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カーテンの中の二人



 医務室まで行くと、先生が替えの制服を取りに行ってくれた。

 残された私たちの間には少し気まずい空気が流れる。


 何か話したほうがいいのかなと思うけど、私と浅海さんには共通の話題ってないんだよなぁ。


「あの……」


 そんなことを考えていると、浅海さんから話を切り出してくれた。


「すみませんでした! 火傷とか大丈夫ですか?」


 雅様にかかるよりは断然マシだ。彼女にかかっていたら、浅海さんのいじめ問題は原作通りに起きていただろう。というか、この問題って真莉亜一人がいじめをしなければいいわけじゃないんだよなぁ。


「そこまで熱くないもの大丈夫よ」

「本当はすぐに対処しないといけなかったのに驚いて何もできなくて……すみません」

「そんなに気にしないで。貴方が火傷しなくてよかったわ」


 むしろ熱くなくてよかった。これで高温だったらきっと火傷していたし。

 それでも浅海さんはかなり気にしているようで、申し訳なさそうに眉を下げてしょんぼりとしている。


「足は大丈夫かしら?」

「はい、少し捻りましたけどあまり痛くないので」

「そう。それならよかったわ」


 浅海さんが転ぶ予定だった場所を変えても、こんなことになってしまうってことはそう簡単には変えられないのかな。



「あ……すみません、出て行った方がいいですよね。廊下で待ってます」

「あら、どうして?」

「だって、着替えが」

「女同士だもの。気にすることないわ」


 私の言葉に浅海さんの目が丸くなった。くりっとした大きな目で羨ましい。どっちかっていうとたれ目だよね。真莉亜はつり目な方だからなぁ。


「え」

「え?」

「ええ!?」

「あ……」


 や、やばい。やっちまった。

 浅海さんの反応で自分がヘマをしてしまったことに気づいた。


 原作でも浅海さんって周囲に自分が女だって言ってないし、卒業まで男として通すつもりだったんだよね。私の中では正体知っているし、女の子として扱っていたから完璧に気が緩んでいた。


「女だって気づいていたんですか? もしかしてみんな知っているんですか!?」

「し、知らないわ。ただ、その……可愛らしい顔立ちですし、手も華奢であまり骨張ってないでしょう? ですから……もしかして女性ではないかと思いましたの」


 く、苦しい言い訳だろうか。ひぃ、背中にたらりと汗が伝った。


「そうだったんですね……。今のところクラスの人たちは私……じゃなくて、僕のこと男だって思ってくれているみたいなので誰にも疑われていないと思っていました」


 それからは原作通りの浅海さんの家の事情を聞いた。


 お兄さんがここの元生徒で制服が高いため、お下がりを着ていること。それを学院側にも承諾してもらったこと。気位の高いお嬢様の中で男物を着ていることを知られたらまずいと兄に言われて、浅海さんは男として学院で生活を送ることを決めたということ。


 男として生活するといっても、書類上は女だ。制服も男物を着てはいけない決まりはないので、彼女自身は悪いことはしていない。ただ、周囲から男として扱われるようにしているだけだ。


 事情を知っている先生からは、体育などは個人の判断に任せると言われたそうだ。出席さえしていれば、問題はないからと。特待生の浅海さんの場合は学力のほうが大事だと思われているのだろう。漫画だと、天花寺達が色々とフォローしていたしこの世界でもきっと問題ないだろう。



 少しして先生が着替えの制服とタオルを持ってきてくれたので、医務室のベッドの周りの白いカーテンを閉めて、その中で着替えることにした。先生は浅海さんの性別を知っているみたいで、浅海さん用に男女両方の制服を持ってきてくれていたけれど、浅海さんは男子の制服の方を選んだ。やっぱり卒業まで男で通すつもりらしい。


 まあ、少し気持ちはわかる。あのお嬢様たちに知られたら大変なことになりそうだもんなぁ。


 そんなことを考えながら、ワイシャツのボタンに手をかけると医務室の中に誰かが入ってきた。足音がいくつか聞こえるため、数人いるみたいだ。


「先生、雲類鷲さんと浅海くんは……」


 えっ! この声、天花寺だ!


「そこのベッドのところで着替えているわよ」

「えっ!? べ、ベッドのところで着替えって……二人で!?」


 あぁああああぁあ……先生、それ言っちゃダメなやつ。天花寺達は浅海さんのこと男だと思ってるんだから、一緒に着替えとかおかしいでしょう。


 どうやって言い訳をしようか……。

 ため息を吐いて肩を落とすと、隣から熱い視線を注がれていることに気づいた。


「す、すごい……」


 浅海さんが私の胸元を凝視している。


「えっと……」

「いや、その、うまく言えないんですけど、着瘦せするタイプなんですね」

「や、やだ……恥ずかしいわ」

「あ、すみません!」


 胸にこんな熱い視線を向けられたことがないので、どうしたらいいかわからない。そうだ、浅海さんって貧乳設定だったもんね。わかるよ、私も前世はそっちの人間だったから。

 前世のこと思い出して、自分の胸見たときちょっと驚いたもん。脱いだら意外とあるんだなって。


 素早くシャツのボタンを留めて、その上からワンピース状のグレーのスカートを着て、服装を整える。あー、恥ずかしかった。


「変なこと言ってしまってすみません」

「大丈夫よ、それよりほらここ……タオルで拭いて。スープかかっていたでしょう」


 濡れたタオルと浅海さんに手渡す。すると、「え!?」っと天花寺の焦ったような声が聞こえて来る。


「ちょっと待ったっ!!」

「え、」

「あ……」


  私たちの会話で妙なことになっていると勘違いしたのか、カーテンが開かれた。

白い世界から出てきたのは、着替え中の女子二人。私はほぼ着替え終わっているけれど。


 浅海さんは咄嗟にシャツで隠していたけれど、これはもう女だとバレてしまったに違いない。

 うわー……なにこれなんなのこの展開。紛らわしい会話しちゃった私たちも悪いけどさ!



「え、あ、ええええぇええええ!」


 顔を真っ赤にした天花寺の叫びが医務室に響き渡り、天花寺のラッキースケベは予定より早くこの場で起こってしまった。おそらくはヒロインの浅海さんと天花寺の恋が今日から始まる。

 ついでに雨宮と桐生にも見られてしまったので、ヒロインの性別は生徒だと私たちだけの秘密になるんだろうな。






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