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食堂事件



 食堂でスミレと瞳と合流した。さすがお金持ちの学校という感じで、私が前世でよく食べていた定食という名前はない。入り口に置いてあるお品書きには、お上品な名前のメニューがずらりと羅列されていた。


「私は、この華のスペシャルコースにしようかしら」

「スミレにしては、少食だね」

「あらやだ、瞳。……放課後にアレが食べれなくなったら困るじゃない」


 つまりは駄菓子を放課後に食べたいってことね。スミレはすっかりどハマりしているみたいで、いまだに駄菓子が好きみたいだ。


 今日の私は春風のスペシャルコースにした。その名の通り、春が旬の食材がたくさん使用されているらしい。空いていた席について運ばれてくるのを、うきうきとしながら待つ。楽しみだなぁ。


 って! そうじゃなくて、多分今日事件が起きるよね。

 あれは阻止しないとまずいと思う。雅様にスープをぶっかけてからいじめが始まるし……結構酷いことされていたから、この先に起こることを知っておきながら知らんぷりをするのはちょっと……。あれさえ防げば、花ノ姫との衝突はなくなるのかな。


 ところで、浅海さんと雅様はどこだろう。



 辺りを見回してみると、すぐに雅様を発見できた。やっぱ雰囲気が他の人と違っていて目立つもんなぁ。すでに席についていて、取り巻きと優雅に談笑している。


 その少し遠くの方にトレイにのったランチを運んでいる浅海さんを発見。そうだ。ここの学院はスペシャルコースは席まで運んでくれるけれど、それ以外のコースは自分で運ぶんだよね。


 うわー、ということはあれを運んでいるところで躓いてスープぶっかけちゃうのか。


 さりげなく進路を変えさせるしかないかな。



「真莉亜、どうしたの?」


 立ち上がった私を瞳とスミレが不思議そうに見上げてくる。お水を取りに行くっていうのは、スペシャルコース頼んだのに不自然だし……ここはあまりお行儀が良くないけれど、これしかないか。


「ちょっと……お手洗いに」


 そそくさとその場を立ち去り、事件が起きる場所へと向かう。浅海さんの居場所を確認するとすぐそこまで来ていた。おっと、危ない危ない。この調子で私が歩いていけば、浅海さんは避けるはずだ。


 つまりは浅海さんが転ぶはずのあたりに私が立っていて、浅海さんが進路を変えれば未来が変わるはず。


 私の狙い通り浅海さんは前方の私の存在に気付き、左側に避けた。けれど、何故か避けた瞬間、足をぐきりと捻りトレイが大きく揺れた。



「わっ!?」

「危ない!」


 日頃の鍛えた成果もあり、素早く駆け寄って転びそうになった浅海さんをがっちりと支えることができた。けれど、また別の問題が起こってしまった。


「きゃああああ! 真莉亜様!?」


 浅海さんのスープが私の胸元にべっちゃりとかかってしまったのだ。うん、思ったよりぬるい。浅海さんにも少ししかかっているけれど、私ほどではない。


「真莉亜様! 大丈夫ですか!?」


 女子生徒達が青ざめた顔で駆け寄ってくる。きっとみんな、この男終わったなと思って浅海さんのことを見ているんだろうな。あらやだ、天花寺三人組もばっちり見てるよ。


「す、すみません!」


 おろおろとした様子でトレイを床に置いて、ハンカチを取り出す浅海さんの手を『金雀枝の君』こと、片桐かたぎり英美李えみりが振り払った。うわお、ちょっとそれは怖いってば。今痛そうな音したよ。


「貴方! どういうおつもり!!」

「えっ」

「これだから庶民は! そんな小汚い布切れで真莉亜様に触れるおつもりですの」


 英美李様節を炸裂させながら、浅海さんのことを蔑みあざ笑っている。周囲の女子生徒もこそこそと浅海さんの悪口を言っているのが聞こえてくる。それより、私スープかかりっぱなしだよ。


「真莉亜!」


 スミレが私の元に駆け寄ってくると、こそっと耳打ちをしてきた。


「早く行ってきて。膀胱満タン破裂症になるわよ」

「はい?」

「この場の片付けは任せて! さあ、早く!」


 首を傾げる私に、スミレが指でWCと作りグッドサインを出した。……つまりはトイレ早く行きなよ、膀胱炎になっちゃうよっていうスミレなりの気遣いらしい。その前に私トイレに行きたいわけじゃないんだけどね。


 でもまあ、この場から抜け出した方がいいだろうなぁ。私も浅海さんも。


「浅海〝くん〟、医務室までご一緒してくださる?」

「え……あ、はい!」


 私の言葉にその場が静まり返る。


 浅海さんを責めていた女子達や英美李様に視線を向けて、にっこりと微笑む。



「お騒がせしてしまってごめんなさい。私が彼にぶつかってしまったの。彼も私も着替えが必要ですから、一緒に医務室へ行ってまいります。皆さん、心配してくださりありがとう。瞳、後を任せてもよろしいかしら」

「もちろん」


 瞳が頷くと、頬を染めた女子達が「私が片付けをいたします瞳様! ご命令を」「何を言っているの! 私がいたしますわ! 瞳様、ご命令を!」「さあ、瞳様! 私にご命令を!」と今度は別の意味で大騒ぎ。みんなどんだけ瞳に命令されたいんだ。


 こうして私と浅海さんは二人で医務室へと向かうことになった。





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