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WORLD 1-4  渡る世間にゃ金がいる

「なんじゃそりゃ!」

 クエストセンター内部、広いエントランスにずらりと並んだ窓口の一つから突然頓狂な声が響いた。

「登録料が必要って……それ今払わないといけないんすか?」

「はい。規則ですので」

 何事かと周囲の視線が集まった先には、黒髪に黒目のこの街では珍しい風貌の少年。それと顔の表情を一切崩さず応答する女性係員のやりとりがあった。

「今俺、一文無しなんすけど……先にクエストをクリアして、報酬の中から支払うってのは?」

「だめです」

「ええー…………そこを何とか、できませんかね?」

「だめです」

「お願いします」

「だめです」

「…………」


 頼み込む俺と、頑なに要求を拒む係員。

 俺にとっては今後の生死の問題が絡んでくるので、ここではいそうですかと引き下がるわけにはいかない。

 両者がにらみ合い、主張を譲らない中、



「どうしたのですか?」



 お互い主張を譲らない2人の間に出来た溝の中に、突然男の声が割って入ってきた。

「ああん? 誰……ってうおっ!?」

「ゆ、勇者様!?」

 緊張状態が一気にほどけ、俺と係員は目の前の人物に目が釘付けになる。

「何かお困りのようだけど……ボクに手伝えることはあるかな?」

「それが……この方が登録料を払わずにクエストをやらせろとおっしゃって……」

「あっ、おい!」

 俺が呆然としているうちに、係員が今の状況を『勇者』に説明してしまった。

 機関の人間が第三者に個人的な情報を漏らしていいのだろうかと考えていると、

「ふぅん? キミ、見たところまともな装備もないじゃないか。何故クエストを?」

 『勇者』が俺に話しかけてきた。

「……まぁいろいろ事情があるんだよ」

 「異世界から来たので文無しなんです」などと言ってもかえって変な目を向けられるだけだと思い、俺はあやふやな返答をして、ひとまず相手との距離をとることにした。


「へぇ……じゃあボクが代わりに払おう。幾らだい?」

「は?」

「ありがとうございます! それではこちらにサインを……」

「は?」

「ほら、女性を待たせてはいけないよ。早くサインを」

 急すぎて思考が追いつかないが、この勇者が払ってくれるということだろうか。

「……えーとさ、ありがとうって言うところなのかココ?」

「別に感謝されたくてやったわけじゃないさ。貸しだよ」



 数分後、俺は言われるがままにクエストセンターの入会手続きを終え、「勇者様……頑張って下さいね!」と目を輝かせた係員に見送られて2人は受付を離れた。

「なんだよあの係員……俺とお前に対する態度が違うんですけど!?」

「まぁ怒らないでやってくれ。これでもボクはそれなりに名が通っているからね」

「あのなぁ……」

 俺は何気なく自分の有名さを語る少年を冷ややかに見つめて言った。

「そりゃ主人公だからだろ。『勇者の使命をもって生まれた、姫にお付きの騎士様』だっけか?」

「よく知ってるね。主人公? というのはよく分からないけれど、そう。ボクはその『勇者』って呼ばれているユーリだ」

「そりゃあ公式が発表したお前のプロフィールをそのまま言っただけだからな……」


 気になるゲームは発売前から情報収集をぬかりなく行う俺は、登録料を代わって払ってくれたこの少年――勇者ユーリの事を知っていた。

 そもそも俺がこの世界に転移する前、ゲームをしていた時に俺は『彼』を動かしていたはずだ。――何故かその時の記憶が無いのだが。


「コウシキガハッピョウ……? まぁいい。それよりキミは武闘家だろう?」

「はい?」

「その変わった服装、よく見るととても動き易そうに作られている。おおかた修行を終え、独立してこの国に来た若手武闘家ってところだろう?」

「あー……うん。そんな感じ、かな?」

「やはりそうか! 武器を持っていないからどうやって魔物と戦うのか疑問だったが、これで納得した」

 勝手に想像して勝手に納得しているが、そちらの方が俺もやりやすい。

 ひとまず口裏を合わせることにした。

「しかし、いきなり災難だったろう。クエストセンターでクエストを受けるには、先に登録料が必要だなんて……田舎から出てきた人たちは知らないから皆それに戸惑うんだ」

 おい。

 知ってたけどね? たまたま忘れてただけだし……あと田舎出身って勝手に決めつけんな。

 俺が向ける視線に全く気づかない様子で、勇者の話は続く。

「そんな困っている人たちを、たまにボクが助けているんだ。もちろんお金を貸す形でね」

 なるほど、なんにでも首を突っ込み問題を解決したがる性格はやはり主人公ということか。

「ああ分かった。きっちり稼いで金は返すよ……とにかく助かった。ありがとな」

「利子もちゃんと貰うけどね」

「…………いくら?」

「一日につき300ゴールド追加」

「……さっき受付で払えって言われたのが500ゴールドだよ? ボッタクリじゃねーか!?」

「さて、ボクはクエストを受けに行くかなー。お金は銀行にボクの口座があるから、そこに入れておいてね」

「コイツ聞いてねえし! おい待て!! お前良い奴だと思ったらただの守銭奴じゃねぇか!!」

 俺は立ち去ろうとするユーリを慌てて追いかけていった。


ユーリ君と蓮君がここで出会います。

ガルは次回出す予定です。


「入会金」から「登録料」に変更しました。

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