手厚い洗礼
バチン、と頬を叩かれ目を覚ます。
眼前には白色の防具を身に包んだ人物が立っている。全身に装備を纏っていて、顔もわからない。今こいつに叩かれたのか。この野郎。
突然の暴力に抗議しようとした時、場の重々しい雰囲気に気付いた。
一旦冷静になり自分が置かれている状況を確認する。
薄暗い地下のような石造りの一室。
俺は鉄製と思われる鎖に手足をガッチリ拘束されている。体勢で言えば、床に座らされていて、上半身が壁に密着しているというような状態だ。
白野郎の後方には女性が一人立っている。
俺はなんでこんなところにいるのだろう……
起きたばかりで記憶があやふやだ。
……………………
必死に記憶を辿る。
………………!
思い出した……。確か俺はチンピラを爆殺した後、処刑場に連行するとか何とか言われて突然気を失ったんだ。
これから俺は殺されるのか?
死の恐怖と背中に触れている石壁の冷たさに身が震える。
それを見て、女性が口を開く。
「受刑者の記憶が覚醒したようです。」
俺が状況を理解するのを待っていたのか……。
女性は続ける。
「罪状を読み上げます。この男は物乞いの男性に施しを与えると見せかけて突然殴りかかり、男性を殺傷しました。その殴打たるや凄まじいものであり、被害者男性が跡形も残らない程です。居合わせた住民の中には、PTSDを訴えている者さえいます」
おいおい、あのチンピラが物乞いだって?
まあそう捉えられなくもないが明らかにカツアゲだっただろう。
だとしても過剰防衛だったのは明らかだが。
死の淵に立って、ふつう恐怖に染まるはずが、寧ろ俺は冷静になっていた。これが諦観の境地ってやつか。
「犯行は残虐極まりないものです。よってこの男には特級死刑を処します。では、お願いします」
特級死刑? なんだそれは。
お願いします、そう言われ白野郎はコク、と頷く。
そしてどこからともなく剣を取り出し、振りかぶる。
即座に、剣が降り下ろされる。
来い。俺はもう覚悟はできている。
間もなく、俺の左腕が付け根から切り落とされた。
「ああああああああああああああああ!!!!」
あまりの痛みに悶絶する。
血の飛沫が奴の装備にかかり、白が赤に染まる。
な、成程……。特級死刑っていうのはじわじわとゆっくりなぶり殺すことか……。
てっきり一撃で殺されるものだとばかり思っていて、痛みに耐える覚悟はできていなかった。
死の恐怖、もとい痛みへの恐怖が甦り、俺を襲う。
死にたくない。
死にたくない。
死にたくない。
そう一心に願う。
諦めていた心が生への執着を取り戻す。
それと共にどうにかして拘束を外そうともがく。
だが一向に外れない。
「抵抗は無駄と知れ」
白野郎はくぐもった、それでいて冷徹で突き刺さるような声で俺を諭す。
また剣を振りかぶる。
恐らく次は右腕だ。
嫌だ嫌だ嫌だ、死にたく――
駄々っ子のように目の前の現実から逃避しようとする。
剣が降り下ろされる。
――ない!
剣が右腕につく寸前、俺は体に力が沸き立つのを感じた。
その瞬間、俺は右手の鉄の拘束をねじ切っていた。
そして剣を右手で受け止め、へし折った。
すぐさま両足の拘束を断ち切り、その場に直立した。
「こんなところで……死んでたまるか」
ただ現実を受動的に受け止めても何も変わらない。
能動的に道を切り拓く。
この状況を脱するには、こいつらを殺すしかない。
身体中に殺意が満ちる。
白野郎は、顔こそ見えないが、何だか嬉しそうだった。
「……潰す」
俺は自分でも信じられないような速度で白野郎に飛び込み、その鎧に向かって拳を放とうとした。
しかし、その寸前、体が動かなくなる。
クソッタレ……。またか……。
俺は力無くその場に倒れ込む。
白野郎からは失望の念のようなものを感じた。
◇
白色装備の処刑人は、哲也が石の床に体を打ち付ける前に彼を抱え込んで支えた。
「ふむ、魔力切れね」
「兵長、この男、想像以上に危険です。自滅して無力化している今の内に処分しておいた方がよろしいかと」
「いいえ、処刑は中止です。特例措置Aをとります。」
「兵長がそう仰るなら……」
兵長と呼ばれているその人物は、哲也を担いで処刑場から出ていった。




