


 何いってんだ俺はぁぁぁぁぁ!!せっかくの安西先輩との会話に、もったいないにもほどがあるだろぉ!!


 「ふふ、そうだねお日様も出てるし、すごくいい天気だね」


 「そ、そうですよね!!」


 俺のあんな言葉にもあんなにやさしく返答してくれるなんて。それにこんなに長く先輩と会話できるなんてすっげぇ幸運なことだ。もしかしたらさっきの神様レンタルの効果かも。・・・今なら先輩に彼氏がいるかとか訊けそうだ。


 「あの、安西先輩にはか――」


 俺が先輩に質問しようとしたとき、教室で野球をしていた奴らが打ったゴムボールが俺の頭に当たりバランスを崩し、俺の体が左によろめき窓にぶつかる。

 はずが、不幸にも窓が全開で開いており、俺の体はそのまま窓の外へと放り出された。


 「え?ウソ!?う、うわああああああああああああああああ!!」


 そして俺は二階の窓から地面へ落下していった。不幸中の幸いといえば、下がコンクリートではなく菜園用の土だったことと、その土が程よく湿っておりクッションの役割をしてくれたことだった。


 「か、神楽坂くん大丈夫!?ご、ごめんね!私用事があるからもう行くね」


 「あ!?せ、先輩・・・・」


 しかし、俺にとっての何よりの不幸は、安西先輩が行ってしまったことだった。


 「何でこんな目に・・・・」


 「くぅ~ん」


 誰も助けに来てくれない地面の上で軽く涙を流す俺に、迷い込んできたらしい子犬だけが寄ってきてくれた。


 「うう、ワンちゃん、お前だけが味方だよ・・・」


 「うう~わう!かぷっ!!」

 

 ・・・・・裏切り者!!

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