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WORLD 1-6  必殺技ってキマらないと悲しい



 スパン



「ゴッ……」


 それは一瞬の出来事だった。

 突然フォレストボアーが雄叫びを上げて接近してきたと思うと、ユーリが素早く腰の剣を抜いて斬りかかる。直後、フォレストボアーは横一文字に切断され、黒い煙となって消えていく。



 ガコン



 禍々しい煙が完全に消えた後、空から宝箱が降ってきて、

「はい、一丁上がりー」

 そしてユーリは剣を納め、慣れた手つきで宝箱の中身の物色を始める。



「……いや、強すぎんだろ」

 俺がツッコんだのは、その一連の動作が全て終わってからのことだった。




 フォレストボアーが大量発生しているという” の森”に入った俺達2人と1羽。

前回の例と同様“能力”で簡単にクエスト達成出来ると踏んでいたが、そこに思わぬ障害が現れた。


 すなわち、ユーリが強すぎたのだ。


 素早く敵の気配を察知し、剣で易々と切断してゆくその姿はまさに歴戦の勇者。とてもゲームの序盤の街にいるような冒険者のレベルではないことは一目瞭然だった。

 俺が敵に気付く前に既に倒されていたこともしばしばあり、俺はただ横から見ているしかできなかった。


「モンスターってあんな豆腐みたいに切れたっけ……」

「そりゃァ、ユーリのレベルは70超えてるからナ!」

「なっ、70レベ!? 歴代ブレクエならラスボスどころか裏ボスまで倒せんじゃん!!」

「らす……ぼすゥ……?」

「つまりすげぇ強えってことだ。それよりお前、少し俺にも倒させろ! 俺一匹も倒せてないじゃん。このままだと報酬貰えねぇよ」

 俺はユーリに文句を言うが、

「こういうのは早い者勝ちだろう? 君に敵を譲る理由もないよ」

「デスヨネー」

 正論を返されて何も言えない。しかし内心は焦りがつのってきていた。


 このまま何も出来ないと、いきなりホームレス生活になる……。


「アー……そもそも一緒に行動する必要もネェんじゃねーカ?」

 焦りが次第に顔に出てきた俺に気付いてくれたのか、ガルが助け船を出した。

「それがいい。効率化の為にも此処は別行動しよう。後でクエストセンターの前で落ち合おうか」

 ガルの提案にユーリも賛成し、同意を求め2人は俺を向く。

「まぁ、それが一番いい方法なんだが……一つ問題があってだな」

「「?」」

「帰り道わかんねぇ」





「グアアアアアアアア!」

「とうっ!」


[ピョーン]


[ペコッ]


 森の中での合流場所を決めて、一旦ユーリ達と別れた俺。

 ユーリに負けじと、“能力アクション”でフォレストボアー達を一掃していた。

 俺は『跳ぶ→潰す』という動作を繰り返しているだけだが、それでもかなりの討伐数になっている。

「最初は50体とか鬼畜だなって思ってたけど、意外と楽勝だなこれ!」

「ギャアアアアアアアア!!」

 誰に向けて言った訳ではないのだが、声に反応してフォレストボアーは相変わらず突進してくる。

「また来たか! はいよっと!」

[ピョーン]


[ペコッ]


「「ガアアアアアア!!」」

 今倒したボアーの雄叫びにつられ、2体のボアーが接近してくる。しかし俺は動じず、

「ほいさっ!」


[ピョーン]


[ペコッ][ペコッ]


「二連続キモチイイ!」

 2体連続で踏んで倒した。


 地面に着地した後、俺はポケットから握り拳一個分ほどのクリスタルを取り出す。

 クリスタルの中には、「27」という数字が浮かび上がっていた。

「へぇー、こうやって討伐数を数えてたんか」

 これはクエストを受けたときに受付で手渡された「カウンター」という魔道具だ。

 名前の通り、所持者が倒した特定のモンスターの数を記録カウントする道具である。

 俺はその存在を知らなかったが、この世界で開発されたのは約100年前だという。

 つまり歴代ブレクエのストーリーの時間軸で言うと、“ブレクエⅠ”の時代に作られたことになる。

 ゲームではモンスターを倒すと、システムが勝手に討伐数を加算していた。しかし現実となったこの世界ではそんな便利な物はあるはずもない。

 不正を行わせないためにも、このような証拠が必要なのは当然だ、とこれを俺に渡したセンター係員の言葉を思い出した。


「ゲームと現実ってのは、実際違う所が結構あるもんなんだな……」

 今まで周囲にはブレクエの大ファンと自らを語っていた俺だったが、この世界はまだ知らない事が数多くある。

 そんなことをしみじみと感じていると、

「グオッ!? ギャアアアアァ!!」

「折角世界の大きさを痛感してたのに、水差すなよボアちゃん!」

 また1体のフォレストボアーが俺に気付き、突進をしてきた。

「しかたねぇなー。とうっ! くらえ俺の必殺技! スカイストラーイク!!」


[ペコッ]


「…………ダメだ、この効果音が全てを台無しにする」

 

 そんな1人遊びをしながら、俺は着々とカウンターの数字を増やしていったのだった。


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