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えん×デビ とーきんぐ・オーバー  作者: Syun
悪魔が来たりて
6/6

後.ハロー、ニューワールド

 朝日が注ぎ込む部屋中に、けたたましいベルの音が鳴り響く。前日の教訓から設置された二つの目覚ましの唱和は、壁を通して階下にも伝わる。

 止まらないベルの音に、階段を駆け上がる音が重なり、

「盾! 朝! 早く起きて! また遅刻するわよ!」

 部屋の扉が開き、天都賀ミカの声が響きわたる。

 その声で、ベッドの布団がもぞもぞと動き、


「…………やだよぅもう疲れたよぅしばらく休んでも別に問題ないだろぉ三界救ったんだしそれくらい許されるってぇ」

「…………私はその落差が嫌だな、盾」


 ずるずると、布団を被ったまま天都賀盾は床を移動した。


   大○


 天界と魔界が休戦協定を結んで、メイオが帰ってから四日。ずっと俺はこんな感じだった。

 メイオが帰ってしまって寂しい、というのは確かにある。でも、圧倒的大部分は燃え尽き症候群というか、気が抜けたせいだから許して欲しいんだけど、そんなもの関係者以外に説明できるでもなく。日曜を除いた昨日までの二日間、先生に怒られっぱなしだった…………ような気がする。正直覚えてない。

「ねえ、天都賀。大丈夫?」

「あー、身体的には特に問題ない。でも心の充電期間がもうちょっといるな」

 隣の小鳥と二人きりになる機会もないので、詳細説明もまだであり。

「うー。そ、それだと、その、あの」

 そんな勘違いも、それなりに起きるわけで。

「メイオのことは、それほど関係ない。生きてるんだから、いつかまた会えるだろ」

「う、うう。そうだった。天都賀に隠し事はできないんだった」

「人聞きの悪いことを言うな。なんでもかんでもわかる訳じゃない」

「そ、そうだよね。なんでもわかるわけじゃないよね」

「ただ、理由がわかってるだけに言いにくいのですが、ちゃんと食事はとってくださいよ小鳥さん」

「ううっ! やっぱりなんでもわかるんじゃんかー!」

 日に日に体重が減っていっていそうな気がする小鳥が貧血で倒れないかは、ちょっと心配であったりする。その原因が自分であるのは、土下座要因ではあるのですが。

「おはようございまーす」

『おはようございまーす』

 今日も、先生のテンションより低いテンションでみんなが挨拶し、

「はいはーい。それじゃあ、転校生を紹介しますよー」

『???』

 全員の頭に、疑問符が浮いた。

 ただ。とてもなんとなくだけど、俺の中にはおかしないい予感と、ものすごくイヤな予感があって。

 カラカラカラ、と軽い音を立てて開いたドアの向こうから現れた顔に、おかしな方のいい予感が事実だったと悟り、


「初めまして。このたび転校してきた天都賀メイオです。旦那様の天都賀盾共々、よろしくお願いしますね」


「ぶっ!」

 イヤな方の予感も、これ以上ない事実だったと教えられた。

 って! だ、だだだ旦那様!? 何言ってますかメイオ様!

 そもそもまだ十七だ! 俺は結婚できない! ってそういう問題じゃなくてだな!


 ズダン!


 デカい音に隣を見ると、小鳥が机に突っ伏したまま泡を吹いていた。

 ギリギリギリ、と動くのを拒否する首を、無理矢理教壇に向ける。そこでは、我が家の悪魔様が笑顔で立っておられた。


   大大○Ψ


「…………メフィストフェレス家を放逐になったの。だから、責任取って?」

「おまえそれ、責任の段階が飛びすぎ、いや、意味がおかしいだろ」

 昼の屋上。紙パックのジュースを持ったまま、項垂れてしまった。

 世の中、やっていいことと悪いことがあります。今回のことなんて、冗談にもなりませんからね。一応、以前からの知り合いだからただの冗談だってことでクラスの皆様には納得して貰ったけどさ。

「あー、頭が痛い。頭突きされるより頭が痛い」

「自業自得でしょ。悪魔より悪魔らしい人間様なんだから」

 なんかひどいこと言われた。頭に加えて、胃も痛くなってきましたよ。

「ふふ」

「…………なんだよ」

「ううん。余裕のないところ、初めて見たような気がしたから」

「そりゃ余裕もなくなるだろ。なにが旦那様だよ。冗談にもほどがある」

 小鳥へのフォローもあるのに、と思ってたら、いきなりメイオが立ち上がって、

「だ、だって、私と契約したでしょ!」

「だから段階がワープしてないですかね、その解釈は」

「してないわよ。だって私まだあなたの望みを聞いてないし、魂だってもらわないといけないもの。それまで帰れないのよ!」

「クーリングオフで」

「できるわけないでしょっ!」

 頭突き、はなし。

 ただ、ものすごく悲しそうな顔になって、

「あまつがの、ばか」

「うぐっ」

 や、やばい。なんか俺が悪いことしてる気になってきた!

「――――――――――――――――なるほど。こうすればいいのね」

 って、おい待て。

 今なんて言った。

「…………メイオさん」

「え?」

「…………謀ったのか」

「え、あ、えーと」

「…………謀ったんだな?」

「い、いいじゃない別に! 私だってやられてばっかりじゃないのよ!」

 その成長は、たくましいと言うべきなのか?

「やれやれ…………」

 いろいろと、面倒は増えたのかもしれない。それでも、なんとなく、ふと頭に浮かんでくる言葉があって、


「おかえり、メイオ」

「うん。ただいま」


 その言葉は、はっきり言っておかしい。でも、なぜだか自然と心に落ちる。

 ゆったりとした時間が流れて。漂う雲を見上げて。

「あのね、天都賀」


「あー、みつけたぁー!」


 メイオの言葉は、ユリの叫びにかき消された。そのまま、翼を生やしたユリが俺に体当たりで抱きつく。

「うにゃー! お兄ちゃんは渡さない! これは天使と悪魔の問題とは別っ!」

「はいはい、わかってるわよ」

 仕方ないなあ、といった表情でメイオが答えた。お化け屋敷の時も思ったけれど、やっぱりそうしていると姉のように見える。

「ホントだ。すごいな、ユリのお兄ちゃんセンサー」

 で、小鳥も屋上にやってきた。その視線は、ユリとメイオと俺の顔で動き、

「ところで天都賀。べ、別に天都賀の問題だからいいんだけど、その、私のことちゃんと考えてくれたの?」

「う。小鳥さんのこと忘れてた。っていうか、聞いてないよお兄ちゃん!」

「そうそう。そういえばあなた達、遊園地で、その、キス、してたわよね?」

 うわー、見られてたの忘れてたよー。

「あ、あれは、その、えーと。天都賀?」

「そこで俺に振りますかい!」

 どう説明せーと言うんだ! というか、説明していいのかあれは!

「お兄ちゃん?」

「旦那様?」

 答えに窮する俺に、ユリとメイオが詰め寄ってくる。背中には、なぜか冷や汗。

 どうやら、天界と魔界と人界の戦いは終わらないらしい。しかも、火種は俺。

 また明日から、先の読めない話し合い(トーキング・オーバー)の日々が始まるみたいだ――――



   Fin...less?

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