WORLD 1-5 トリ系マスコットは売れるのだろうか
「ああ!……お前が今作のマスコットキャラ的ポジションの……誰だっけ」
「オレはガル! なんだよその……ますこっときゃらてき? っテ」
昼時の賑やかな街並みの中に、二つの元気な声が響いた。
声のする方には二つの人影と、鳥の形をした生き物の影が一つ。
「まぁコッチの話だ。あんまり気にするとお腹を壊すぞ」
「ハァ?」
クエストセンターで用を済ませたユーリと俺は、外に出た後もそのまま同行していた。
もっとも、半ば俺が強引にユーリに付いてきたとも言えるが。
そして今の会話は、外でユーリを待っていた相棒のガルと、ユーリを追いかけてきた俺が鉢合わせした直後のものだ。
ちなみにガルが外で待っていたのは、クエストセンター内へのペットの持ち込みは禁止されているためらしい。……こいつペット扱いなのか。
「おいユーリ、なんでこんな得体の知れないニイチャンを連れてきたんだヨ?」
「さぁ? それは付いてきた彼に聞いてくれないか?」
少し困った顔のユーリが言った。
「簡単に言うとだなぁ……お前に借金をしたはいいが、野放しにしておくとなんか更に増えそうな気がしたからだ!」
「ん……? 借金? ニイチャンがユーリに……? あー……」
何かを納得し、俺を不審な目で見ていたガルが急に哀れんだ表情になる。
「ニイチャン……災難だナァ。こいつに借りを作っちまうトハ……」
「あ、やっぱり? 正式な書類とかは無いただの口約束だったけど、コレは危ないって俺の金銭感覚アンテナがピンピン言ってた」
「借金したんならなるべく早く返した方がいいゼ。放っておくとロクな事にならねェからナ」
やっぱりそうなのか。ナイス俺の第六感。
「分かったそーする」
「ちょっと君達? ボクの目の前でそんな悪い言い方をするのは流石に心外だよ?」
ユーリが口を挟んだが、俺とガルは無視して話を続ける。
「でもニイチャン、返すアテなんてあんのカ? 変わった格好してるけど、見たとこ一文無しじゃねーカ」
やっぱりここでは『変わった格好』扱いらしい。どこをどう見たら『武闘家』になるのだろうか。
「ン?」
俺はちらりと自分を『武闘家』だと勘違いした“張本人”に目を向ける。
その人物はもう俺とガルとの会話に入れそうにない事を悟ってか、民家の前に置いてあるツボの中をのぞいていた。
やだあの人怖い。
「いや、なんでもない。――返すアテならちゃんとあるぜ。こう見えて俺、腕っぷし……? いや、足っぷしはある方なんだ。だからあいつが受けたのと同じ、報酬が良さげなクエストに便乗することにした」
「へェ~。ニイチャン強えのか……全然そうは見えねェけどナ」
失礼なやつだ。
「……ストレートにものを言うんじゃないぞ。トリ」
「トリィ!? 違うぞオレは『サンダーバード』だ!! 強えんだからナ!」
「へぇ~。お前強えのかぁー。全然そうは見えねぇけどなー?」
「うグッ……!」
俺に言葉を返されてたじろぐガルだったが、また何かを言おうとして、
「ちょっといいかな? ガル、そろそろ昼食にしよう。お腹空いただろう?」
「あァ……そういやそうだナ。よし、どっか食べに行くカ!」
腹が減っていたのを思い出したらしく、今度はユーリと会話を始めた。
さぁ今日は何を食べようか、などという会話をきいているうちに、
グウウウウウウウウウ……
低い地響きのような音がどこからか聞こえてきた。
「アン?」
ガルが音のした方へ顔を向ける。自分では分かってはいたけど、音源は俺のお腹です。
「……俺も腹減ってたの、わすれてた……」
「あ、良かったら奢るかい? もちろん後でお金は返して貰うけれど」
ユーリが微笑みながら言った。心なしか恐怖を感じるんだけれども。
「あ、悪魔の微笑み……それに“奢る”って言葉の意味が違う……。でもお願いします」
「ニイチャン、ホントに借金返せんのかヨ?」
ガルがため息をつきながら言った。
しかたないでしょ。空腹には勝てないんだから。
「いやぁ~助かったぜ。助かってない事もあるけど、とりあえず腹は満たされた」
「それじゃあさっきの500ゴールドと今回の昼食代の95ゴールド、あと利子も加えた分“貸し”だからね」
「……てめぇ、ワザとちょっとお高い料理屋に行っただろ」
「誘惑に負けて食べてしまったキミが言うことじゃないと思うけどなぁ?」
街の料理店で昼食を済ませた俺達2人と1羽は、クエスト達成のため《フォレストボアー》が大量発生しているという森に向かっていた。
昼食を“奢って”貰ったことでユーリからの借金は増えるばかり。日本語は正しく使いたいものだ。
だが、ここで稼いで返してしまおうと俺は決意を固める。
「しっかしよォ、ニイチャンがホントにこんなクエストできるのかァ? 相手はあのイノシシ野郎だゾ?」
ここで『今更ながら』という表情で、唐突にガルに質問をされた。
「フォレボアちゃん大量討伐な。まぁお前が心配するのも無理ないよな」
『フォレストボアー緊急討伐クエスト』
そう銘打たれたこのクエストを受けて俺が生きて帰れるか、ガルが危惧するのはもっともだ。
『緊急討伐クエスト』はその名の通り、緊急に発布されるクエストである。
ゲームの世界では、急に発生するモンスターを討伐するクエストで『ランダムクエスト』と言われている。
現実となったこの世界観で説明すると、モンスターによる街や集落への甚大な被害が想定される場合に、主にそこを治める領主が依頼するものだ。
今回のクエストはサマルトロ王国から依頼されたもので報酬はとても良く、フォレストボアー1体を倒すたびに500ゴールドが手に入る。しかしその内容が内容なだけに、冒険者は殆ど集まらなかった。
『フォレストボアー50体以上撃破した者のみに報酬を支払う』
これが依頼内容に書かれた最後の文だ。
ただでさえ強いフォレストボアーを50体。
フォレストボアー討伐可能レベルといわれるLv30前後の冒険者でも間違いなく萎縮する程の数である。
これを俺は、この世界に来て初めてのクエストに選んだ。
理由は、とにかく報酬が良いからだ。
最低でも成功報酬25000ゴールド。これはかなりの大金で、大抵の武器屋の防具類は何でも買えるし、安い宿屋なら1ヶ月は泊まれるし、何より守銭奴からの借金が余裕で返せる。
今陥っている金銭問題を解決するにふさわしい金額と考え、クエストセンター内にあるボードに貼られたこの依頼を見つけると真っ先に受けることを決めた。
俺の能力ならばフォレストボアーも簡単に倒すことが出来ることが分かっているため、このクエストは結構簡単なのではと踏んでいる。
「まぁ大丈夫だろ。フォレボアちゃんには因縁もあるしな。すぐに“凹まして”やるぜ」
そう言って俺は不敵な笑みを浮かべた。