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えん×デビ とーきんぐ・オーバー  作者: Syun
悪魔が来たりて
1/6

前.世界は――――とても平和

「いいか、おまえたち。ここで争ってもなんの意味もないんだぞ」

 夕暮れの公園。そこで俺は、できる限り相手を見下ろさない様に気を遣いながら声を発した。

 可能な限り、トーンは柔らかく。警戒を抱かせない様に。さりとて媚びた感じにならない様に。

 しかし。


「フニャー、フギャニャー!」

「フー、フー!」


 目の前で、白と斑の猫二匹は相変わらずお互いに威嚇をしあっている。その間には、誰が置いたのかメザシが一尾。

 早い話が、本日の糧を取り合っているわけだ。人に飼われていない猫にとっては、それが生死を分けることになりかねないのだから。

「……うーん」

 がしがしと頭を掻いてしまう。引っかかれないだけマシと思うべきなのか、まったく気にされないことを嘆くべきなのか。微妙な二択だ。

「仕方ない。ちょっとここを頼むな、ユリ」

「はーい。二人とも、少しの間だけ仲良くして待とうね」

 となりで一緒にしゃがんでいた金色の髪の少女が、笑顔で手を上げた。

 少女の名前は天都賀(あまつが)ユリ。血は繋がっていないけれど、妹で、大事な家族だ。無邪気なその様に呆れ半分苦笑半分で、その場をあとにする。

 行き先は、すぐそばのコンビニ。一番安い猫用の餌を買って、公園に戻る。

「にゃーにゃー」

「「ニャー」」

 その光景を見て、餌を取り落としそうになった。少女と猫たちが楽しげに輪唱をしている。

 時々、そういう光景を見ると微笑ましいと共になんとも言えない気分になってしまう。

 その、こう。将来とか。

「…………ただいま」

「あ。お帰り、お兄ちゃん」

 笑顔で見上げるユリに、ひきつった笑いしか返せない。そのまま隣にしゃがんでエサの封を切る。

 二匹の目の前に一つずつ。平等に並べる。

「「ニャ」」

 二匹がそれをくわえた隙に、メザシを拾って真っ二つに割る。それも同じように二匹それぞれの前に並べる。

「いいか。争いは何も生まない。むしろ減らす。だからこれからは友達を大事にするんだぞ」

「はーい」

「……いや、ユリじゃなくて」

「ナー!」

 バシリ、と斑の方がユリを叩いて走り去る。丁寧に、口には半分になったメザシをくわえていた。

「あー、なにするのー!」

 それを追って、ユリもばたばたと走り去る。左耳の上辺りで結ったサイドテールが揺れ、茂みの向こうに消えていく。

 うーん。元気なのはいいんだけど、そのまま突っ走るのか妹よ。

 目を下ろして、もう一匹の白猫を見る。

「世の中、一人じゃ生きられないんだぞ?」

 こっちをじっと見上げている猫を見ていると、「ひょっとしてちゃんと通じてるのかもしれない」と思ってしまう。

 人と猫だってきっと分かり合える。心があるのなら。

「だから――――ってそうだよな。猫の手じゃ半分にはできないよな。そういうときはどうすればいいんだろうなあ。口で引っ張り合う?」

「…………なにやってんの、天都賀」

 背後からかけられた声に、ゆっくりと振り向いた。誰かが近づいてきていたのは足音と影で気づいていたからだ。

「うっわー、気持ちワル。あんたそういう人間だったの? 動物と会話しちゃうみたいな」

 声は冷たい。表情も呆れた様な色だ。

 それでも、隣に座り込んだ少女は猫を見つめるときには穏やかな表情になっていた。

 妹の代わりにやってきたのは、クラスメートの少女、小鳥(ことり)あきら。釣り目で当たりがキツいので、初対面の人なら苦手意識を持ったりするかもしれない。

 まあ、悪い子じゃないっていうのは普段の振る舞いを見てたらわかるんだけど。教室でのお隣さんだし。

「餌の取り合いをしてたからな。和平について議論をしてたんだ。別に相手が人間じゃないといけないってことはないだろ」

「あっそ、優しいんだ。ん」

 小鳥というなんだか猫が天敵になりそうな名字を持つ彼女は、こっちに向かって手を差し出す。「エサをよこせ」という意味だと気づいて手渡すと、指でつまんで猫の顔の前で揺らし始める。

 その横顔を見ながら、少しだけ思考を巡らせてみた。彼女の言った、「もう一つの可能性」とやらについて。

「一つだけいいかな?」

「ん。何?」

「たぶん、今と同じようにしても見捨てても、小鳥は俺のこと軽蔑しただろ。なら、たとえ猫二匹だったとしても、誰かが救われる方がマシだよ」

 真顔で言った言葉に、彼女は目をしばたたかせる。そしてすぐにイヤそうな表情になった。

「あのねえ。そういう偽善臭い屁理屈ばっかり言ってると嫌われるよ。…………………………………………それに、ケーベツなんて別にしてるわけじゃないし」

「――――――――そうかもな」

「!?」

 最後の方になにを言ったのかは聞こえなかったけど、無視して小鳥に顔を近づける。それこそ、顔と顔、鼻と鼻がくっつくくらい。

 唇と唇がくっつくまで三センチ無いくらい。そういう行為の一歩手前だ。

 当たり前だけど、小鳥は飛び退くように身を引いた。そのまま真っ赤になって顔を逸らされてしまう。

「何よっ!? なんでそんなに近づいてくんの!?」

「なんとなく」

「なんとなくでそんなことすんなっ!」

 小鳥の振り回したバッグが顔面に当たる。そのまま、吹き飛ばされる様に地面に転がった。

 勝者は小鳥あきら。決まり手は鈍器による殴打。野球ならバットピッチャー返しといったところか。

「このっ、へ、変態!」

 残されたのは不名誉な叫び声。視界の端に、耳まで真っ赤になったまま走り去っていく小鳥が見えた。

 その視界をさらに、白い猫の顔が塞いだ。ちろちろと頬を舐められる。

 うーん。慰められてるのかな、コレは?

「あー、逃げられちゃったよお兄ちゃん」

「そう簡単に捕まえられたら苦労はしないさ。なあ」

 ぽんぽん、と大の字に寝たまま猫の頭を軽く叩く。「ニャウ」と一鳴きして、彼か彼女かわからない野良猫は去っていった。

 姿が消える前に振り返って尻尾を揺らしていったのがちょっとだけ微笑ましい――――そう思いながら、立ち上がって砂を払う。

「またねー、にゃんこさん。あっ!」

 ぱたぱたと手を振るユリの手がぴたりと止まる。その顔は、軽い涙目。

「わたし、猫さん撫でてないよー」

「またいつか機会があるさ」

「うー、そうかなあ」

「そうだよ」

 猫と同じように頭を軽く叩いて歩き出すと、ユリが後に続く。それは、家族になったときから変わらない二人の関係性。とても近い、兄妹の距離。

「そういえば小鳥先輩を見たよ。挨拶したらすごい勢いで逃げられちゃった。ちょっとショックかも」

「んー、急いでたんだろ」

 彼女の名誉のために軽く話題を流しながら――――なんとなく、すぐそばにあった電気店のショーウィンドウへ目を向ける。

 最新型の液晶テレビに夕方のニュースが映し出されている。時間帯からかそれとも最近の世相か、明るくなるような情報は一つもない。

「本日も救えませんなあ、人間は」

「そうだね」

 何気ない俺の呟きにユリが反応する。しかも、笑顔で。

「でも救っちゃったんだよね?」

「それは言わないお約束。あー、猫の食事を思い出したら腹減った」

「あはは、そうだね」

 そんなのは昔の話だ。今更話題にすることじゃない。

 そんなことを話すくらいなら、まだ夕御飯のおかずが何かについて話した方が有意義だろう。


   大○


(じゅん)、ユリ、ご飯できたよー」

「はーい」

「ういー」

 トコトコと歩いていくユリの後を追って席に着く。食卓には三人。俺たち二人とあとは、母さんの天都賀ミカだけだ。

 残る家族一人の分は用意されていない。

「あれー、お父さんは?」

「また講演があるから、帰りは来週になるかもしれないって。うう。寂しい」

「そっか。大変だな、父さんも母さんも仕事が忙しくて。会う時間はちゃんと作った方がいいよ」

「うっ。た、他人事みたいに言うわねー」

「うん。血縁関係あっても他人だし。俺に解決できる問題じゃないし」

「…………はあ。時々冷たいわよね、盾って」

「単なる事実だよ。それに、他人だから家族になれるのさ。自分がもう一人目の前にいたら、人は同族嫌悪どころじゃ済まないだろうね。というわけで、気にせずいただきます」

 あっさりとしたやりとりをしつつ、特に気にすることもなく皿へ箸を延ばす。同じように、二人もそれぞれの食事に手を付けた。

 いや、気にならないわけじゃないけどな。無理してたりしないのかな、とか。積極的に連絡取り合う方じゃないからな、俺も父さんも。

「…………そういえば今日、店に変な女の子が来てたのよ」

 特に脈絡なく、ポツリと母さんが呟いた。

 母さんは、天都賀家を改装して民芸品店を経営している。民芸品だけに一見のお客は多く、たまに店番をすることのある俺も、「変な」と冠詞のつくお客は幾度か目にしてるけど、

「変な奴って――――うちの二年の制服来て、ちょいツリ目で、黒髪で、頭の後ろで髪をまとめてたりする?」

「お兄ちゃん。それ、完全に小鳥先輩のことだよね?」

「怒らせたからな。文句言いに来たかと思って」

「あー、だから挨拶返してくれなかったんだー」

 ユリが納得したように頷く。でも、母さんは渋い顔のままだ。

「少なくともその子じゃないかなあ。だって、髪の毛の色、なんか紫がかってたから」

「は? なにその色。紫って、どっかの芸人かそいつは」

「あー、やっぱり疑ってる。嘘は言ってないよ。本当に紫だったんだから」

「へえー、紫かあ」

「髪の毛が紫色の女の子、ねえ」

 頭の中で姿を思い描いて、食欲を失いそうになった。顔は小鳥で、髪の毛だけが紫色のアフロになっていたからだ。

 ユリも隣で、腕を組んだまま難しい顔をしている。

 うん。絶対に、想像してるのは俺と同じものじゃないだろうな。それ以前に、想像できてるのかも謎だ。

「…………ともかく、警察沙汰になるようなことはなかったんだろ?」

「うん、まあね。でも、なんか睨まれたりしたんだけどなあ。外に出てからも家を見てたみたいだし。ひょっとして、昔どこかで会ったことがあったのかな」

「昔って表現を使って思い出そうとするほど長くこっちにいるわけじゃないような気がする。馴染みすぎて忘れそうになるけど」

「あ、そうだった。私も忘れてた」

 あはははは、と苦笑いを浮かべる母さんに俺も苦笑した。

「ごちそうさま。とにかく、こっちも気を付けておくよ。そんな女の子なら人混みの中でも目立つだろうし」

「お願いね」

 食べ終わった皿を片づけて、ソファーに居場所を移す。テレビのリモコンを操作してザッピングを続ける。

 あんまり見たいと思う番組がないな、最近――――そう思っていると、膝の上に何かが乗った。

 見下ろせば金髪の頭がある。

「うにゅー、おにいちゃーん」

「はいはい」

 膝を枕にしているユリの頭をなでる。数度往復すると、そのまま幸せそうな寝息が聞こえた。

「ユリ、食べてすぐ寝ると体に悪いぞ?」

「んにゅ」

 手を止めて話しかけても目を覚ます様子はない。サラサラと指の間をこぼれていく金色の髪を見ていると感慨深い気分になった。

 リモコンを置いて、頭を撫でつづける。

「どうかした?」

 いつの間にか側に来ていた母さんが首を傾げていた。

「いや、不思議な感じだと思って」

「不思議? なにが?」

「さっきの話。父さんが母さんと再婚しなかったら、妹もできなかったし、変なことのど真ん中に放り込まれることもなかったのかなって。この数年で、普通なら起こりえないことがいくつもあったんだな――――なんて考えたらちょっとね」

「う。それはその、やっぱり謝った方がいい?」

「必要ないよ。いい経験だった。それに、俺にはいい母親が二人もいるし、家族も二人増えたわけだし」

「そ、そう。相変わらず大物よね、盾って。そういうこと、裏表なく言っちゃうし。お父さんからの遺伝かな」

「そういう意味ならまだ小物だよ、俺は。クラスメイトにすら変態呼ばわりされたし。あー、思い出すだけで軽く鬱になるな」

 うーん。いや、小鳥が俺に強く当たるのはいつものことだけど……変態はないだろ変態は。アレにだってちゃんと意味はあるんだぞ。

「まさか、クラスメイトが人界の救世主だなんて誰も思わないだろうしね」

「それはそれでいいんだよ。俺は変態じゃないけど救世主でもない。一日八時間の睡眠と、父さんと母さんとユリの関係が守れただけでよかったんだし」

「ほんと、頭が下がります」

「ま、二つの世界が戦争一歩手前って状態でラブロマンスやってた父さんと母さんって、どっかアタマのネジが外れてるけどね」

「それって、褒めてるのか貶してるのかどっちなのかな…………?」

 そう。時々忘れそうになる。

 でも、忘れることができない。見るだけで思い出せるから。

 母さんとユリ――――二人の髪は光り輝くような金色で、目は深い海のような青。この二人は、


『うわー、大変だーミカエルー!』


「おわあっ!」

「ひゃわっ!」

「ふにゃっ!」

 大音量と共に急に顔が大写しになったテレビに、みんなでソファーごと後ろにひっくり返った。後頭部を痛打して、ユリとしっちゃかめっちゃかになる。

「お、お兄ちゃん!? い、いったい何が起こったの!? 猫さんの反乱!?」

「落ち着け。おまえがどんな夢を見てたかはわかったから」

「あ、いたたた。盾、ユリ、無事?」

「うん。なんとか」

「わ、わたしも大丈夫」

 ソファーの背もたれ越しにではなくシート越しに見るという不自然な行為を行いつつも、テレビに目を向ける。

 そこには、金髪で小学生くらいの女の子が映っていた。ぶんぶん腕を振り回してくるくると回転を続けている様は、完全に夏休み最後の日に宿題進行状況〇%の小学生だ。

 ただし――――その後ろの光景はこれ以上ないほど近未来的で、かつ慌ただしく物々しい。軍事ものの映画の作戦司令室のような様相に、こちらも金色の髪ながら大人の人たちが浮かぶホログラムの間を走り回っている。

「て、天使長様?」

 画面に向かって、母さんが言った。

 俺も見覚えがある。天界の最高責任者、天使長ガブリエル。母さんの直属の上司だ。これでも一〇〇〇年以上生きている、らしい。

 天界の最高責任者で天使長。そう。大天使ミカエルである母さんの本来の上司だ。

『い、急いで戻ってきてー! 緊急事態なんだよー!』

「と、とにかく落ち着いてください。状況がわかりませんから」

 母さんの言葉でガブリエルさんは通信機に飛びついたらしい。顔の上下がテレビの枠に収まっていなかった。


『魔界が宣戦布告してきたんだよ! ドミニオンズの力だけじゃ結界を維持できないんだよー!』


 …………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………、……………………………………………………………………………………ホワット?

「魔界からの攻撃を受けているのですか!?」

『今はまだつつかれる程度だけど、確実に! 最近平和だったから結界の整備が雑になってたんだよー! わーん!』

 話についていけない。

 いや端々の単語はわかるんだけど、頭が回りきらない。

 魔界? 宣戦布告? 結界を維持? 整備?

「ッ、今頃魔界が動くなんて! とにかく、すぐそっちに戻ります!」

 バタバタと足音を立てて玄関に向かう母さんの後を追う。何にせよ、見送りはちゃんとやらないと。

「とにかく、天界に行ってくるから! 戸締まりとガスの元栓、ちゃんと確認してから寝てね!」

「わ、わかったよ! お母さんのいない間、天都賀家とお兄ちゃんはわたしが守るよ!」

 ガッ、とユリが母さんの手を握る。そのままカチコチと玄関の置き時計が時間を刻み、

「…………えーと、盾。ユリをよろしくね? あと、(けん)さんには連絡しておくから」

「…………イエス、マム。グッドラック」

 遠い目とサムズアップで通じ合って、母さんは勢いよく家から飛び出していった。

 と思ったら、ガチャガチャと音がして玄関の鍵が閉まった。

『あ、そ、そうだ! 臨時休業の張り紙出しておいてね!』

「あ、ああ、うん。わかった」

 り、律儀だなー、いつものことながら。

 さて、漏れ出た情報からすべてを知るのは難しいな。でも、

「ともかく、天界と魔界の間か天界自体が結界で守られてて、魔界が攻めてきたことでそれが破られようとしてる、と。で、今天界にいる天使だけの力じゃ守りきれない。状況としてはそんなとこか」

「そういうことみたいだね。でも大丈夫だよ。お母さんが戻ればきっと持ち直すし、お兄ちゃんはわたしが守るから」

 ぎゅ、と手が握られた。情けないけど、ユリの方が俺なんかよりずっと強いのはたしかだ。

 俺は人間で、ユリは天使。その差は埋められない。たとえ母さんや俺がどう思っていたとしても。

「それでも――――」

 言葉は続けられない。跳ねるように、リビングに目を向ける。


 ガシャン、とガラスの割れる音がしたからだ。


「お、お兄ちゃん…………?」

 守るって言ったの誰だよ、と腕に掴まって震えるユリに言うつもりはない。無言で傘立てから傘を抜いて、気配を殺して歩く。

 失敗したなー。木刀とか突っ込んどくべきだったか。

 開けっぱなしになっていたドアの隙間から中を覗く。庭へのカーテンが破れて、ガラスが散乱していた。

「いっ、たたた。結界が張ってあるかと思って、思い切りつっこんじゃった」

「――――――――」

 ローテーブルの上にいた子を見て動けなくなる。

 紫がかった黒の髪。女の子。さっき母さんが話していた特徴と一致する。

 ただし――――その髪の毛の隙間から伸びているのだろう羊のような一対の巻き角と、黒色のマントのような布で覆われた背中から突き出しているこれまた一対の黒い翼を除く必要があるだろうが。

 天使の翼は、言うなれば白鳩か白鳥のものだ。平和の象徴であり、清廉潔白の証明でもある。

 対して、彼女の翼は蝙蝠のものに似ている。少なくとも天使ではなく、きっと――――

「あ」

「っ」

 頭に乗ったガラスをはらう彼女と目が合った。

 これで奇襲はできない。傘を置いて、ユリをかばいながらリビングに入る。

「おまえ、アマツガジュン?」

 全力で身体の挙動を抑える。否定とも肯定とも取られてはいけない。

 推測するまでもなく確定事項。この状況でこんな手法で現れるのは天使ではない。

 相手は、悪魔だ。

「おまえが最重要要素だから籠絡しろっていう命令よ。喜びなさい。上級魔族の私が直々に足を運んであげたんだから」

 ローテーブルの上に立ち上がって、紫の髪の悪魔は高々と命令する。

 天都賀盾の新しい戦いの開幕の言葉を。


「おまえ、私のモノになりなさい」


   ○大   Ψ


 天界と魔界が戦争を始めたその日。

 天使に続いて、悪魔が家にやってきた。

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