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防疫都市"武蔵海原"、その行政府の最上階で、1人の女が高級感のあるデスクを殴り付けていた。
「クソが!!」
とても女性とは思えない口調で罵り、手に血が滲むのも構わず、再度デスクを殴り付けた。
「防壁の修復状況は!」
「昨夜未明にほぼ完了致しました」
鬼気迫る様子の行政府長に、内心若干引きながらも、一切表情には出さず秘書は答えた。
忌々しい触手共から、人類を守る最後の砦、それが防疫都市でありその為の防壁なのだ。
それをいとも容易く一撃で、しかも内側から破壊し、あまつさえ女性と男性の命を奪っていった。
行政府長は、エデン解放戦線を実際に経験した世代で、触装少女の恐ろしさを知っていた。
そして、人類の世界人口が減少の一途をたどっていることも。
その為、武蔵海原では他の防疫都市にない政策がいくつかあった。
それが、一夫多妻政策とプラントと呼ばれる人工授精施設だ。
男性が沢山いるよりも、1人の男性に対して複数の女性で子を成した方が、人口を増やしやすいと考えたからである。
そして、貴重な男性を失わない為に、検疫兵は女性のみで構成されていた。
女性だけで触手に対抗するため、陰部は特殊な器具により保護され、パワードスーツとアーマーを纏った特殊部隊であった。
触手、触手と言っているが、それは触手状の器官を生やした化け物の俗称であり、初期は未確認生物の1つとして扱われた。
そして、見た目の分かりやすさから触手という俗称がそのまま定着し、その生物に寄生され身に纏う少女を触装少女と呼称するようになった。
触手と触装少女の大きな違いは、殺すことが出来るか出来ないかである。
宿主を得た触手は、宿主になった少女共々、不死性を得る。
男性は触手と触装少女の駆逐対象になっているようで、人類という種を残す為、触手を駆逐する検疫兵は女性のみの部隊になった。
しかし、それは新たに触装少女を増やす可能性を孕んだ諸刃の剣でもあった。
故に、検疫兵の女性隊員は陰部に特殊な器具を装着していたが、今回の触装少女の襲撃事件では、その器具は意味を成さず、鎮圧に向かった検疫兵がことごとく寝返る形で幕を下ろした。
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現在、武蔵海原は第1種警戒態勢を発令し、今回の事件で破壊された防壁の修復・強化と、プラントによる失われた人口の回復が行われていた。
そして、今回の触装少女襲撃事件は、世界各国の防疫都市を震撼させた。
各国の防疫都市は、独自の防疫強化と、共同による検疫兵の装備の強化を開始した。
人類の存続を懸けて。