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7、能力

 に、しても、だ。


 私はソファでゴロゴロしながら考える。


 美味しい食事と柔らかい寝床を提供してもらっているというのに、私は何もしていないな。食って寝て撫でられているだけだ。せっかくなら何かするか。いや、でも何を?


 私はちらりと自分の尻尾を見た。


 狐系の魔物は、尻尾の数だけ能力を持つことができる。これは常識だ。……常識か? 少なくとも魔物と相対することの多い騎士の中では常識だろう。きっと。


 つまり、本来の私は尻尾一本につき一つ、合計で九つの能力を持っている。全くどうでもいいことだが羅列すると、私が持つのは土魔の尾、水魔の尾、炎魔の尾、風魔の尾、吸魔の尾、供魔の尾、隠魔の尾、防魔の尾、そして化魔(けま)の尾だ。もう一度言うが、どうでもいいことである。


 この中で、化魔の尾は、実は常に使っている。九尾からツヴァイテイルに化けているのは、この尾の能力である。だがまあ、使っていることをエルたちは知らないからそれはいいとして。ツヴァイテイルの尾はその名の通り二本だから、私は九つの能力の中から二つを選ばなければならないわけだ。三つ以上の能力を使うのはおかしい。この選択は肝心だな。これによって生活の利便性その他諸々が決まると言っても過言ではない。


 エルたちの役に立つことを考えるつもりがあるのなら、戦闘用に風属性魔法の風魔の尾、アンジェを守るために結界魔法の防魔の尾といったところだろうか?しかし、なにげに化魔の尾も捨てがたい。これ用に一枠残しておけば、もし今後人型になってもエルたちに説明ができる。風魔と防魔で尾を使い切ってしまったら、その後に人型になった時に説明ができないのだ。うーん。


 ……ま、とりあえず考えておくか。


 私はあっさり問題を棚上げすると、アンジェの元へ向かった。暇だし、たっぷり寝たために昼寝をする気にもならないので、何か手伝えることはないだろうかと。エル父は書類仕事をしているのを先ほど目撃したので、手伝えることはないだろう。肉球付きの手ではペンも握れないし、握れてもできることはない。


 アンジェはキッチンにいた。掃除の手を休めて笑いかけてくれるが、私はその後ろにあるものに釘付けになっていた。


「ん? どうしたのミコト? これはね、冷蔵庫って言うんだよ。氷の魔法陣が描かれててね、中のものをある程度冷やしてくれるの。食材が傷みにくくなるんだ」


 説明ありがとう。だが、私が気になっているのはその動力源だ。冷蔵庫には、青い石がはまっていた。……魔石だ。


 私の視線を辿り、アンジェは魔石に目を向けた。


「あれは、魔石だよ。鉱山から採れる、魔力を含んだ石。中の魔力を使い切っても、また注げば使えるんだけど……、ある程度魔力量があって、かつ専門の技能を持った人じゃないとできないから、ちょっとお高いんだよね。だから、涼しい時は冷蔵庫はお休みなの」


 なるほど、それはいいことを聞いた。供魔の尾にしよう。先ほどは全く選択の外にあったが、今の話を聞く限りはこれが一番だろう。一枠くらいは生活の面倒を見てもらっている恩を返すために使ってもまあ、いいと思う。


 魔石は、今の私が後ろ足だけで立ち上がっても届かない高さにあった。取ってくれ、という思いを込め、魔石を見つめてきゅーきゅーと鳴くと、アンジェが困ったような顔をする。


「うーん、大事なものなんだけど……少しだけね?」


 うん、アンジェは私に甘い。冷蔵庫から魔石を取り外し、見せてくれた。私は魔石に、たしっ、と前足を置く。


「ミコト? 何するつもりなの?」


 いいことだよ。


 私は供魔の能力を使い、私の魔力を魔石に分け与えた。本来は生き物に対して行うことが多いのだが、魔石のような魔力を受け入れられる無機物が対象でも問題ない。


「ミコト……もしかして今、魔力を注いだ?」


 その通り。頷こうとしたとき、ドアが乱暴に開かれた。


「何があった⁉︎」


 現れたのは、書類仕事をしていたエル父だ。慌てふためいているように見える。……ああそうか、騎士なんだもんな。魔力には敏感なんだろう。魔法を扱えないらしいアンジェと私が家の中にいるとなっては、なおさら。


「これ……ミコトが」


 アンジェが、そう言って魔石を差し出す。アンジェはあまり魔力を感じ取れていないみたいだから、私が何をしたのかも確信が持てないのだろう。


「魔力を注いでくれたのか?」


 今度こそ自信を持って頷く。


「……そうか、ありがとうミコト。これには特殊な能力が要るはずなんだが……」


 エル父は、意味ありげに私の尻尾を見た。やはり、尾と能力の数が比例することは知っているらしい。能力はあとひとつか。何にしたものか……。


「やっぱりそうだったんだね! ミコトすごい、ありがとう!」


 あ、ちょ、耳の付け根を引っ掻くなアンジェ! あうー……。


 ナデナデ態勢に入ったアンジェとたじたじな私を微笑ましげに見ると、エル父は書類仕事に戻っていった。


 数十分後に無事帰ってきたエルが見たものは、撫でられ疲れてぐったりとする私と、妙にツヤツヤしたアンジェだったという。





「へえ、ミコトが魔石に魔力を、ねぇ……。てか何やってんだよミコト」


 アンジェがエルに先ほどの出来事を説明している間、暇な私はエルの手で遊んでいた。痛くないように甘噛みしたり、前足でてしてしと叩いてみたり、頭をすりつけてみたり。それだけである。


 あざとく首を傾げてやると、エルは諦めたように私の背を撫でた。耳の付け根のとこを引っ掻くといいんだよってアンジェ、余計なことを言うんじゃない! エルは言われた通りに試し、私はぐったりさせられた。エルもこの技を身につけおったか。気持ちいいからいいんだけど、なぁ……。

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