会長との遭遇
始業式だということもあって、俺たちはもう帰っても良いのだが、みんな割と他のクラスメイト同士で喋ったりなんかしている。そんな中、俺は自分の新しいクラス内にある一角で干された布団の様に座っていた。
「おおクロ。随分な疲れようだな。俺らは話し聞いてただけだぞ」
そんなぐったりしていた俺に隣の席にいた竜馬が喋りかけてきた。
新品であるはずのブレザーはすでにヨレヨレになっていてネクタイもしていない。
身だしなみくらいきちんとしろ。
と言おうと思ったが、ブレザーのボタンをしていない俺が言える立場でもないのでやめておいた。
「あの後の生徒会長コール聞いてたらぐったりきたんだよ」
会長が舞台を下りた後も結構な時間続いたし。
「しかしあの会長もスゴイ人気だったな。普通式の途中であんなコール起きないからな。ところでクロお前に関して一つ気になることがあるんだが」
「俺?」
「そうだ。おっ、スザクに秋風。お前らも来いよ」
そう言って竜馬は少し離れたところで会話していたスザクと秋風さんを呼んだ。さすがに女子の二人は俺たちと違い制服をきちんと着ていた。
ちなみにスザクというのは、こよみが自分で自分につけた渾名だ。南野こよみで、南は朱雀が守っているからだそうだ。
「ん?竜馬にクロ。何か呼んだ?」
「神楽坂君、どうかしましたか?」
二人は竜馬の呼びかけを聞いてすぐ俺たちの所まで来た。
「いやさ。こないだ4人でファミレス行ったときのこと覚えてるか?」
ファミレス?・・・ああ合格祝いのアレか。
「覚えてるよ」
「私もです。楽しかったですね」
「忘れるわけがないだろ」
何故か知らんが俺が奢ったんだから。
「あの時占い師に言われたことは何だったって話したよな?」
「うん」
「それがどうかしたのか?」
「その時のクロの発言は?」
「「あなたには守り神どころか貧乏神すら取り付いていません」」
記憶力がいいな~この二人。
「・・・あれ?でもたしかこの学校のシステムって」
「システム?秋風さん、何のこと?」
「あれ?クロ知らないの?システムっていうのは」
と、スザクが何か話そうとした時だった。
「すみませ~ん。神楽坂クロという男子はいますか~?」
教室の出口付近から俺の名前を呼ぶ女の声がした。
「あ、なんか呼ばれてるみたいだからちょっと待っててくれ」
聞き覚えが無い声だなと思いつつ俺は声のするほうへ顔を向けた。
「は~い。どちら様です・・・か・・・」
ぐりん!と顔を元の位置まで戻して再び声の主を見る。
振り返った、そこの場所に、立っていたのは!
俺の憧れの人、安西美恵子先輩!!
二度見しちゃった!ぐりんってした後二度見しちゃった!!
何度見ても間違いない!頭の後ろで束ねられた艶のあるブロンドの髪。きらきらと宝石の様に輝く茶色の瞳。大和撫子も負けを認めるであろう程の整った顔立ち。整った美しいスタイル。見間違えるはずがない!!
「君が神楽坂くん?」
「はい!1年8組出席番号6番神楽坂クロです!」
「生徒会長が、生徒会室に来るように、だそうよ。それじゃ、また」
一言だけ言うと安西先輩は美しい髪を揺らしながら廊下を歩いていってしまった。
「はい!又お会いしましょう!!んじゃ俺、生徒会室に行ってくるわ」
俺はというと、安西先輩の頼みごとを全うすべくダッシュで生徒会室へ向かった。
☆
教室を出て約5分。俺は新校舎1階にある生徒会室の前についた。
生徒会室に入る前にある程度の身だしなみを整える。同じ学生でも相手は高学年で生徒会長だし。
・・・つか、生徒会長が俺に何のようなんだろう?入学直後だから面識があるわけないし、俺は生徒会長を見たことも無いんだぞ。・・・・誰だ。今「はぁ?」みたいなこと思った奴は。
服装を整え、最後にネクタイを締めなおして生徒会室の扉を2回叩いた。
「どうぞ~」という何とも呑気な返答が扉の向こうから聞こえ、俺は会長室の扉を開けた。
部屋のなかには中央を陣取る長い机とその左右に各3つずつ綺麗に並べられたパイプ椅子。
部屋の奥にある明らかにミスマッチな校長とかが座るような椅子。
その椅子に生徒会長は座っていた。
「初めまして、1年8組の神楽坂クロといいます」
「こっちの私とマンツーマンで話すのは初よね。初めまして、聖協学園生徒会長、和泉あずさよ。気軽にあずさって呼んでね」
生徒会長と聞いて頑固そうな人かと思っていたが、笑顔を見る限り優しそうなのでほっとした。
「で、生徒会長が自分に何の様ですか?失礼な言い方ですが顔を見るのも初めてですし」
「・・・あれ?神楽坂くん、たしか入学式出てたよね?」
「でてましたよ。そりゃ」
一応学生ですし。
「それで、校長の話は聞いたわよね?」
「聞きましたよ」
「・・・で、その後の話は?」
「聞いてましたよ。生徒会長の話。どういう顔だったかは覚えてませんけど」
「そっか。ふぅん・・・・・」
そう言って生徒会長は黙ってしまった。しかも「ふぅん」の後は下を向いてだんまり状態。
「ふっっざっっけっっるなーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」
と思ったら突然の大爆発。怒号と一緒にパイプ椅子まで飛んできた。俺は咄嗟に身をかがめパイプ椅子との正面衝突は免れた。
「あんなつまらない校長の話は覚えてて、なんでこの絶世の美女の顔は覚えていないのよ!!普通だったら逆でしょ!逆!!ていうか目の前に本人がいるでしょうがバカ!!」
「そんなこと言われましても・・・」
あと自分から絶世の美女といわれるとなんだか説得力がなくなります。
「もお我慢の限界よ!そもそもこんな丁寧な喋り方、私には似合わないのよ!」
生徒会長はブツブツ文句を言いながら側にかけてあった学ランを勢いよく羽織った。
「これでこそ私!これこそが和泉あずさ!そう思うでしょ?クロ」
現在、生徒会長の格好はブレザーの上から学ランを羽織るという制服界に革命を起こす斬新な格好だ。どうって言いわれると……変。
あと俺呼び捨てされてるんですけど。
「どうかはよく分かりませんけど、まあいいんじゃないんですか」
「当たり前よ」
「で、何で俺を呼び出したんですか?実際のトコ用件を聞いてませんし」
「ああそうね。んじゃ、まずこの校の校訓から。言ってみて」
「・・・・・・・」
必死で頭を回転させる俺。ダメだ、覚えてない。
「この世は全て運である」
いつまで待っても答えない俺に痺れを切らせた会長がそういった。
「かの戦国武将、織田信長に明智光秀。彼らは天下の届く後一歩まで言ったにもかかわらずそれを成し遂げることなく死んでしまった」
『まあ明智は微妙なとこだけど』と会長は付け加えた。
「けど逆に、農民出身だった豊臣秀吉は武将となり天下を統一した。これらの人間の違いはなんだったか?簡単な話、運が良かったか悪かったかよ。織田は運悪く家臣に裏切られた。豊臣は運よく天下まで上り詰めた。これだけの違いよ」
「そんなバカな。たかだか運の良し悪しだけでそんな事があるわけ」
「あるのよ。ベスト3にいける実力があったのに運悪く一回戦で優勝候補に当たってしまった。あまり力は無かったけど、運よく相手との相性が良くてベスト3まで上り詰めた。世の中でだって同じ様な事はいくらでもあるわ」
まあ、言われてみるとそのとおりだ。
「けど、運なんて人がどうとできるものじゃない。だけど、人がそれをどうにかできれば、その人にはより明るい未来が待っていることになる。そのために創られたのがこの学園神と言葉を交わし、幸運を呼び込むことを目的とした組織」
「・・・・えっと、結局の所、どういうことですか?」
「要するに、神様と一緒に遊ぼうっていいたいのよ」
あれ?今の説明そんな内容だっけ?
「本当は明日まで見せちゃダメって念を押されてたんだけど、クロみたいな子じゃ、カンニングぐらいしておかないとね。エル」
会長がそう呟きながら右手を前に突き出した。すると手の甲の上に光が集まり始めた。
光が収まると会長の手の甲に手乗りサイズの純白シスターが乗っていた。
「紹介するわ。この子が私の守り神、女神のエルよ」
『おいっす!』
「お、おいっす」
手乗りシスターこと女神のエルは左手を腰に当て、右手を前に突き出しながら俺に挨拶らしきものをした。
「今日を入れた3日後。私達上級生であなたたち1年にサプライズ企画として体育館で守り神との付き合い方を教える授業があるわ。けど、君には守り神が憑いていない。それがもし全校生徒の場で知られたら、おそらくこの学校にいられなくなる。だから君には先に全てを教えて対策を練るのを手伝ってもらうわ」
「な、なんか急な話だな・・・・あれ?ちょっと待て」
俺は会長の説明に一つの疑問を抱いた。
「なに?」
「なんでアンタ、俺に守り神が憑いてないのを知ってるんだ?」
俺に神が憑いていないのを知っているのは竜馬、スザク、秋風さんの3人だけのはずだ。なのに、何故会長がその事を知っている?
「あっ。そういやその事は話してなかったわね。えっと確かこの辺に・・・・あった」
会長は自分の鞄を漁ると中から布の切れ端のようなものを出した。あれは・・・フード?
「さすがのアンタもこの顔には覚えがあるでしょ」
フードをかぶった会長の姿はマンガなんかでよく見る占い師のようだ。
「占い師っぽいフードですねそれ。なんかの仮装ですか?」
「・・・あんたは一回本気で調教しないといけない気がしてきたわ」
怒りのオーラを体中から撒き散らしながら会長は本棚から六法全書取り出した。
殴る気だ。あの角で殴る気なんだ。
「ちょっ!?暴力は反対です!」
さあココからは頭を使う時間だ俺。会長がなぜ起こっている顔考えろ。フードをかぶってからという事をヒントにすれば自ずと答えは
「っあ!あのときの占い師!!」
「ようやく思い出した過去のバカタレ!!」
「ああだから俺に神がいないの知ってたんだ。言ったのアンタだし」
「まあそのとおりよ。さて、思い出したところで、今からの仕事手伝ってよん♪」
「仕事?」
「古い文献あさりよ。きっと昔にもアンタと同じ例がいたでしょうし。もしかしたらいい案が浮かぶかもしれないでしょ」
まあ確かに、一理ある。
「そういうわけで、図書室行くわよ」
会長は俺の手を握るとまっすぐ図書室に向かっていった。
結局その日はいい案が出なかったので、翌日また生徒会室に来いとのことだった。
事件が起こったのは、その翌日のことだった。
あ「神様レンタル!訳してカミレン!のメインヒロイン和泉あずさよ!いよいよ私の登場ね!!」
あの、すみません。ここって確か作者の僕が愚痴だのなんだの言うコーナーじゃありませんでしたっけ?
あ「私が登場した今、そんなコーナーは存在しないわ!!」
ですよね・・・
あ「というわけでいよいよ次回カミレンフル稼働よ!私の魅力でノックダウンするんじゃないわよ!!」
・・・次回もよろしくお願いします。