いちごショック
家に帰るとソファで本を読んでいる蒼の隣にひっつく。
あまりの悲しみと屈辱で頭がどうかしてしまいそうだ。
「……姉さん、近いよ」
「うぅうううおおお」
「変な声出さないで。ほら、膝抱えたりしない。叱られるよ」
両膝を抱えていじけている私はもう心が化石になってしまいそうだった。学院の王子達にいちご柄のパンツを披露してしまった。
なにこれ、恥ずかしすぎない? これから高等部で一緒になるのに。しかも、向こうは私のこと既に知ってるっぽかったよね。
「なにかあった?」
お前の姉ちゃん、パンツいちご柄。とか言われて蒼は笑われたりしないかな。私のことを知っているなら、きっと姉弟だってことも知っていると思うんだけど。
「大丈夫?」
「ええ……」
言えない。私のパンツがいちご柄で学院の王子とか言われている人たちに、大胆なお披露目しちゃったとか言えない。
「姉さんの好きなお菓子と紅茶用意してあげるから。元気だして」
「蒼……!」
「姉さんが元気ないと心配だよ。だから、僕にできることがあったら言って」
なんて可愛い弟!! ぎゅーってしたくなるけど、拒否られそうだからそこは我慢する。
「蒼が弟でよかったわ!」
「え……」
「私、蒼に優しくしてもらえて元気がでてきたわ」
「……それならよかった」
蒼はそう言って、柔らかな微笑みを見せてくれた。
普段あまり笑わないから、こうやって時々見れる蒼の笑顔に私まで嬉しくなってくる。
荒んだ私の心は蒼のおかげで少し回復した。
翌日、帰って来た蒼に何か変なことを誰かに言われなかったか聞いてみた。
「変なことってなに?」
「いや、その……」
いちごとかいちごとかいちごとかいちごとかいちごとかいちごとか! って、蒼にいちご柄パンツ見られちゃってさーとは言いにくい。
不思議そうにしている蒼を見る限り、どうやらなにも言われていないらしい。
「いつもとは違うことはなかった!?」
たとえば、影でコソコソ笑われていたりとか!
「うーん……別に。強いて言うなら天花寺が」
「え」
「僕のことを見て『わざとじゃなかったんだ!』とか言ってきて、桐生に何故か叱られてた」
それってつまり……いちごパンツのことですかね。まあ、それでも桐生が止めてくれたってことで、蒼には知られていないし広まってもないってことか。よかった。
「まあ、あの人変だし。どうでもいいけど」
え、天花寺って変じゃないよね。キラキラ王子系キャラで眩しいくらいの正統派ヒーローだと思う。私も漫画じゃない世界ではほぼ関わっていないからわからないけど。
「ちょっと犬っぽいし」
「犬?」
「ゴールデンレトリーバーみたいな感じ」
「そ、そう」
蒼のたとえはよくわからないけれど、きっと人懐っこいということなのだろう。
そんな会話をしていると、一通のメールが届いた。
……うわお。
差出人は、久世 光太郎。
どうやら婚約者殿とお会いしなければいけない義務デーのお知らせみたいだった。