1.落果追う者たち
原罪により楽園を追われた人間は、
やがて畢罪によって土塊へと還り、
楽園へ戻ることを許されるだろう。
〜葬悉教会偽典七十七章 凋零〜
*
壮麗に整えられたその部屋は、神殿というものがその役割を果たしていた、はるか古代の姿をそのまま小さく切り取ったかのような空間だった。
適度に取り入れられた陽光が、飾り立てられた可憐な花々と、居並ぶ石柱との合間に涼やかに流れる水のせせらぎに、きらめき、踊る。
そしてその場の空気もまた、美しい光景にふさわしい、自然の息吹そのものを聞き、感じられるような――静かで清らかな、神聖さをともなっていた。
だがその神聖という言葉について、齢わずか五百歳程度でしかない赤衣の訪問者は、最も簡単なはずの『神』という存在を連想することができない。
かつてそうした存在が信仰を集めたことを知識として身に付けてはいるが、彼にとって、神聖という響きに最も近いものは、神などという旧世界の遺物ではなく、この部屋の主と、そして――春咲姫と呼ばれる少女に他ならないからだ。
「……先んじて簡潔に報告は受けています、ヨシュア」
広い部屋の中央――庭園の東屋のような造りをした場所に置かれた、ゆったりとした長椅子に落ち着く若い女性が、ひざまずいて頭を垂れる赤衣の青年に、いたわるような調子で声を投げかける。
彼女こそが部屋の主だったが、そのいかにも女性的でしなやかな肢体を包むのは、色合いも装飾も華美どころかむしろ質素とも言える、うすぎぬを幾重にも重ね合わせただけのような法衣であり……神殿に奉られた主というよりはむしろ、それに仕える巫女といった装いだった。
だが彼女の、意志の強さと深い知性を感じさせる切れ長の目から、すっと通った鼻筋、一片の花びらのようにつやのある唇へと繋がる顔立ちは、曙光を浴びる世界そのもののような栗色にきらめく長い髪と相まって、奉納された神像のごとき美しさをもたたえていた。
「申し訳ありません、ライラ様……。ですが、次は必ず……!」
「一体何があったというのです? 私が受けた報告はただ、あの二人を取り逃がしてしまったという結果だけ……。
しかし、いかにノアでも、追い詰めたあなたを退けるようなすべがあるとは思えません」
「……邪魔が――」
ヨシュアの喉の奥から、絞り出すようなかすれた声がもれる。
ライラと呼ばれた女性が「何か?」と問い返すが、ヨシュアは険しい表情を少しばかり和らげ、首を振ってその言葉を宙にかき消した。
「あ、いえ……今回の失敗に関しましては、ただ、わたしの慢心から来る油断が、あの二人に逃げ出すスキを与えてしまった……それだけのことなのです」
「油断……ですか」
ライラは、ヨシュアの真意を見抜こうとするように、しばらく無言で彼の目の奥を見つめていた。
だが……やがて彼女なりに結論を出したのだろう、静かに一つうなずく。
「――分かりました。彼らをあなどっていたという点では私たち花冠院も同様なのですから、あなたを責めることはしません。……今回の失敗を教訓に、引き続き捜索にあたりなさい」
「ありがとうございます。必ず、あの子たちの身に何かが起こる前に、保護して参ります」
「ええ、期待していますよ。……人の世に、死の影など射してはならないのですから」
ライラの言葉を受けたヨシュアは深々と一礼し、その神殿のごとき部屋を後にする。
細緻な装飾の施された美しい廊下で彼を待っていたのは、彼と同じ赤衣の青年だった。そのまま足早に部屋から遠ざかるヨシュアに追いすがり、赤衣の青年は問いかける。
「隊長、あの男について、ライラ様にはどのように報告を……?」
「ライラ様には報告していません」
「そ、そんな……良いのですか?」
けげんそうな部下に、ヨシュアは足を止め、文字通り射抜くような鋭い視線を向ける。
基本的には童顔といった造作の、優しげで涼やかな印象を与えるはずのその顔は、内からあふれ出す怒りによってだろう、見る者をひるませるほどの険しさと厳しさにゆがんでいた。
「花冠院の方々は春咲姫とともに、常日頃より我ら庭都に住まう民の安寧のために御心を砕いて下さっています。まして、洗礼より逃げ出したあの兄妹のこともある今では、なおさら御苦労も多いことでしょう。
そんなところへ、さらに問題を持ち込むようなマネはしたくないでしょう?」
「そ、それは……確かにそうですが、しかし……」
「要は、問題となる前に、あの男を我らで捕らえてしまえば良いのです。だから……分かりますね? 今しばらくの間、あの男のことは春咲姫と花冠院の方々はもちろん、余計な混乱を防ぐため、他の花冠院直属の枝裁鋏にも伏せておくこと。――いいですね?」
どこか煮え切らない態度でいた部下の青年だったが、ヨシュアが強く念を押すと慌てて姿勢を正し、敬礼を残して彼の指示を実行するべく廊下を走り去っていった。
その後ろ姿を見送るヨシュアは、なぜ自分がこうまで苛立っているのか分からなかった。すべての元凶が、あの黒衣の男にあると、それだけは確かであるにもかかわらず。
あの男の邪魔で、任務に失敗し、敬愛する主のライラや春咲姫を失望させたこと。
そして何より、庭都の治安を守るために何百年と戦闘訓練を積んできたこの自分が、同じ戦士でもない男に、まるで歯が立たなかったこと……。
それらがもたらす怒りや悔しさが一因なのは間違いない。だからこそ、自らの手で屈辱を晴らし、汚名をそそぐべく、あえて報告を伏せたのだから。
だが……それだけではなかった。それだけではない何かが、得体の知れない感情が、心の奥底から彼に訴えかけていたのだ――あの男を否定しなければならない、と。
「……カイン……!」
宣教師がノアたちに向かって告げた名を思い出し、ヨシュアはそれをその響きごと噛み砕こうとでもするように、いまいましげに口の中で繰り返した。
*
何と美しく整った、穏やかで平和な街なのか――。
雲一つない満天の星空の下、行き交う人の流れに混じって街を歩く黒衣の宣教師――カインの心中に、この一日を通して素直に浮かび上がったのは、そんな感嘆の思いだった。
高い技術力による機能性の追及よりも、中世から近世にかけての、古き良き芸術性の再現に重きを置いているらしい美麗な建築物と、みずみずしい草花が彩る庭園。
人工物と自然が最も美しく調和するよう計算され、形成された街並み。
そして、その中で生活する――民族や世代、歴史といったものから現れる共通性がない、文字通り多種多様な格好をした人々の、唯一の共通点ともいえる、すべてに満ち足りていると言わんばかりの明るくなごやかな雰囲気。
いかなる昏さも穢れも存在せず、あらゆる人が、ただただ心安らかにいられる世界……。
それは、記憶のほとんどが失われていることを自覚している彼であっても、この街に比肩しうるような場所は地球上のどこにもなかったと、そう断言できるほどのものだった。
「庭都――か」
人の会話を初めとする、街にあふれ返る情報を拾うことで知り得たこの都市の名……自分が今ある場所の名を、カインはそっと口の中でつぶやく。
そうして、言い得て妙だと思った。
なるほど、安らぎに満ちた人々を包み込む、完璧なまでに美しいこの世界は、楽園と意味を同じくするその名がふさわしいだろう。
――だが……。
この一日、ずっと心からぬぐえずにいた違和感。この庭都においては、完全な異物である彼だからこそ、何より敏感に感じ取ったのだろうその違和感が、言葉として形をなす。
――だがかつて人は、人になったがために楽園を追われた。そして……人は、人であるがゆえに、楽園には戻れない。ならば楽園に住まうのは、人であっても、人ではない――。
特別に何が違う、というわけではない。道行く人々は、その誰をとっても、何をとっても人間だ。否定することがバカバカしいほどに、どこからどう見ても人間だった。
しかし、それでも。何から何まで完全に人間であっても――。彼には逆に、何かが欠けているように感じられた。
それも、人を人たらしめる、最も大切で当たり前のものが。
『自分たち以外の人間が、死ぬわけがない――』
幼い兄妹の片割れが彼に告げた言葉が、脳裏をよぎる。
――人は、死ぬものだ。
それが彼にとっての、嘘偽りない常識だ。くつがえりようのない真理と言ってもいい。
しかし――彼はその真理を根底から打ち崩す、かの少年の言葉を、自分でも驚くほど素直に当惑することもなく受け入れていた。
実際に目の前で、あの赤衣の二人が、少年の言葉を証明するように、致命傷を与えようと立ち上がってきたからということもある。
だが、理由はそれだけではなかった。
彼自身、気付いていたのだ。未だはっきりとしないが、彼の中には、その事実をありえないことと否定するどころか、確かな真実だと裏打ちする……何らかの記憶があるということを。
「いや、それだけではない――か」
ありえないことと言うなら――。そう考えながら、カインは自らの手の平に目を落とす。
そして、それをごく単純に握ったり開いたりしてみた。ただ思うがままに。
――そう、ありえないことと言うなら。
こうして自分が動いていること――それが何より、ありえないことのはずなのだ。
*
「失礼します、碩賢。よろしいですか?」
どことなく薄暗いその部屋は、現在ではおよそ時代遅れもはなはだしい、いかにもといった形状の情報機器やモニターに埋め尽くされていた。
重厚なものとはいえドアたった一枚でへだてられただけの、これまで居た整然とした通路とのギャップに、いつものように目を細めながら、奥へ声を投げかけるウェスペルス。
それに応えたのは、どこか中性的な響きでわずかに甲高い、少年の声だった。
「それは入室する前に言うものだと、もう何年言い続けとるかの、ウェスペルス?」
機器群の奥にすえられた、これもまた何かこまごまとした機械が備え付けられている大きな椅子がくるりと回転し、ウェスペルスの方へ向き直る。
そこに座っているのは、法衣などでなく、ずっと機能的かつ愛想のない白衣を着込んだ、見た目十代半ば頃の小柄で痩せた少年だった。
髪を短く刈り込んだ利発そうなその少年は、からかうような、しかしどこか年齢に似合わない含みのある笑みでウェスペルスを出迎える。
「部屋の外で呼んでもムダだからと、僕も何十年も言い続けてきたと思いますよ」
「そうじゃったか? ワシは記憶に無いがの」
老人のような言葉でそう言って、老人のような笑い方で快活に笑う少年。
その姿を見ながら、ウェスペルスもつられて苦笑する。
「それで、何の用かな……と、決まっとるか。あの兄妹のことじゃな?」
「はい。碩賢は先刻、居場所を割り出せそうだとおっしゃっていましたので」
「まあ……まだ絞り込みの最中じゃがな」
碩賢と呼ばれた少年は椅子を回し、背後の前時代的なコンピューターを操作する。
この部屋の機器は、主人である碩賢の好みに合わせて見た目こそ古いものの、その多くは実際には最新鋭の技術が惜しみなく投入された最新型だ。そして、それらも含めた様々な技術開発を研究者として総括しているのが、他でもない彼、碩賢だった。
「ノアの坊主が、ここを出て行く前にメインコンピューターのシステムに手を加えていきおったことは報告したろう? そのせいで、ネットワークを使った捜索は今しばらくまともに使えんのじゃが……ちょっとした計算と行動予測ぐらいなら、メインシステムに頼るまでもないからな。あの子らがヨシュアをまいた地点を中心に、一定距離内にある宿泊施設数件を、事情を知るライラのところの若いのに見張ってもらっておる」
「身体の弱いナビアのことを考えれば、確かに休息は取るでしょうが……ノアのことです、用心深くそうした施設は避けるのでは?」
ウェスペルスの疑問を、碩賢は得意げに鼻で笑った。
「だからじゃよ。だからこそ逆に、あの坊主はこちらの裏をかこうとそうしたところを選ぶ。メインシステムをいじって、こちらの行動を抑え込んだという自負もあるじゃろうしな」
「……なるほど。ところで碩賢、その、ノアがおこなっていったという、メインシステムの改ざん操作。そちらの復旧はどうですか?」
ウェスペルスが続けてその質問を向けると、ぴたりと手を止めた碩賢は、先ほどとは一転、何とも言いがたいしかめっ面を見せた。
「一応、それについても報告は受け取っていますが……碩賢の個人的な見解を直に聞きたいと思いまして」
からかっているようにも、ただ無邪気なようにも聞こえるウェスペルスのたおやかな声音に困惑さえしながら、碩賢は眉間に皺を寄せたまま、ぶっきらぼうに答える。
「あの坊主め、単純なデータベースの改ざんどころか、システムの根幹そのものにまで手を加えていきおったようじゃからな……チームの者たちが総出で復旧作業にいそしんどるが、今も言ったように、すぐさま元通り、というわけにはいかんじゃろ。
何しろ、あまりに巧妙にやられておるから、そもそもどこがどういじられたのか、一見しただけでは判断できんような状態でな」
「具体的にどうなるんです?」
「……それが分かれば苦労はせんわい。まあ、自分たちの身分を偽造したのは間違いないな。そうでなければ食料の調達も満足にできんし、どこへ行くにも、何をするにも足跡が付いて居所がすぐに割れてしまうからの。
もちろん、それだけとは限らんが……少なくとも、あの子に――春咲姫に、そしてあの子が愛するこの庭都に、直接の被害を与えるようなことはしておらんじゃろうよ」
碩賢の意見に、ウェスペルスは神妙な顔でうなずいて同意する。
「そうでしょうね。あの子たちは、春咲姫が憎くて逃げ出したわけではないはずですから」
「憎い……か。まあワシとしては、今はノアの坊主を小憎らしいとも思うがな」
冗談混じりに言って、碩賢は肩をすくめた。
「教え子にしてやられた、といったところが、ですか?」
「そんなところじゃ。――ただ、やはりあの坊主は天才だったと、改めて思うな。さすがというか、大したものじゃよ。
こういう形での証明になったが……将来花冠院の一角を担わせるべく、英才教育を施すに値する、という見立ては、決して間違っていなかったというわけじゃな」
「そうですね。ナビアも含め、人格的にも問題なく育った。春咲姫との仲も良好で……まさかこんな暴挙に出るとは、思ってもいませんでした」
「まさか……か。本当にそうか? ウェスペルス」
碩賢は目を細め、首を振っていたウェスペルスを見上げる。
その視線はウェスペルス本人や彼の真意といったものよりも……もっとはるかに遠いものに向けられている、そんな気配があった。
「……なあ、碩賢のじいさん」
「なんじゃな、坊主」
――それは、一月ほど前のことだった。
そのときも、会話の口火を切ったのは、一見、外見上は同年代の少年二人の挨拶にしては、奇妙に聞こえる呼び名を交えた台詞からだった。
デスクに向かう碩賢の脇で、飾り気のない椅子を前後逆に、背もたれの上に腕を組んで座るノアは、いつも通りに振る舞っているものの、どこか緊張しているように見えた。
「死ぬって……どういうことなんだろう」
知的好奇心のおう盛なノアは、幼い頃からいろいろな疑問を碩賢に投げかけてきたものだ。だが今回のそれは、明らかにいつもと毛色が違った。
「……また奇妙なことを聞くもんじゃな。どうした? 突然」
「突然、ってわけでもないんだけど……まァいいや。
――で……どうなの? じいさん、旧史の頃は医者だったって言うし、普通の人より、その……接する機会は多かったハズだろ? そういったことにさ」
「ふむ……それについては否定はせんが。そんなことを聞いてどうする?」
「一度、聞いてみたかったんだ。俺だって、死についてはいろいろと考えてきたけど……それが、そう、死が当たり前にあった頃の考えと……どう違うのかな、って」
うまい言葉が見当たらなかったのか、答えるノアの歯切れはめずらしく悪い。
「……ま、正直に言ってしまえば……究極的には、分からん、の一語に尽きるか」
椅子の背もたれに深く身を預けながらの碩賢の言葉に、ノアはあからさまに顔をしかめた。からかわれていると感じたのだろう。
「しかたなかろう。ワシとて死んだことがあるわけではないのだからな。
ただ……イヤじゃったよ、もちろん。知り合いなら言わずもがな、赤の他人――いや、人でなくとも、死を見るというのは決して気分の良いものではなかった。
いつの間にか、慣れはするんじゃが……それは自分が受けるショックをやわらげるための、防衛本能のようなものじゃからな。空恐ろしく、物悲しい……死が持つ、その本質が消えるわけではなかったな」
はるか遠い過去を思い出して――碩賢はそれこそ老人のように目を細めた。
「でも、それだけじゃない……だろ? でなきゃ、そのショックにつぶされるだけのハズだ」
身を乗り出して問いなおすノア。
碩賢はほう、とうなる。
「……そうじゃな。死とは、つらく、悲しいものじゃ。無いにこしたことはない。
だが……過去の人間たちが、そこに何らかの意味を見出して、次代の命、歴史の糧にしてきたのも……また、疑いようのない事実じゃな。
ワシとて、過去に出会ったいくつもの死に何かを学び取ったからこそ、ここでこうしておるのじゃろうし――の」
「……そっか。やっぱり、そうなんだな……」
背もたれに組んだ腕の中に顔を埋め、独り言のように、ぽつりとノアはつぶやく。
「もし、不凋花の洗礼を受けずに生きたとしたら……俺も、そういうことがもっと分かるようになるのかな」
ノアの言葉を聞き取った碩賢は、微苦笑を浮かべながら小さく手を振った。
「その好奇心は大したものじゃが、許可はできんぞ。今は年齢的にしかたがないが、成人してからも死のある生を生きるなど、思いつきや、若者特有の反抗心などでやるようなことではないからな。……それは坊主、お前が思っている以上につらいものなんじゃぞ?」
その碩賢の、いかにもものを知らない子供に対するような言い方にカチンと来たのか、ノアは一瞬眉をひそめたが……すぐさま、背もたれにダラリと垂れ下がるようにして「はいはい」と大きく息を吐き出した。
「どーせ、俺なんて新史生まれの世間知らずの箱入りだもんな。……けど――」
話は終わったとばかりに立ち上がるノア。
その彼の眼差しの奥に、一瞬、空恐ろしいほど透き通った何かを感じ――碩賢は、何気ないいつもの別れの挨拶を告げるのに、驚くほど手間取ってしまうのだった。
(あれは、何だったのか……予感めいた……。まるで、あの不凋花を初めて見たときのような……人では、うかがい知ることなどできないような……)
「……碩賢?」
ウェスペルスの呼びかけに我に返った碩賢は、苦笑混じりに首を横に振った。
「ん……ああいや、もしかすると、ワシの余計な一言が、あの坊主の反抗心に火を着けてしまったのかも知れんなぁ、とな」
「からかわれたぐらいでこんなことをしでかすほど、あの子も愚かではないでしょう」
碩賢の、そんな冗談の奥に秘めた真意を知ってか知らずか……ウェスペルスはただ、小さく肩をすくめる。
「――ところでウェスペルスよ。坊主たちの居場所が割れたらどうする? 今度はお前さんあたりが直接向かうのか?」
「いえ。そのときにはもう一度、ライラのところのヨシュアに真っ先に連絡をお願いします。ここで、一度失敗した彼を差し置いて僕が出張るようなことをすれば、彼も立つ瀬がないでしょうから。
職務に忠実な彼に、挽回の機会をあげたいのです」
優しい笑顔で告げるウェスペルスに、碩賢は「お前さんらしいな」とうなずいた。




