いち
こんなにも晴れたのは久しぶりである。長かった梅雨が明け、太陽の光が森に降りそそぎたくさんのキラキラした木陰を作る。どんよりとした梅雨は太陽の光が弱く、吸血鬼にとって過ごしやすい季節ではあるが、これからの季節いくらメグでも昼間から外に出るのは危険である。
「マーガレット様、危険です。早く家にお戻りください。」
「嫌。こんなに晴れて気持ちいい日、外に出れないなんて本当に吸血鬼は損。私だけしかできないことなんだから、これくらい許してよ。」
メグは吸血鬼でありながら、昼間(とはいえ、あまり長時間いることは厳しいが)外に出て日光を浴びることができる、唯一の吸血鬼である。そんなメグの唯一の楽しみを奪うハルを、メグはその深紅の瞳をした目で睨んだ。ハルは少しはにかんで、パサッと日傘をさした。
「これで日焼けはしませんね。」
このはにかみに、メグは弱い。緩む口元をきゅっと締めちらっとハルを見ると、飛んでいる昆虫を不思議そうに見つめていた。
「あの虫、初めて見ました。」
立ち上がると首をかしげながら、もしかして僕が第一発見者かもしれません、なんてことをキラキラとした目をしながら言い始める。とても16歳の少年には見えない。
他の吸血鬼たちがぐっすりしているところ、メグとハルは人間の居住区である森林公園と呼ばれるところに来ていた。久しぶりの晴れ間なので、公園は多くの家族連れで賑わっていた。その中でもなるべく日影を選びながら、さくさくと歩いていた。たまに当たる陽の光がハルの髪を黒く光らせた。
「お嬢ちゃんたち、そんなに森の方近づいてちゃ吸血鬼に襲われるよ。」
1人のおじさんがメグに話しかけた。メグは森を見て
「この時間、他の吸血鬼は皆寝てますよ。」
といった。おじさんはああそう、と頷き広場の方へ歩いていった。紅色の瞳が小さくなった。
「たしかに怪我はしていましたが、おじさんの血は美味しくないですよ。」
「ハル、飲んでいい?」
「えぇ。」
彼は持っていたカッターでいつも通り自分の手首を切る。滴る赤い液を、メグは乾く心臓に注いだ。舐める舌はゆっくりと、ねっとりと。その液体をていねいにすくいあげた。もちろん、治癒能力の高いメグのだ液は、ハルの傷をきちんと直して。