4.母親だからこそ
――その来客を報せるチャイムは、夜もふけた、いささか失礼な時間に鳴り響いた。
日によっては寝入っていてもおかしくない時間帯の客に、しかしルイーザは不満も不機嫌も出すことなく、むしろ普段よりも愛想良く玄関口に顔を出す。
そこにいたのは、失礼な時間の訪問だと自覚しているからだろう、申し訳なさそうにうつむき加減の、彼女もなじみの警備隊員アロンだった。
「やあ、こんばんは、ルイーザ。……実は、ちょっとややこしい事が起きてね」
アロンは、ルイーザが思ったよりも機嫌を損ねていないことを見て安心したのだろう、一旦は表情を和らげたものの、すぐにまた、先程とは別種の緊張に顔を引き締めた。
「この間の、天咲茎から逃げ出した子供の話なんだけどさ……ほら、丘の上の方の工場があるだろう? そこに、新しい管理人として居着いていたみたいでさ」
言って、アロンが視線を向けた方向を、ルイーザもちらりと見やる。
「そうなの? でも、あそこに新しく来たのって、確か三人だって聞いた気がするけど」
「ああ、どうも子供たちには協力者がいたらしい。――で、その子供たちを含めた三人なんだけど、ほんの数時間前、工場から逃げ出したらしくて、今警備隊も総出で探しているところなんだ。それで……それらしい人影が通るのを見なかったかと思ってね」
「……それ、一人は背の高い、僧服みたいな黒い服を着た男じゃないかしら?」
ルイーザはいともあっさり答えたが、アロンにしてみればそれは予想外のことだったのだろう。それこそ飛び上がらんばかりに驚きながら、間違いないと何度もうなずく。
「夕食の後片付けをしていたら裏手の作業小屋の方で人の気配がしてね。何かと思ってしばらく様子を見てたんだけど、少し休憩してただけだったのか、すぐにいなくなったわよ」
そのときの様子を思い出すように、頬に手を当てながら話すルイーザ。
「それで、どの方角へ行ったか分かるかい?」
「そうねえ……ちらっと話し声が聞こえたけど、どうも街の方じゃなく大きく迂回して――ほら、牧場が集まっている方があるでしょ? あっちへ行こうとしてたみたいよ。あなたの今の話からすると、当然真っ先に調べるだろう最短ルートから一旦外れるためでしょうね」
「なるほど……分かった、ありがとう。助かったよ」
こうしてはいられないとばかりに、アロンは勢い込んで闇の中を走り去っていった。
ルイーザは、その背中が見えなくなるまで戸口で見送ってから、家に戻る。
そして、
「……これで、少なくとも今夜いっぱいは安全なはずよ」
と、明かりの落ちた居間で、闇に溶け込むように壁際にたたずむ、黒衣の男に声を掛けた。
「――すまない。あらためて礼を言う」
その男――カインの礼に、小さく手を挙げて応えると、ルイーザは電灯ではなく、テーブルの上にあるアンティークなランプに火を灯し、ソファに腰を下ろした。
ランプの柔らかな光の中に、テーブルの上に並んだままになっている食事のあとが浮かび上がる。彼女、ルイーザと――客人たちのものだった。
片付けるのは後でいいか、などと少し怠惰に考えながら、ルイーザはカインに尋ねる。
「……あの男の子の方は? もう寝ちゃったのかしら?」
「ああ。寝室の方にもソファがあったので、勝手ながらそちらに移させてもらった」
「そう……まあ、兄妹一緒の方が安心するでしょうしね。
――あなたも、もう休んだら? ここまでやっておいて、今さらあなたたちを警備隊に引き渡すなんてこと、しやしないから」
カインは静かに首を横に振った。
「あなたを疑っているわけではないし、厚意はありがたいが、私は大丈夫だ。
それよりも聞きたいことがある。――どうして、私たちをかくまってくれた?」
「うーん、そうねえ……どうしてかしら……ね」
そもそも彼女は、昼間、なじみの店で話を聞いたときから、工場に来た新しい管理人というのが、天咲茎から逃げ出した子供たちではないか、ということは何とはなしに察していた。
それだけに、つい先刻、作業小屋の軒先で隠れるように休んでいる彼らを見つけたとき、その正体を、そして追われているという状況をすぐさま理解したのだ。
そのときの判断として適切なのは、庭都の住民の責務という意味でも、子供たちの身の安全という意味でも、すぐに警備隊に報せることだったはずだ。事実、彼女の頭に真っ先に思い浮かんだ行動はそれだった。
しかし結局――彼女はそうしなかった。
警戒し、逃げようとする彼らをなかば強引に家に連れ込むと、寝床と食事を提供し、さらに熱を出していた少女の看病も行った。しかもたった今その行方を捜しに来た人間に、嘘の情報を流してまで追い払ったのだ。
何か理由があるはずだと考えるのが普通だろう。だが本当に――当の彼女自身には、理由として形になるような理由が見当たらなかった。それはもう、衝動と言う方が正しいようなものだったが……その衝動のきっかけだけは、はっきりしていた。
「あの女の子――ナビア、だったわね。あの子の苦しそうな顔を見たから……かしら」
「しかしそれを助けようというのなら、引き渡して不老不死になるよう処置をしてもらう方が確実――ではないのか?」
「……あたしは、旧史生まれだから。まあ……そう簡単に割り切れないところもあってね」
言って、腰を上げたルイーザは、壁際の飾り棚の方へ近付くと、その上に並んだ幾つかの写真立ての内の一つを取り、カインに見せる。
古い物らしく全体的に色あせたその写真には、年の頃はナビアよりも若干幼いだろう、十代前半と思われる少女が、笑顔で映っていた。
「娘のリリーよ。目もとがあたしに似てるでしょう?」
ルイーザはそっと写真の少女をなでる。
「優しくて、明るい子だったけど……重い病気にかかってね。あたしも、夫も、この子が助かるようにと、自分たちでできることを必死にやったわ。でも――ダメだった。この写真を撮ってから、一年後……娘は天に召されたの。
もう千年以上にもなるし、その悲しみを引きずってるというわけじゃないわ。でも、そのとき見たあの子の姿も、感じた気持ちも……消えたわけじゃないのよ」
驚くでも、同情するでも、哀しむでもなく――カインはただ、「そうか」とうなずいた。
一見して無愛想で冷たくも見えるその態度だが、しかしそれが彼なりの最大限の思いやりであることが、ルイーザには分かった。
ほんの少し前に会ったばかりの、誰とも知れない相手だが、その気配の根底に、長年連れ添う彼女の夫と似通ったものがあると感じたがゆえだった。
「……このぐらいしか言えないけど、納得してもらえた? さすがに無理かしらね?」
「いや――充分だ。ありがとう」
そう答えて、カインは静かに、ナビアやノアが眠る寝室へと姿を消す。
残されたルイーザは、しばらく閉まったドアを見つめていたが、やがてもう一度だけ手の中の写真に目を落とした後、そっと元あった位置に戻す。そうして、
「……ああ、そうだ。あの女の子の着る服、何か用意してあげないと。少し直せばなんとかなるわよね……」
穏やかな面持ちでそうひとりごちつつ、自分も居間を後にした。
*
――まるで、追い詰められた手負いの獣だな。
拘束していたヨシュアが再び逃亡を図ったとの報せを受け、現場に急行したグレンは、折良く捕捉することができた当人と対峙するや、真っ先にそんな感想を抱いた。
早朝ということもあり、まるで人気の無い路地。
そこに幽鬼のごとくたたずむヨシュアは、どろどろと煮えたぎる感情に昏くよどんで血走った目をし、苦痛とも恐怖ともつかない感覚に苛まれた顔つきは、元の穏やかだった表情からは想像もつかないほどにやつれ果てていた。
「どいてください! わたしはアイツを、あの男を、倒さなければならないのです……!」
「……まあ待て、落ち着け。ヨシュア、お前、自分で気付いてるか? その身体、致命傷から回復するまでの時間が、平均よりも大幅に遅くなってきてるぞ?」
一対一なら力ずくでも何とかなると踏んでいるのか、初めから腰を落として臨戦態勢でいるヨシュアをなだめるように、グレンはひょうひょうとした様子で話しかける。
「俺たちは確かに、傷を負って死ぬことはない。――だがな、痛み、苦しみまでなくなるわけじゃない。致命傷ともなればなおさらだ。特に、お前のように新史生まれで、実際の死がどんなものかまるで知らない人間は免疫がない分、ことのほか深い恐怖を感じるだろう」
「それが、どうしたと……!」
「――だからだな。お前の無意識と、そしてお前の中の不凋花が、未知の恐怖と苦痛に耐えられなくなってきてるんだよ。もう一度その感覚を味わうことを嫌がってる。身体を再生して、しかしその果てにまた耐えがたい苦痛に襲われることにおびえ始めてるのさ。
本来ならありえないことだ、だがな……生存本能がその恐怖に屈服し、苦痛から逃れる最後の手段として、死を選ぶのなら――いかに不凋花でも、それ以上肉体を再生することはできなくなる。
つまり、これ以上お前があの男に致命傷を負わされるようなら……今度こそ、本当に死ぬかも知れないということだ。それでも――追いたいのか? あの男を」
グレンの発言に、ヨシュアは衝撃を受けたようだった。
身体をわななかせ、自らの両手の平に目を落とし、そして食い入るように見つめる。
やがて……顔を上げると、諦めるという言葉を口にする代わりに、大きく頭を振った。
「それでも……! どのみち、アイツは追いかけてくるのです! どこまでも、いつまでも、わたしを!……死の恐怖とともに! それを止めるためには、危険を冒そうとも……!」
「……そうか、分かった」
あっさりした口調でそううなずいたかと思うと――グレンは、自分が預かっていた、もとはヨシュアのものだったナイフを投げ渡し、脇にどいて道を開けた。
その行動があまりに意外だったのか、ヨシュアは呆けたように動きを止める。すると、グレンはあらためて言葉で彼の背中を押した。
「どうした? 行け。止めたところでムダだと分かったからな」
ヨシュアは警戒しているのか、初めはじりじりとした動きだったが、やがてグレンに本当に邪魔をする気がないことを悟ったのだろう、全力で地を蹴って、グレンの目の前を駆け抜けていった。
「――感謝します……か。お前らしいな、ヨシュア」
すれ違いざま、ヨシュアが残していった言葉を繰り返しながら……グレンはしばらくその場で、陽が昇っていく空を見上げていた。
*
「……あら、おはよう」
朝早く、目を覚まして寝室を出たノアは、居間でルイーザと出くわした。
「あ……おはよう、ございます」
眼鏡の隙間から指を入れて眠気まなこを擦るノアの仕草に、ルイーザは微笑む。
「よく眠れたみたいね、良かった。――じゃあ、顔でも洗う? さっぱりするわよ」
ルイーザに連れられて洗面所に向かったノアは、寝起きでまだどこかぼやけている意識をきっちり覚醒させようと、冷水を何度も叩き付けるようにして、顔を洗う。
「……ねえ。一つ、聞いていいかしら?」
背後にいるルイーザの問いかけに、ノアは顔を洗いながら、正面の鏡越しにうなずく。
「あなたたちはやっぱり、どうしても……不老不死を否定し続けるの?」
「あなたは気を悪くするかも知れないけど……そこに本当の命はないって、そう思うから」
流れる水を止めて、そう答えるノア。
言った通り、気を悪くさせるか、怒らせるかしたかも知れないと思ったが、彼にタオルを渡すルイーザは、ただ柔らかくうなずくだけだった。
「――そう。それがあなたたちの思いだと言うのなら、仕方ないことなのかもね。
でも、覚えておいて。その生き方の先にあるのは、逃れようのない、確実な死。そしてその死によって哀しむ人間がいるという、事実なの」
「それは……あなたが娘さんを喪ったときのように……ですか?」
何となく目を合わせづらくて、タオルで目もとを隠しながら、ノアは尋ねる。
「昨夜の話……聞いてたの?」
「あ……はい。その、ちょうど目が覚めたとき、ドア越しに聞こえてきて……。それでその、やっぱり親って……子供のことは、何より心配だったりするんですか?」
自分たちを助けてくれた恩人のつらい過去を引き合いに出すことに、ためらいはあった。
しかしそれでもノアは、どうしてもそのことを尋ねてみたいと昨夜から思っていたのだ――子を持つ母というイメージが確かである、彼女に。
もしかしたらそれは、馬鹿げた質問だったかも知れない。だがルイーザは、あらためて真っ直ぐに向けられたノアの視線を正面から受け止めた上で、さとすように微笑んだ。
「誰もがそうだとは言わない。旧史の頃にも、子を虐げる親が……子に関心をもたない親が、子を愛さない、愛せない親が、いなかったわけじゃない。
だけど、ほとんどはそうじゃないわ。子が親を慕うように、親は子を慈しむものよ。少なくとも、あたしはそう。
……きっとね、あなたたちのお母さんも、自分なりに良かれと思って、あなたたちを春咲姫に預けることを承諾したのよ。あなたたちからすれば、どんな理由を並べ立てようと納得できることじゃないかも知れない。でも、できれば……ゆるしてあげて欲しい」
質問の真意をあっさりと見抜かれたノアは、気恥ずかしくなって思わずうつむいてしまう。
母親――。
ノアはその存在について、今ははっきりとした答えをもてずにいた。
天咲茎にいた頃は、連絡の一つもよこさない薄情な人と憎むばかりだった。だが、カインとナビアが親子のように接している――少なくとも彼自身がそうだと感じる姿を見ていて、彼の中に新しく生まれたのは、母を憎むのは、実は妹より母を慕うがゆえに、その想いに報いてくれないことへの反発なのではないかという思いだ。
だからこそ、その答えの手掛かりを求めて、母という共通項を持つルイーザに、馬鹿馬鹿しいような問いを、あらためて言葉にして投げかけたのだ。
「俺は……」
「……いいのよ、そんなすぐに答えを出さなくても。うんと悩みなさいな。あなたがいくら頭が良くても、これはそうしたものとは違う問題でしょうからね」
会って数時間にしかならないのに、この人は何でもお見通しなんだな、とノアは頭をかく。
なまじ近しい人間ではないからか、その言葉はヘタな反発もなくいちいち素直に、彼の中に染み込んでいった。
「……ところで、それ、何ですか?」
顔の水気をぬぐい終わり、眼鏡を掛け直しながらタオルを返すノアは、ルイーザが小脇に服を抱えていることに気付いた。
女物のようだが、どう見てもルイーザには小さすぎるものだ。
「ああ、これ? あなたの妹さんにどうかと思ってね。さすがに、このままパジャマで行動するわけにもいかないでしょう? 娘が小さい頃使っていたものだけど、昨夜のうちに少し直しておいたから、寸法とかも大丈夫だと思うし。
――ああ、そんな顔しないで、大丈夫。これは亡くなった娘の形見とかじゃなくて、今も元気な、もう一人の娘の方のお古だから」
気持ちが顔に出ていたのだろう。実際に彼が、そんな大事な物は受け取れないと口にする前に、ルイーザはそう釘を刺して笑った。
さらに続けて、「でも女の子だから、デザインが気に入らないとか言われちゃうかしらね」などとも言いながら。
その屈託のない暖かい笑顔、そして優しい言葉を受けて……ノアの心の中で一つ、悩んでいたことに結論が出ようとしていた。
「大丈夫です、アイツ、いかにも女の子らしい服、大好きだから。それに動きやすそうだし」
顔を上げてそう言うと、ノアは深々と頭を下げる。
「……本当に、何から何まで、ありがとうございました」
「いいのよ。――これから、あなたたちが自分の思いを貫いた先に、何があるのかは分からないけど……そう……どう言えばいいのか、とにかく――元気でね」
そっと頭をなでられて、ノアはもう一度、心を込めてお礼を告げた。そうすることで彼は、心に一つの整理をつけることができた。
――あの人に……会いに行こう。地上へ降りる、その前に。
自分たちを手放した理由を問いただすためではなく。それを、ゆるすかどうかを判断するためではなく。もちろん、欠けていた愛情をねだるためでもなく――。
ただ、正面から向かい合い――そして、自分たちに生命を与えてくれたことへの礼と、別れの言葉を告げるために。
母に会おう、会いに行こうと――彼は心を決めた。
……日も高くなった頃、また、チャイムが鳴った。
昨夜のことを思い出しながらルイーザがドアを開けると、そこにあったのはアロンよりもずっと見慣れた――もはやなじみがあるという程度では済まないほどに見慣れた男の顔だった。
お世辞にも男前とは言えない、古傷と髭に覆われた顔……しかしそれでも、彼女が向けたのは明るい笑顔だ。
「いらっしゃい、グレン。久しぶりね」
「どうせなら、お帰りなさい、と言ってもらいたいところだったな」
答えて、グレンも苦笑をもらす。
永遠の愛など神父の前で形式として口にした以外、お互い冗談にしたことすらないというのに、気付けば千年もの間連れ添っていた――彼女の夫だ。
「あたしも、どうせならサラが来てくれる方が良かったわね。……あの子、元気にしてる?」
「つい先日、また執務室が汚いって雷を落とされたところだ。春咲姫の嬢ちゃんが、俺のことは放っておくようにって、アイツに一言言ってくれりゃいいんだがなあ」
すねた子供のように口もとをゆがめながら、がしがしと乱暴に頭をかくグレン。
一見すれば、その様子はまさに世間話をするためだけに立ち寄った、だらしのない夫という雰囲気だ。しかしルイーザは、グレンが訪ねてきた本当の理由などすでに察しがついていた。
そして夫なら、こうして多少の言葉を交わし、ここから家の中の様子を見ただけで充分、彼女がどういう行動を取ったか見抜けるだろうということも。
「……予想される逃走経路の一つに、この家があるのを見たときから予感はあったが」
頭をかいていた手を止め、グレンは長い息を吐き出しながら、ルイーザを見た。
「リリーのことを……思い出したか?」
「それは、お互いさまなんじゃないの?」
グレンの問いに、ルイーザは悪びれるどころか、むしろ挑発するように問い返す。
果たして、グレンはしばしの間を置いて、参ったとばかりに首を振った。
「……お互い、こうも長いと隠しごとができんな」
「ずっと昔からよ。――あなたの方はね」
ルイーザはくすりと笑い――玄関から居間の奥、写真の中で彼女に応えるように笑う、亡き愛娘を……続けて、同じくそちらに視線を向けていた夫を、ちらりと見やる。
人一倍優しいがために、人一倍喪失に心を痛めるがゆえに。
かつて戦時中、同胞の人々を護ろうと戦い、そして実際多くの命を救いながら……しかし、病魔に冒された最愛の娘だけは救えなかった、哀しい男。
自分にできるのはそれだけと、死を払うために戦いながら、戦うがゆえに死のただ中に身を置かざるを得なかった、不器用な男――。
それがグレンという男だと、ルイーザは誰よりも心得ている。そしてそんな男だからこそ、自分と同じように、理屈では速やかに兄妹を確保するのが最善だと分かっていても、いざとなればためらい、どこかで手心を加えてしまったであろうということも。
「それで、あたしをどうするの? 反逆者として連行する?」
グレンはもう一度、首を横に振った。
「まさかな。病んで苦しむ子供を助けて、それがどう罪になるって言うんだ」
そして、ゆっくりとルイーザに背中を向ける。
「……なあ、ルイーザ。不老不死を受け入れたこと、後悔したりはしていないか?」
「いいえ」
グレンの言葉に、一瞬驚きはしたものの、ルイーザは即座にそう否定した。
「でなければ、サラを授かることもなく……リリーを喪った悲しみばかりを抱いて、墓に入ることになったでしょうから」
「――そうか。俺もだ」
背中を向け、まぶしそうに手の平をかざして空を見上げたまま、グレンは答えた。




