001.プロローグ
このお話のラストまで連続更新します。
四十四話予定。
現在書き溜め四十一話まで。
果たして期間内に書き上がるのか。
「魔王はどこにいる!」
そして、勇者は剣を振り上げた。
鏃のように返しのついた、奇妙な剣。
太く、幅の狭い刀身には幾重もの傷が刻まれている。飾り気はなく、ボロ布を巻かれた柄尻からは不釣り合いに大きい金属の輪へとつながっている。
鉄杭か、でなければ釣り針のよう。
その背丈ほどもある武骨な剣を振り上げて、勇者は問う。
「魔王はどこにいるのか! 我らがラァナ・スィーアを占拠し、人と神とを殲滅せしめんとする悪の首魁は!」
少年は紛れもなく勇者だった。
例え乗り上げずとも、例え誰もが否定しても。
「我が剣を恐れぬのなら、魔王よ、その悍ましき姿をここに晒せ!」
生まれ故郷から幾万里、長征の末に辿り着いた魔王城の門前で、勇者は宣戦を布告する。
魔族の群衆に囲まれて、なおも胸を張れるのは勇気ある者だけだろう。
――蛮勇に類するものであっても、勇気には違いない。
少年の振りかざした切っ先を恐れるように、異貌の者共が潮の如く引いていく。
四方八方、どこを見ても敵だらけだ。味方なんて一人もいない。それでも少年は、挑みかかるような眼差しを逸らさなかった。
けれど――
「そこの人、ラインからはみ出さないでくださーい!」
「刀剣類などの持ち込みは禁止されていまーす!」
けれど。
残念なことに、「魔界」と勇者では使う言葉が違う。
何を言ってもさっぱり通じていなかったのである。
少年――勇者の名はアレク。
色褪せた金の髪と、野性の獣じみた体躯。
少年は確かに勇者だった。
その称号が、「魔界」――統一大陸国家、オゥル・グランデにおいてテロリストの意味を持つとしても。