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閑話:情報提供

百合園同好会・裏新聞部(情報提供係)視点

※百合思考な女の子視点です。過度な表現はありませんが苦手な方はご注意ください。

時期:前話と同じ真莉亜たちが中等部三年の秋



 私には任務がある。

 それは花ノ宮学院の裏新聞部として、百合園新聞を提供すること。表の新聞部とは違い、主に『花ノ姫』の方々についての記事だ。けれど、これは表には出回ってはならないので極一部の〝条件〟をクリアした花ノ姫ファンに配るのが私の仕事。


 女子の中心である『花ノ姫』に関する記事なのに、何故秘密なのか?

 それは萌えを供給することが目的だからよ。

 そう……この花ノ宮学院にはお嬢様同士の花園を萌えという力により想像し、紙にしたためる者やイラストに描き下ろす者がいるのだ。


 このことが『花ノ姫』の方々に知られたら大変なことになってしまうので、極一部の同じ趣向を持つ限られた者だけが入れる百合園同好会を結成したのだ。


 ある者は、萌えの源となる情報提供を。

 ある者は、そこから想像した物語を文字で紡ぐ。

 ある者は、その二つから漫画を描き下ろす。


 それが百合園同好会。



 この日も私は手に入れた情報をまとめた大事な百合園新聞を持って同好会の部屋へと向かっていた。


「きゃ」


 あろうことかまるで漫画の世界のように風が吹き、百合園新聞がひらひらと煽られて飛んでいってしまった。


 ああ! 大変だわ!

 あれが『花ノ姫』の方に見られてしまったら、私たち百合園同好会は活動できなくなってしまう。私たちの心の潤いの場を守らなくては!


 飛んでいってしまった百合園新聞を追いかけていくと、既にそれは他の人の手に渡ってしまっていた。



「百合園新聞ねぇ」


 血の気が引き、心臓が早鐘のように打つ。

 ま、まさかあのお方に拾われてしまうなんて……!


「あ、あの」

「ふーん、ダリアの君が未だに男子校舎をよく眺めていて、撫子の君が不安げなご様子かー」


 ああ……読み上げられてしまった。顔から火が出てしまいそうだわ。


 私に甘い微笑みを向けているのは、この学院の男子生徒で輝かしい雰囲気を纏っている雨宮あまのみやゆずる様。そして、お隣には同じ輝かしい雰囲気を身に纏っている天花寺てんげいじゆう様と桐生きりゅう拓人たくと様。


 こんなに近くに彼らを拝むことができるなんて、眩しすぎてクラクラしてくるわ。ま、睫毛長い! 鼻筋も羨ましいくらい綺麗に通っていて、きめ細かなお肌でお美しいわ。



「ダリアの君の見つめている相手ってさ、多分彼じゃないかなー」

「え!?」


 ま、まさか! ダリアの君の想い人を雨宮様はご存知ですの!?

 私が中等部二年の頃から三年生であるダリアの君が男子校舎を眺めていることが多くなったのだ。その頃から、噂されているダリアの君の秘めた恋。私たち百合園同好会にとっては、重大ニュースとなってしまった。

 ダリアの君の恋を知った親友である撫子の君の心情は……! と議論になったこともある。


 そして、ダリアの君が高等部に上がられたことによってお相手は謎のままになっていたけれど、未だにダリアの君が男子校舎を眺めているというのだ。高等部は男女校舎はわかれていない。ということは、相手は中等部の生徒ではないかという話題が今回の情報の一つ。

 書いてはいないけれど、恋のお相手は天花寺様三人組のどなたかではないかと私は思っている。……ああ、書いていなくてよかった。


「教えてあげるから、その代わり全部読んでもいーい?」

「おい」


 雨宮様がこの新聞を!? と色々と邪心が混じりそうになってしまった私の元に、桐生様が牽制する声が届いた。


「お前が読んでどうすんだよ」

「いいじゃんいいじゃん。普段は見られない秘密の花園をちょっとくらい知りたいしー」

「でも、困らせてしまうんじゃない?」


 私の顔を覗き込んで不安げに声をかけてくださる天花寺様。さすが噂通りのお優しいお方です。

 けれど、邪な気持ちが勝ってしまう。ああ、お許しください百合園同好会の皆様。


「あの、その……ダリアの君が見つめているお相手を教えてくださるなら……」

「うん、いいよー」

「では……お読みください」


 少し胸が痛むけれど、これも新たな情報提供のためだわ。


「先に教えとくねー。ダリアの君が見つめているのは、多分 雲類鷲うるわしあおだよ」

「えぇ!」


 雲類鷲蒼様といえば、お姉様はあの紅薔薇の君だわ! こ、これは一大事ですわ! ダリアの君の想い人があの紅薔薇の君の弟の蒼様!?



「まぁ、恋なのかは知らないけどねー。見つめながら、何かメモ取ってるのは見たことあるよー」

「貴重な情報提供に感謝いたします!」


 ついつい鼻息が荒くなってしまう。令嬢としてこれではダメだわ。心を落ち着かせなければ。


「へぇー、菫の君と白百合の騎士の間に紅薔薇の君が、ねぇ」

「っ、!?」


 何故か天花寺様がお顔を真っ赤にされているわ。

 それは一年以上経っても未だにホットなネタだ。あの守ってあげたくなるくらい可憐で純粋無垢な菫の君と、彼女を守る白百合の騎士様の間に、気高き情熱を纏う紅薔薇の君が入るなんて誰が想像できたというの! この件を議論するには放課後だけでは時間が足りなくなるほどだわ。


「紅薔薇の君が白百合の騎士と微笑み合っていた!? そのとき菫の君は!? だってさー、悠」

「お、俺に言わないでよ」

「いちごちゃんだよー? しかも放課後になると三人で女子校舎に隣接している東校舎に消えて行くのを何度も目撃、ねぇ」


 いちごちゃんって何かしら。それに天花寺様のお顔の赤みが増している。もしかして……天花寺様も私たちのような趣向を!?


「そ、その呼び方はよくないよ」

「本当お前はデリカシーねぇな」

「拓人には言われたくないなー」


 天花寺様の趣向疑惑も心のノートにしっかりとメモを残しておきましょう。

 それにしてもやはり目の保養になる方々だわ。仲睦まじくお話しされているのが絵になるわ。イラストにしていただけないか今度こっそりお願いしてみようかしら。


「えーと、あとは……へぇ。放課後になると東校舎の三階には日本人形のような女の子の霊が出るねぇ。だってよー、拓人」

「……あっそ」

「つれないなぁ」


 含み笑いをしながら話されている雨宮様のご様子だとこの件に思い当たることがあるように見えるわ。お話を振られた桐生様は不機嫌そうに眉根を寄せて、外方を向かれてしまった。


「この霊に関して何かご存知なのですか?」

「んー、そうだなぁ。触らぬ神に祟りなしってことだけ言っておくよ」



 つまりは思い当たることがあるけれど、触れるなということ。

 気にはなるけれど、この記事は空いたスペースの穴埋めとして書いたものだから、私たちの活動にはあまり重要ではない。


 雨宮様の仰るとおり、この件には触れないでおきましょう。



 ああ、本日はとても貴重な情報を入手できましたわ。

 早く皆様にご報告しなくては。



 それでは、ごきげんよう。





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