取り消したい失敗
逆行転生?というものでなにか哲学したかったので書きました。悔いはありません!
「あぁ…失敗したなぁ…」
これは結末。俺の不手際から出たツケである。絢爛で美しかった王都も焼け落ち、王国たらしめる王室も無惨に殺された。全ては、これを起こした犯人を、俺が治したことが原因。国を滅ぼした咎は、俺にある。
俺の名前は、シオン。薬草と聖遺物の研究をしている魔法使いにして、王国を焼いている主犯を治した咎人だ。そんな俺だが、その主犯である嘗て勇者だった男、グリムを止めるために挑み、敗れたところである。普段ならば竜種の血液という特殊な力で回復できるところが、傷は塞がらず。寧ろ状態が酷くなっているのを感じる。
「竜封じの剣…研究所から盗みやがって…」
俺が研究していた聖遺物、「竜封の剣」。文字通り竜の力を封じる魔剣だが、普通の人間には効果はない。人の身で竜の権能を使える特殊体質でない限りは無用の長物だ。竜の力を持つ俺にとっては最悪な相性だ。権能が封じられ、傷は塞がらず血も止まらない。焼き払われ、瓦礫の山と化した王都では医者はすぐに駆け付けてくれない。つまるところ詰んでしまっている。
「あー…。やり直してー。取り消してぇ…」
遠のいてきた意識の中、俺はそう願い、視界が真っ暗になった。
「……ん。し…くん。…シオン君!」
そして、叩き起こされた。驚いて起きた後に辺りを見回す。
「…王都…ではない…」
「王都?何を寝ぼけてるんですか?」
「確か…町は灼けて…」
未だに覚めぬ微睡みをかみしめながら、意識が落ちる前のことを反芻していたところで、後頭部に衝撃が走った。痛い所をさすりながら、この痛みの犯人の方に目を向ける。白衣を身に纏った、長い黒髪の女性。翡翠色に輝く瞳を眼鏡で覆い、白衣では隠せない程の魅惑的な体つきをしている女性。彼女の名前はユイ。聖遺物研究の先輩で、よく共同で研究をしている研究仲間。非常に面倒見がよく、このように居眠りしている俺を叩き起こしてくる。
「痛い!何をする!!」
「これで目が覚めましたね。姫様が依頼していた実験が終わりそうなんです。主任は早く来てください。」
俺の抗議を無視して、要件を言うだけ言って風のように部屋を去った。
「…ったく。姫様…実験…主任…?…ん?」
ユイの言葉を思い出していると、引っかかるものが出来た。確かに、俺はグリムに殺されたはず。記憶としてしっかり焼き付いてしまっている。しかし、目の前の光景は焼け果てた王都ではなく、普段生活している辺境の研究所。直前の記憶とのズレが激しすぎて混乱してしまう。
「もしかして、趣味の悪い夢だったのか?それとも予知夢…?あるいは…」
やり直したいという願いが叶って、勇者を治療する前まで引き戻されたのか。夢にしては趣味が悪すぎるし、予知夢にしては現実味がありすぎる。普通予知夢というのは肝心な所だけが抜け落ちる、占いや未来予知の欠陥品に等しいものだ。今現実として実感してしまっていることを説明できるのは死に戻りしか考えられない。これが、趣味の悪い夢でならそれに越したことは無いが。むしろそれが一番いいとすら思える。あれが未来というのは甚だ認めたくない。しかし、
「もし、あの未来に向かうとしたら?」
運命は変えられないという。それは世界という一つの生き物が活動する上で必要になってくる生理現象のようなものだから。しかし、それを予見した者がいたとしたら?
「全く理解が追い付かんが…そうならないようにやってみましょうかね。」
先行きも、自分がどんな状態なのかも理解しきれないまま、一つの絶望だけを回避してみせようと思い、仮眠室から出た
じかいからほんへ