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プロローグ  俺の妹は99%のツンと、1%のデレで出来ている

蓮の一人称に変更しました。

この先、番外編以外では主人公視点で物語が進みます。

ピンポーン


 朝方、乾いたチャイムの音が家に鳴り響く。

「……キタ! 待ってました!」

 いつもなら何気なく聞く呼び出し音だが、今の俺――真名木 蓮にとってはとても待ち焦がれた音だった。

 目当ての宅配便が来たことを確認するとすぐに玄関へ走り、ドアを開ける。

届いた荷物を受け取り、高鳴る鼓動を抑えながら受取証にサインをする。興奮から思わず「お疲れ様です!」と宅配員であるドローンに向かって叫んだ。

「……ゴリヨウ、アリガトウゴザイマシタ」

 おきまりの返事が帰ってきただけで少し恥ずかしかったが、構わずドアを閉めるときびすを返してそのままリビングへ直行。そして、

「ブレクエじゅーうろーく! やっと来ましたアリガトウーー!」

 叫んだ。


「うっせーバカ兄貴! まだお父さんとお母さん寝てるでしょうが!」

「仕方ないんだ由希……この興奮は抑えられない!」

 突然大声を出したことで朝ご飯を食べていた妹の由希に叱られたが、俺も負けじと言い返す。

 土曜日なので、朝早くから学校の部活に出かける由希以外、真名木家はまだ寝ている時間帯だ。

「休みなのに珍しく早起きしたと思ったら……何があったらそんな大騒ぎできんの?」

 由希が奇怪ものを見るような目をしながら俺に聞いた。

「ふっふっふ……なぜなら今日は待ちに待った《ブレクエⅩⅥ》の発売日だからだ! 早めに届くよう設定しておいたから早く起きた! そして今届いた! 分かるだろう!? この興奮が!」

「イエワカリマセンシワカリタクモアリマセン」

 両親と同じく休日は遅寝遅起きの自堕落生活をしている俺が今日に限って早起きなのは、今日発売の《ブレイズクエストⅩⅥ》というゲームを早速プレイするつもりだったからだ。



《ブレイズクエスト》略して《ブレクエ》シリーズ

 1980年代後半に第一作《ブレクエⅠ》が発売され、たちまち人気になった国民的RPG。《Ⅰ》発売から50年の間、計15作が発売されており、その人気は未だ衰えることなく続いている。

 今作《ブレクエⅩⅥ》はシリーズ50周年記念として作られた。

 このシリーズを《Ⅰ》からやり込んでいる生粋のレトロゲーム好き、さらにブレクエファンでもある蓮が喜ばない訳がなかった。

「まさにブレクエの歴史を感じる一作! そして新たな50年を歩み始めるにふさわしい!」と発売前から過大評価し、予約が始まるや否や速攻でポチった“ガチ勢”の一人だった。

 発売日を一日千秋の思いで待ち続け、ブレクエへの愛は誰にも負けない、と自負している。



「――という訳で、俺は今日部屋に籠もってコレを満喫します。邪魔しないでネ」

「するかアホ。お兄ちゃんみたいなキモいレトロゲームオタクなんかに近づく人なんて誰もいないよ」

「地味に傷つくからやめてくんない? もう学校じゃけっこう笑い事じゃない浮いてるんだよ俺。もうその辺りをふわふわと浮遊してるのと変わらないレベル」

「共通の趣味とかが無いと友達も出来ないよ? この際レトロゲームから距離を置いたらどうですかー」

「それは無理ですね残念でした」

 心にチクチク刺さる言葉の総攻撃を躱しながら、俺はダンボールの箱を慣れた手つきで開封していく。割と大きめな箱だったが内容物はシンプルで、カセットが入った手のひらサイズのパッケージのみ。

「ふわぁ……この新品のいいニオイ……まだ誰にも使われていない綺麗なカセット……たまりませんなぁ」

「キモいですホント近寄らないで下さい」

 ネットで買い漁った中古のゲームとは違う、未開封のパッケージの香りを堪能している俺に、再び由希が害虫でも見たかのような嫌悪のまなざしを向けた。

(由希も中二だしな……きっと学校で苦労してんだろうな)

 由希の顔を見て、俺も中学校時代にあった様々な事を思い出す。おそらく友達関係でのうやむや、部活の中での上下関係など、俺の体験した人間関係と同じようなものをしている最中なのだろうと考え、

「なぁ、由希」

「……なに」

「お前も思春期真っ盛りだしいろいろ大変だろうけど、気負わず頑張れよ!」

「思春期って……高二も同じだろうが! なに大人ヅラしてんの!? 腹立つ!」

「中二と高二を同じにするな! 月とスッポン、いや土星の輪っかと天使の輪っかほどの差があるぞ!」

「空想的なものを例えに出すな! 逆にどっちがすごい方なのかわからないから!」

 妹を励ましたはずがいつの間にか口論になってしまったが、これも真名木家ではおなじみの風景だ。

(ツンデレな妹を持った兄の宿命だ……やれやれ、骨が折れるな)

「キモっ! ホント近寄るなキモオタ兄貴!」

「心の中まで読むこたぁないでしょう由希さん!」

 読心術まで身につけている妹に恐れおののきながら、俺はダンボールを畳んでダストシュートに入れた。不要な物はすぐにゴミ箱へ。綺麗好きな俺が心がける、部屋を綺麗に保つコツだ。

 もっとも、俺とは違い片付け能力が皆無の由希の私物にリビングはほぼ浸食されかけているが。

「さて、じゃ俺は部屋に籠もるとしますか」

「お好きにどうぞ。そのまま部屋から出てこなくてもいいよ?」

「さりげに怖い事言うなよ。そこまで廃人じゃねぇわ」

 そして俺はカセットを持って、家の二階にある自室へと上がっていった。



 まさか今の何気ない会話が、現実のものになってしまうことは夢にも思わずに。


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