序:蘇る現代神話
作者の人格とキャラクターの性格はあまり関係ありません。悪しからず
結論から言えば、人々の平穏は人知れず守られた。ここは現代日本、それなりの都会。
「死出の旅路に向かうともがら~」
街角で、二人が共に歌い奏でる。
「なにゆえ悲しみ振り返るのか……」
一人は女子高生のなりを楽しむ少女。
「他者への優しさ捨て去りきれず~」
もう一人はドラムを叩く《スティック》だけを両手で振るい、空に浮かぶ長方形の紙を叩き、踏み、音を奏でる。
「この生命ひとつすら、不要なものと断じたものを……」
青髪赤目の少女、レヴィア。路銀を稼ぐべく、作詞した歌を歌う。
「全てを~疑い~捨てて残った~」
黒髪黒目の男、ベルク。実年齢は当人も覚えていないと吹聴するが、見たところは大学生一年目、と言った風体。
「「たった一人の……己を愛してやれと~」」
三曲目。全ての持ち曲を歌いきり、レヴィアとベルクは静止した。周囲の人は二十人ばかり。
まばらな拍手が連続的なものとなり、コンクリートの地面に捨て置いた空き缶に、まばらに小銭が投げられた。
おおむね成功。レヴィアは満足げに微笑み、ベルクもこんなものか、と小声で呟いた。
「反響小気味よく光栄の至り。次があれば、もっとよりよい時間を提供したい」
「反感抱かれなかっただけでも幸いですね~」
求められた握手は返し、一段落と言ったところでレヴィアは長髪をポニーテールにひとまとめにする。
ベルクもTシャツにジーンズといういでたちで、タオルを一枚取り出し汗を吹いてから、上に深緑色のジャケットを羽織った。
「じゃあ、次の場所に…」
その時、整地されすぎた公園に銃声が響いた。
それを銃声と気づいたものは、ベルクただ一人だけ。
他は不信に思ったものの、自転車でもパンクしたのだろう、あるいは爆竹でも非常識な遊び人が鳴らして遊んでいるのだろう……と、さまざまな理由を見出し、日常的な折り合いをつけた。
「お前ら、無許可の路上のライブは道路交通法違反って知らないのかよぉ」
「なんで知ってるんですか? チンピラが」
「チンピラじゃあねぇ。我々はテロリスト」
えぇ……? レヴィアは困惑した。
ベルクはふところから呪符とめくらましのトランプを取り出し、因縁を付けてきた若者と、その周囲の少年たちに複数枚を投げつけた。
「オン・アミリト・ドバンバ・ウン・ハツタ・ソワカ」
彼の真言は、残念ながら源流を尊重したものではなかった。全て我流であり、不完全なものである。
「失礼、観客方。これは蛇足のヒーローショーとなるが、残虐な表現が含まれる。苦手な人は帰ってくれ」
ベルクが告げると、呪符が貼り付いた自称テロリスト達の首から上が光り、そして消えた。
残ったものは首から下の肉塊たちのみだった。
「……え」
それはベルクが見せた幻にすぎなかったが、自らの死を印象づけられた若者たちの心を折るには充分。
「なんだコイツ」「逃げろ」「逃げろ!」
足がすくみ動けぬ者たちをベルクは追い打つ。
「ノウマク・サマンダ・バザラダン・カン」
次なる呪符は六枚放たれ、公園の周囲に散らばり六芒星の線で繋がる。
「地球の五行の許可はおりた。貴様らの五感を未来永劫剥奪する。地獄と煉獄の狭間で罪を悔い続けるがいい」
ベルクが敵対者とした者たちの目から光は消え、言葉を放つこともしなくなった。
「やれやれですね。ではでは皆さん、ごきげんよう」
レヴィアはひらひら手を振って、ライブ(違法)を楽しんでくれた人々に別れを告げ、ベルクと共に公園をあとにした。
「やりすぎでは?」
レヴィアはベルクを白い目で見る。
「少し驚かせただけだ。三日もすれば後遺症も残らず、すっかり動けるようになるだろう」
「……三日間は?」
「何も出来ず地獄のような空腹感に苛まれることになる」
「ひどすぎる……」
「なに。餓鬼にふさわしい地獄を見せたまで」
「ホント大人げないですね?」
あとは警察か軍隊にでも任せよう。
ベルクは言って、公衆電話から匿名での通報を終わらせた。
人々の幸せを密かに願う彼らが出会ったのは数年前、地球ではないどこかの世界の出来事だった───。
マイペースにつらつらやっていきますね