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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

9,000文字短編!!勇者を辞めて魚屋になりたいのだが、最強美少女の仲間たちがそれを許してくれない件!!

作者: RS世代

 最近実家の魚屋が儲かっているらしい。



「ま、マジかよ……」



 親父の手紙にオレは驚いた。


 手紙の内容は、簡潔に言うと魚屋が儲かっているので帰って手伝えとのことだった。


 その内容だけならオレも別に、今忙しい時期だから、と軽くお断りする程度だっただろうが、驚くべきは儲かった値段。



 親父の手紙によると、王都の1等地に家を3軒買っても0が1つ多いくらいの数字がそこには記されていた。


 証拠の写真も、付いていた。


 金銀煌めく豪華なお屋敷の前で、すっかりふくよかになった親父と、見違えるように綺麗な服を着たお袋。



 年の離れた兄たちもなんだか賢そうな顔になっていて、正直同じ写真だけなら絶対に家族だとは気付かなかったろう。


 あとみんな、元気そうで何より。



 そうかぁ────


 オレの実家、儲かってるのかぁ────



「こりゃあ、勇者の真似事なんかやってられないな……!!」




   ※   ※   ※   ※

 



 魔物が世界を支配しようと、侵略を繰り返すこのご時世。


 善良な市民たちを守るため国は、民間の中でも大きな力を持つ者たちに協力を仰いだ。


 賢者、盗賊、踊り子、戦士etc.


 その中でも代表的な職業がオレら勇者だ。



 命をかけ明日食う飯を手に入れるこの職業は、かなりハイリスクローリターン。


 しかし、強いやつには夢のような生活が待っている、ぶっちゃけ一発逆転みたいな職業である。



 村で一番強かったオレは何を勘違いしたか、3年前親の反対を押し切り、悠々と街に出て勇者を始めてみた。


 しかし結果は見ての通り、村一番は世界一番になれないどころか、街一番にもなれなかった。



 幸いにも仲間に恵まれて、今日まで何とか生き残って来れたが、そろそろ潮時だと自分の中でも自負がある。



 勇者業この道3年────よし、辞めよう、転職だ。




「みんな、実は大切な話があるんだ」


「話って何よ? ゆーしゃから改まってそんな事、今までなかったわよね?」


「あぁ、ごめんな。重要なことなんだ」


 

 女賢者、女盗賊、女踊り子、女戦士────


 オレの仲間のパーティーメンバーがそれぞれ宿の共同スペースの一角に集まる。



 右から見て、美少女、美少女、美少女、美少女────オレなんか釣り合うべくもない。


 女性としても、魔王に立ち向かう人間としても、魅力的な人たちだ。



 オレの職業は勇者────つまり立ち位置的にはリーダーと言うことになるけれど、要領が悪いのでこの女の子たちにお情けでパーティーに入れてもらっている。


 正直みんなと別れるのは辛いけど、その情けなさも今日で解放されるかと思うと気分はわりかし明るかった。


 貸し切りのこの宿、ここなら心置きなくコイツらに話せるだろう。




「実はオレ、勇者を辞めようと思うんだ」


「えっ!!」



 真っ先に声を上げたのは、女賢者だった。



「な、なんでそんな突然────君がいなくなったら私嫌よ!」


「止めてくれるのか女賢者。でももう、決めたことなんだ」



 女賢者────見た目普通に10代女の子だが、この子が凄い。


 何でも先代の魔王が現魔王に裏切られ死にいたる際、最期の抵抗としてその魔力とスキルの全てを、ある少女に受け渡しこの世を去った────それがこの女賢者だ。


 その後魔王の力を持った彼女は有り余る力を制御するため国一番の大魔導師の元で修行し、始めてすぐに師匠の技術を上回ったそうだ。


 街に出たら一緒にパーティー作ろうと誘ってくれたのが彼女だったのだが、まさかそんなすごい子だとは当時は思わなかった。


 レベルはもちろんカンストの999、因みにオレは32。


 情けなかろう?



「正直、オレの力と君らの力、ギャグかよってくらい引き離されてる。

 女賢者とは同じくらいに旅を始めたのにな」


「で、でもそんなの私たちが君を守るし────」


「それよ。常に守られ続けるって、心苦しいんだよ」



 どうやらオレ、最初の頃は気付かなかったが自分にデメリットになる「アンチスキル」なる物がサイレントで沢山付いていたらしい。


 モンスター倒しても他の人より1/10もレベルが上がらず、仲間がモンスターを倒してもオレに経験値はほとんど入らず、レベル28を超えた辺りでそれが特に顕著に表れ始めた。


 鑑定人も理由が分からないため手の打ちようがないそうだ。



 それでも今日まで勇者を続けて来たオレのメンタルを、誰か誉めて欲しい。



「ゆーしゃ、そんなこと言わないでよぅ、今、君の生活に足りない物はなぁに??

 レベルでも何でも、僕が盗んでくるよぅ?」


「止めてくれ、君が言うとシャレにならんだろ女盗賊」



 女盗賊────彼女は元々、マジもんの大泥棒だ。


 オレたちが旅を始めたばかりの頃、()()()()()()()()()()()、一時期国の存続が危ぶまれる────と言う事件があった。


 犯人はこの女盗賊────当時暇だからやったという不純な動機のヤバい奴だったが、オレたちと出会って何か気が晴れたらしく、そのまま王都を元の場所に返却してオレたちの仲間になった。


 しかも、誰にもバレることなくだ────大泥棒というか、もうそれ神の所業だろ。



 レベルはもちろんカンストの999、因みにオレは勇者の生命線である剣を、うっかり宿屋に置いてきたことがある。


 しかも3回だ。



「レベルは自分で上げたい、他から盗ってきたんじゃダメなんだ。

 その人が困っちゃうだろ?」


「わかったよぅ、止めとくぅ」



 それに、オレが盗みでレベルを上げようとしたら、多分経験値1/10以下スキルのせいでここら一帯の勇者が終わってしまう。

 


「いや、待って!!

 せっかくニッポンから転移してきて、君に会えたのに────2人の言う通り、もう少し考え直してよ!!

 私、君と出会わなきゃ今ごろ────」



 泣きそうな声で懇願するのは、女踊り子だ。



「ごめんな、もう決めたことなんだ」



 女踊り子────元々彼女は、異世界の「じょゆー」という職業に就いていたらしい。


 若いながらに世界を代表するトップスターだったとか。


 それなのになぜか、夢で出会ったというオレが気に入り、神に頼み込んで「転移」とかいう形でこの世界に来てしまった。


 その(かん)に、世界の狭間に逃げ込んだ伝説のサキュバスの消滅に居合わせ、そいつを合意の上取り込んで、半サキュバスになったそうだ。


 世界を魅了してきたその才能と、伝説のサキュバスの能力────その力で、今はオレたちの元で女踊り子として頑張ってくれている。



 レベルはもちろんカンストの999、因みにオレは学生の頃、異性に告白もしてないのにフラれたことがある。


 あれ、今でも納得いってないんだよなぁ────



「そんな……君がいたから、こんな恥ずかしい格好もしてこれたのに────」


「わざわざこの世界に来てもらったのに、ごめんな?

 てか、それそんな恥ずかしいのか?」


「恥ずかしいよ!! 元の世界だったら確実に痴女だよ!!」



 そうなんだぁ、「異世界」の事とか、オレにはよく分からないけれど。



 ちなみに「異世界」という名前の風俗店ならこの街にあるのを知ってる。


 気を付けろみんな、あの店はぼったくりのお店だ。



「だからお願い、考え直してよ────」


「みんないい加減にしないか!!」



 そう怒鳴り声を上げたのは、女戦士だった。



「ど、どうしたの女戦士?」


「どうしたこうしたもあるか!! さっきから聞いていれば!!

 お前達は自分達の事ばかりでゆーしゃのことを何も考えていないではないか!!」



 おお、よく言った女戦士。


 君がパーティーにいてくれて助かった。



 女戦士────彼女はなんでも、世界に存在する伝説のドラゴンを封印するため、その身を依り代として国に実験体とされていた少女だ。


 ドラゴン8体全てを体内に封印────それ自体は成功したはいいものの、力が暴走────実験施設から脱走し生き倒れていたところオレたちと出会った。



 今は体内のドラゴンや実験体にされていた国とも和解し、ドラゴンの加護や持ち前のチートスキルの数々もあって、かなりオレも助けられている。


 レベルはもちろんカンストの999、因みにオレは週一で何もないところで転ぶ。


 骨を折ったこともあるぞ。



「いいか、実験施設で酷い目に合わされた私だが、心までは折れなかった。

 それは、いつか大切な仲間に出会えると、亡くなった母に教えられてきたからだ!」



 店内に彼女の大声が響く。


 貸し切りで良かった。



「ボロボロだった私を助けてくれたゆーしゃ────君を見て、一目で『あぁ、もしかして出会いとはこういう物なのか』と直感した!

 国と和解した後も、君が魔王を倒すという夢を、必ず実現させようと、私は母の名に賭けてここまで来たんだ!」



 あれ────?



「そんな君が、勇者を辞めたいという────それは私は死ぬよりも辛い!!

 しかし!! それが君の幸せだというなら!!」



 あれれ女戦士さん?



 彼女の目から、キラキラと光る綺麗な一筋の雫が流れ落ちる。



「いいんだ────君が幸せを望むなら。私は君の人生を尊重する……」





 よ────



 余計辞めにくくなった!!


 ちょっとまって君、オレの味方だよね?


 実は辞めさせないための演技とか、君に限ってしないよね!?



 そこまで言われたらオレは────────




「いやいや、お、おねがいだから辞めさせろよ!! 限界だ!!」


「ダメよ!!」


「ねぇ、おねがいだから!!」


「僕も反対だよぅ!」


「クッ────殺せ!!」



 オレは頑なだった、しかし仲間も頑なだ。


 オレのことを大切にしてくれるのはありがたいが、それが強くないオレにとっては心苦しいのだ。



 いるだけで足手まとい────その歯がゆさは、彼女たちには中々理解して貰えない。



「とにかく、オレはこのパーティー辞めて実家に帰って────」


「たのもー!」



 言いかけると突然、宿の扉が開いた。


 げ、あいつは────



「ははは!! ゆーしゃ、こんな所にいたか!! さぁ僕と結婚しよう!!」


「男勇者ぇ────」



 朗らかにオレたち貸し切りのはずの宿に入ってきたのは、知り合いの男勇者だった。


 こいつに、オレは本当に迷惑させられている。



「男勇者ぁ~? んーもうっ!

 今大事な話してたんだよぅ、今日の用事はなにぃ?」


「もちろん! ゆーしゃへの求婚さ!! さぁ早く!!」



 女盗賊の鋭い指をツンと胸に突き立てられても怯まず、男勇者は続ける。



「しゃなりとした外見にその気の強さ、そして兄に影響されたというそのオレという口調────

 どこをとっても僕好みの魅力的な女性(・・・・・・)なんだ!!」


「はぁ、下らなぁ」



 あからさまに不機嫌そうな顔の女盗賊は、なんだいつものことか、と呆れて席へと戻った。



「結婚しようゆーしゃ!! 僕なら君を幸せにしてみせる!!」


「いやいや、だぁ~かぁ~らぁ~」



 この男勇者────性格はこんなんだが滅茶苦茶強い。


 この国の全てを賭けてもこの男勇者には勝てないと、誰かが言ったが反論する者はいなかった。


 数多あるスキルをほぼ完全に網羅して、あとは魔王に挑むだけ────


 のはずなんだけれど、なぜかオレに初めて会ったときから熱心に求婚してきて、その間勇者業は行っていない。


 王国最強の勇者がオレのせいで廃業中なのである、国のみんなに申し分けなさすぎるのだ。



「あんたは魅力的な男性かも知んないけど、逆にオレが釣り合わないんだよ。

 それに何度も言うように、オレはまだ結婚とか考えてないんだ。

 そりゃいつか素敵な男性と出会って結婚を────とも考えてるけどさ、それは今じゃないから」


「いや、今だ!!」



 遠回しに振ったつもりだったのに、男勇者はさらにオレに迫ってきた。


 しつこいなぁ~、いつもこんなかんじでうんざりだ。



「うるさいぞ男勇者! 貴様はまず麗人との会話から学んでこい!! それまでゆーしゃを視界に入れるな!!」


「はは!! いやだ!!」


「もう、くどいなうるさいな────男勇者、今日で決着付けよ?

 私たちあんたのしつこさには限界なんだよ。

 ゆーしゃは渡さないから」


「あん?」



 おっと、大人しい女踊り子が珍しく一歩前に出た。


 なんだか一食触発の雰囲気だ。



「君、僕と闘うというのか?

 いくら君たちでも、邪魔をするなら容赦できないな」



 うわヤバい。


 「オレのために争わないで!!」と冗談めかして飛び込もうかと思ったが、そんな雰囲気でもなさそうだ。



「あの、2人とも、店内で暴力沙汰は止めろよ?」


「分かってるよ。ほら見て、もう動けない(・・・・・・)から」


「へ?」



 へ────とマヌケな声を上げる男勇者、見るとその身体がピンと硬直して、棒立ちになっていた。



「え、何したんだ!?」


「魅了の加護をちょっと調整して、神経回路を操ってるんだよ」



 嘘ナニソレ、そんなこと出来るのか女踊り子。


 そもそも相手は王国最強の男勇者────それをアッサリ拘束するなんて、常識外れにもほどがあるぞ。



「ば、バカな────僕には魅了耐性も神経麻痺耐性も────まだまだ多くのスキルが付いているんだぞ!!」


「あーあー、それならさっきねぇ、触ったとき盗っちゃったよぅ」



 横でつまらなそうにジュースをすすりながら、女盗賊が言う。



 指でツンと迫ったときか────


 いやいや、それだけでスキルを盗む─────そんな常識はずれな「窃盗」も伝説の大泥棒である彼女なら可能なのか!?



「く、クソ……ならば力尽くで────」


「あー、はいはい動かないでー、ドレインタッチドレインタッチ」



 テトテトと男勇者に近付き、肩に軽くポンと触れる女賢者。


 すると、さっきまで縛り上げられていたような体勢だった男勇者が、その場にドタッと倒れ込む。



()()ひゃ()()────いっひゅんで(いっしゅんで)ぼくのひかりゃを(ぼくのちからを)────」


「男勇者、君凄い魔力ねぇ。先代の魔王の1/5くらいはあるわよ」



 次々とうちのパーティーメンバーに翻弄され、全く抵抗できない最強の戦士────


 その姿は見ていて、なんか哀れですらあった。



「あの、みんなもういいからさ、コイツもう懲りて近付いてこないだろうからさ、許してやろうよ?」


()ひや(いや)!!

 ぼひゅは(ぼくは)あひらめない(あきらめない)ひょ()!」



 いや、諦めろよ。


 多分お前この子たちに勝てないよ。



「今のがコイツの答えなようだ、失うのは国にとっては惜しいが、これもゆーしゃのためだ」



 静かに呟きながら、女戦士が男勇者の元へ歩き、軽く肩に触れる。



「お、おい女戦士? どうした?」


ひゃ()ひゃ()にほふ(にをす)りゅ()────」


「滅龍の加護を持って、我命ずる────灰となり滅っせよ!! リジェクト!」


「あああぁぁぁぁぁ─────!!!」




 響く断末魔────



 ファサーっと、灰が飛び散るように────



 男勇者が消滅した。


 そして、後には何も残らない。



 いやおい!!



「おお、おい女戦士!! こ、殺したのか!? 殺っちゃったのか!?」


「殺した、殺っちゃった」



 さも当然のように、女戦士が言う。



「ま、まずいだろ、国最強の戦士だぞ!?」


「あー、その辺は大丈夫だよぅ、多分ねぇ。

 あいつの不死身スキルは盗んでないからぁ、そのうちどっかで生き返るよぅ」



 え、えぇ~。


 不死身スキルといえば、神々しか持たないと言われているいわば掟破りの超設定破綻スキルである。


 そんなのを持っていた男勇者にも驚きだが、その相手を無傷で消滅させたうちのパーティーメンバーにも驚きだ。


 やはりこの子たちにオレはメンバーとして釣り合わない────



「あ、でも心配しないでゆーしゃ!

 魔法で火山内部に復活するよう設定しておいたから、当分大丈夫よ!!」


「何が大丈夫なの!?」



 あーまじか、当分男勇者に会えないのか。


 ストーカーじみたあいつの言動にはうんざりだったが、オレに求婚するからと、わざわざハーレムのパーティーを解散して来るくらい、一途なやつではあった。


 まぁ、そのせいでオレが申し訳なく思っていたのも事実だし、これを期にオレのことは諦めて、世界のために働いてもらうことを祈るばかりである。


 せめてもの救いは、今日この場で目撃者がいないことと、あいつが今日のことを口外するようなやつじゃないと言うことだ。



「全くお前達、設定破綻にもほどがあるな────ん?

 待てよ────?」


「どうしたのゆーしゃ────まさか!!

 男勇者と眼が合って妊娠でもさせられた!?

 やつのスキルで!!」


「それも盗っておいたよぅ?」


「持ってたのかよ危ねぇな────いや、そうじゃなくて……」



 今、そもそもの根底を覆すような発見があった。


 もしかして、もしかしてだけど────



 もしかしてこのパーティーって─────




「明日にでも魔王、倒せるのでは?」


「え────」




 その言葉を発したら、場の空気が凍り付いた────



「えっと、いや、オレたち────いやオレは何も出来ないんだけど────王国最強の男勇者倒せるなら、魔王も怖くないんじゃないかなぁ────と?」



 あれ、オレなんか変なこと言ったか?



「何も出来ないくせにすまん────ど、どうかな?」


「ごめんゆーしゃ────」


「はひっ!?」



 女踊り子がそう言った瞬間、オレの身体が硬直する。



「え? え??」



 訳が分からないうちに、彼女に男勇者と同じ事をされた。


 え、なに!?


 ちょっと待ってこれ────裏切り!??



「また、気付いちゃったかぁ。これで何度目だろぅ?

 いい加減ゆーしゃの記憶を『盗む』のもぉ、本人の脳へのダメージ、考え始めないとぉ」


「お、女盗賊!?」



 ため息をつきながら、女盗賊がオレに近付く。


 え、なに!?


 ヤバいヤバい、逃げないと!!



「止めてくれ!! 何すんだ!!」


「ゆーしゃがパーティー辞めたいって言った理由、実家の魚屋さんが儲かり始めたからよね? どうしましょう?」


「とりあえず私が邪龍の力を使って、元の生活に戻るぐらいの不運を付与しておこう。

 燃やしてもいいが、ゆーしゃの悲しむ顔は見たくない」



 いまかるーく、実家が不幸になった!?


 親父、お袋、なんかごめん!!



「そういえばさっき、女戦士抜け駆けしようとしたよね?

 自分だけゆーしゃの味方になってズルよ」


「フン、ゆーしゃが貴様らを何とも思っていなければ、消し炭にしてもいいのだぞ?」


「ほいほい喧嘩しなぃ、喧嘩しなぃ。

 魔王倒せるかもって発想、ご実家が儲かってる話と合わせてぇ、その記憶も盗んどくからぁ」


「レベルアップデバブも、更新しておいた方が良さそうね。

 このままじゃそのうちレベル上がっちゃうわ」



 女戦士も近付いてきた。


 コイツら────



「や、止めろ!! オレを殺す気なのか? 確かにオレはお前達の足を引っ張ってばかりだった! でも、パーティー辞めるんだ!! ホントだ!! だから殺さないで!!」



 怖い───怖い───


 身体がガクガクと震え、股に生暖かい何かが広がり、涙も出てきた。



 仲間に殺される────裏切られる!!


 今まで参謀も戦闘も、日々のパーティーのお金のやりくりさえ出来なかったくせに、ゆーしゃだのリーダーだの、彼女たちに甘えてきたツケが今精算されようとしている。



 でも────戦闘は役に立てないオレでも、この子たちとは、仲間として、友だちとして、うまくやれてる────


 

 そう思ってたのに!!





 しかし、みんなからの返答は意外な物だった。




「ふふ、何言ってるのゆーしゃ?」



 女踊り子が、静かにほほえむ。


 優しく、朗らかに────



「もちろん、殺したりしないよ。君はそのまま、そのレベルで、私たちとずっと旅を続けるんだよ?」




 女賢者も、ほほえむ。



「魔王に苦しめられてるみんなにも申し訳ないわ。

 けど魔王を倒したら、君ともう旅が出来なくなっちゃうじゃない?」



 なんて────



「そうだよぅ、本当は君を一人占めしたいけれどぉ、私たちで協力してぇ、君と旅を続けるのが一番幸せだって気付いたのぉ」


 と、女盗賊。



「あぁ、世界よりも大切な君を、逃したくはないからな」


 と、女戦士。



 コイツら、そこまでオレのこと────




「「「「そう、ずっと一緒」」」」



 もはや、意識が曖昧になり、誰の言葉か分からない。


 いや、誰の言葉でもなかったのかも────




 そこか、ら、はダ、メ だ、、記憶 が  途、切れ  て ──














 どうやらまだまだ、コイツらとは旅を続けることになりそうだ。

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[一言] 続編か、長編などでもっと読みたいです
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