WORLD 1-7 隠し事を誤魔化すのって難しい
「や……やっとついたぁ~」
「やぁ。無事でなにより」
空に赤みがかかってきた頃、俺はユーリ達との合流場所である森の入り口になんとかたどり着いた。
「おせぇゾ! オマエ、何やってたんだヨ?」
「うるせーな、思いっきり迷ったんだよ。最初は木の枝を折って目印にしてたんだが、調子に乗ってボアちゃん倒してたら見失ってだな……」
「何やってんダ……オマエのせいでかなり待たされたゾ?」
ガルには呆れられたが、これでも森の歩き方を工夫した方だと自負している。
「そう言うならさぁ、飛んで俺を探しに来るとかできねーのトリ君? こういう場面でこそお前みたいなキャラが生かされる時だと思うんだけど?」
「まぁまぁ。ガルはまだ幼いから、1人で森を飛ぶのはまだ危険なんだ。そこは勘弁してやってくれ」
「なっ、なにィ!? オレだってもう1人で飛べるシ! いつもやってないだけデ……」
バキッ
ユーリからの思わぬフォローを受けて焦るガルの言葉を遮ったのは、森の中から出てきた“キングさスライム”が枝を押しつぶす音だった。
「ギャー!!」
「……お前がそういうキャラなのはよーく分かった」
慌ててユーリの背中に隠れるガルを尻目に、俺は目の前のモンスターと対峙する。
「ビッグさスライムかぁ。ゲーム序盤に出てくるとは珍しいな-」
「大量発生したのが強力な魔物だったから、さスライムも集団になって一体化したんだろうな。やれやれ……」
さスライムには、危険を察知すると同種で集まって一体化する習性がある。
ビッグさスライムは、そのさスライムが一体化した上位種だ。
見た目はたださスライムを大きくしただけのようだが、HPと攻撃力はさスライム1個体のそれよりも2桁ほどの差がある。
気だるそうに剣を抜くユーリに、
「たまには俺にもやらせろ」
そう言って俺はユーリから一歩前に出る。
そして手ごろな大きさの石を見つけると、それをキングさスライムに向かって、
「てい」
[テコッ]
蹴った。
蹴られた石は弾丸のようなスピードでキングさスライムに命中。
紫色の巨体に石が貫通し、ゼリー状の形が崩れ液体となった。
「おう、終わったぞ」
そう言って俺が振り向くと、
「「…………」」
ユーリとガルが唖然とした顔で立っていた。
無理もないか。いきなりこんなの見せられちゃあな。
蓮は2人の顔を見て1人苦笑する。
この世界に来て手に入れた能力の一つ「物体を蹴る」
物を蹴る、それだけで何故か蹴られた物体は超スピードでまっすぐ等速直線運動をする。
蹴られた物体は空気抵抗を受けないが、他の物体に当たると止まって落ちる。
木々や岩に当たった時は、その際に衝撃は起こらない。しかしモンスターに攻撃をくわえた時にのみ威力を発揮した。おそらく動物に当たるとただでは済まないのだろう。
……他の動物に試す気は起こらないけど。
フォレストボアーの二度目の遭遇の時、枝に躓き意図せず初めて攻撃をくわえたのはこの力だ。
ここまでの時間、フォレストボアーを倒しながらこの力を使って実験とかを色々していた。
結局分かったのは前述の簡単な法則性と、この能力もすごくアクションゲームっぽいという事のみだった。
「ナ、ナンダァ!? 今のはァ!?」
「石を蹴っただけでビッグさスライムが粉々に……なんて脚力だ……」
と、これをこのまま2人に説明しても吞みこんでくれる訳ないよな。
「お、驚かせたか? じ、実はこれ、俺の故郷で行われてる武術の一つなんだ……」
どこまで誤魔化せるか分からないが、仕方ないのでこれも彼らの勘違いにそのまま合わせることにした。
「君の故郷では変わった技を使うんだな……。なんという名前だ?」
「え?」
「君が習得した流派の名前だよ」
「え、えーと……崇破亜真佐尾流……」
「聞いたことのない流派だな……スーパーマサオ流か……」
おいやめろカタカナで言うんじゃない。製作会社違うんだから自重しろよ主人公。
……まあ、なんとか誤魔化せそうだ。変な奴で良かった。
「そ、それよりもう帰ろうぜ。もう暗くなるし、お前らも討伐数は稼いだだろ?」
俺はボロが出ないうちに話題をそらすことにした。
「お、そうだナ! ユーリ、帰ろうゼ!」
「あ、ああそうだね。じゃあ帰ろうか」
ガルくんナイスフォロー。こういう場面では役に立つ奴だ。
「そういやぁ、お前らはファレボアちゃん何体討伐したんだ?」
帰り道を歩きながら、俺は気になっていた事を聞いてみた。
なにせコイツのレベルは70を超えるという話だ。
フォレストボアーを一撃で葬り去っていた所を見ても、やはりそれ位のレベルはあるのは間違いない。
そんな奴がこういうクエストを受けると、いったいどんな無双ゲームになるのだろうか。
「見るかい?」
そう言ってユーリから手渡されたクリスタルの中を見ると、
「50……って、これしか倒さなかったのか?」
浮かび上がっていたのはクエストの最低討伐数。
「まぁ、稼ぐつもりだった訳じゃないからね。ちょっとした臨時報酬のつもりで行っただけだから」
守銭奴だと思っていたら、こういう場面では欲を出さないらしい。
「よく分からん奴だなお前。俺からは借金を取り立ててる癖に、稼げる時には稼がないのか?」
「コイツ、カネには困ってないからナ。それにイノシシ野郎だけ倒しててもダメだって言うんダ」
今度はガルの方から答えが返ってきた。
確かにこいつの強さならば金銭面には問題はないだろう。
しかし、駄目というのはどういうことなのだろうか。
ゲーム序盤のこの地帯には、フォレストボアー以上に強いモンスターはいない筈だ。
一部を除いて、モンスターの強さと経験値の量は当然ながら比例する。
今回のようなクエストは、金銭的にも経験値的にもとてもオイシイと思うのだが。
「……要するに、人間は強くなりすぎてしまったということだよ」
何故なのか理由を考えている所に、ユーリが何か意味深な言葉を発した。
……どういうことだろう。
太陽が地平線に沈んでいくのを見ながら、俺は何か重要な事を忘れているような気がした。