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不器用で優しい人



 着替え終わり、カーテンを開けると医務室の椅子に肩身が狭そうにちょこんと座っている天花寺が視界に映った。その横では軽蔑したような眼差しで天花寺を見下ろす桐生。


 こ、怖い。凍りつきそうなほどの冷たさを感じるんですが。


 一方、雨宮は二人の様子を眺めて楽しげにしている。この人はなにを考えているのかわからない。先生も「若いなー」なんて笑いながらパソコン作業をしつつ私たちの様子を眺めている。



「ごめん! ま、まさか浅海くん、いや浅海さん?が女性だとは知らなくて……その、すみません!」

「如何わしい想像しちゃったんだねー、悠ってば」

「う……ちがっ」


 雨宮がおちょくるのでますます天花寺の顔が赤くなっていく。原作でもこういう時って照れてたもんなぁ。何でもそつなくこなすように見える天花寺は案外純情だったはず。



「天花寺様のラッキースケベ問題は置いておいて、浅海〝くん〟の事情をお話ししてもよろしいかしら」

「ラ、ラッキースケベ!?」


 あ、うっかり言っちゃった。これ以外さっきの事件を表現する言葉が思い浮かばなかったんだもん。雨宮に笑われたし。桐生は眉間にしわ寄せていて怖い。



「彼らにお話してもよろしいかしら?」


 浅海さんを見遣ると頷いてくれたので、先ほど聞いた彼女の事情を彼らに話した。

 男装していたことを知った以上の驚きはないようで、三人とも真剣に事情を聞いてくれた。



「雲類鷲さんが話してくれた通りの事情です。なので、秘密にしていただけると助かります」


 頭を下げてお願いをする浅海さんに対し、三人はそれくらい構わないと承諾してくれた。原作とはズレたけど、彼らが浅海さんの秘密を共有するのは原作通りだ。


 異質なのは私だけ。



 問題を解決したところで、休み時間が残りわずかなので医務室から出ようとすると再びドアが開かれた。


 中に入ってきた人物に微笑むと、相手は顔を顰める。そして、私の元に歩み寄ってくると珍しく強い力で肩を掴んできた。



「スープがかかったって聞いた。怪我は」

「ないわよ」

「火傷はしてない?」

「大丈夫よ、蒼」


 蒼は感情を表に出すことが苦手だからわかりにくい。人によっては怒っているように見えてしまうかもしれない。でも、心配してくれているのはちゃんと伝わってくる。食堂でのスープ事件のことを聞いて、慌てて駆けつけてくれたんだね。



「……よかった」

「驚かせてしまってごめんなさい、蒼」

「……うん、無事ならいいよ」


 いい弟がいて真莉亜って幸せ者なのにどうして原作だと、ああなってしまったんだろうなぁ。


 視線が集まっていることに気づき、蒼は眉根を寄せて私から離れた。なんでこいつらがいるんだとでも言いたげだ。


「大事なお姉さんの前だと、そんな感じなんだねー」

「うるさい」


 からかうように言う雨宮を蒼は鬱陶しそうに睨みつけている。

 原作でもそうだったけど、蒼と天花寺たちって特に仲良いわけじゃないんだよね。



「あの、雲類鷲さんにスープかけてしまったのは、わ……僕です! すみませんでした!」


 謝罪する浅海さんを横目でちらりと見ると、蒼はため息を吐いて私の腕を掴んだ。


「僕じゃなくて姉さんに謝ってくれたならもういいよ。姉さんもおっちょこちょいなとこあるし」


 最後の方がよく聞こえなかった。


「雲類鷲さん、本当にすみませんでした」

「怪我はないもの。ですから、気にしなくて大丈夫よ。さ、蒼行きましょう」


 これ以上ここにいたら、余計な突っ込みを雨宮あたりにされそうだし、ラッキースケベ事件を知られたら面倒くさそうなので、着替えた制服を持って強引に蒼の腕を引きながら医務室から出た。



 とりあえず、ヒロインと天花寺の恋はここからスタートだ。




 二人で廊下を歩いていると、蒼がいつもよりも声のトーンを落として呟いた。


「あんまり心配かけないで」

「ごめんなさい」


 私の半歩先にいる蒼の焦げ茶色の髪が歩くたびにさらりと流れる。相変わらず綺麗な髪だ。



「焦るから」


 少し不器用だけど、優しくて可愛くて大事な弟。

 それが真莉亜である私から見た彼だ。原作の真莉亜が蒼をどう思っていたのかはわからないけれど、家族として良いよ関係を築いていけたらいいな。

 なるべく蒼に心配かけないようにお姉ちゃん頑張るね。





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