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15、オーガロード

 ウンディーネに教えられた通りにグレープメロンの樹を目指している途中、あと少しというところで、私は運良くそれを発見した。大鬼(オーガ)の群れだ。立派な一本ヅノが発達しているやつとか、明らかに子供の小鬼とかも混ざっているが、まあ大体はオーガだった。思い思いに休息を取っている。ええと、どれがオーガロードだろうか。木の上で息を潜め、私は群れを観察する。


「誰だ!!」


『……っ⁉︎』


 突然の怒鳴り声と共に飛んできた子供の頭ほどの石を、私は慌ててよけた。木の上から降りた私を、群れの全てが睨んでいた。


「狐か? とんでもなく強いな、オマエ」


 そんな中で。他からの目線など気にならなくなるほどに力を持った鬼が一匹、大剣を担いでこちらを見ていた。赤い目だけが暗闇の中で爛々と光っている。先ほどの誰何の声の主だった。


『お前が群れを率いている大鬼酋長(オーガロード)か?』


「オーガロード? オレはそんな風に呼ばれてんのか。確かに、オレがこの群れの頭領だ」


『そうか。私怨はないが死んでもらおう。お前らはこのあと、人間の町を襲うのだろう?』


 オーガロードが面食らったのが気配でわかった。


「その予定だがな。まさかそれを止めにきたとか言わねェよな、魔物同士だろ? このオレを食いにきたと言われた方がしっくりくる」


『……なら、そういうことにしておけ』


 大剣を肩に担いだままゆっくりと歩み寄ってきたオーガロードをよく見ようと、私は狐火を浮かべた。照らされたオーガロードは、私の予想に反して群れのどの鬼よりも人間らしい姿をしていた。


 肌の色は人間と同じ、少し浅黒い肌色で、髪と瞳はとても鮮やかな赤色。頭には二本のツノが生えているが、それさえ隠せば体格のいい人間の男、で通せてしまえそうだ。口から覗く鋭い牙も……まあ、個性でなんとか誤魔化せるレベルだろう。人間から奪ったのだろう、それなりに上等そうな服もしっかり着ている。驚くほどに人間寄りだった。


 オーガロードと共に、群れの鬼たちも武器を構えてジリジリと近寄ってくる。こちらは明らかに魔物といった容姿だ。腰巻程度しか身につけていない者もいる。


 ……さて、どうするか。オーガロードとその他の間にはかなりの力の差がある。先制で特大の狐火を放って、雑魚から消すのがいいだろうか。


『止まれ、テメェら!』


 先ほどまで声を出して話していたオーガロードが、突然念話を使った。いやに威圧感があったため、私は狐火を使い損ねて、ついオーガロードを見つめてしまった。群れの鬼たちも動きを止めている。群れの鬼の中には、言葉を解さない者もいるのかもしれない。だから、わざわざ念話を使ったのだろう。


「狐。お前、人間の町を襲われるのが嫌なんだろ。オレが命じりゃあ、こいつらは従うぜ?」


『何が言いたい』


「皆殺しにしなくても目的は達成できるって言ってんだよ」


 オーガロードは自分の群れを見回した。


「オレが死んだら速やかにこの森から逃げるようにこいつらには命令する。もちろん、町は襲わずにな。だから、オレと一騎打ちしようぜ、狐」


 片頬だけを吊り上げて、オーガロードは笑った。


『……正気か? ここで数の優位を手放すのか。お前よりも私の方が強いというのに』


「はっ、言ってくれるじゃねェか」


『事実だ。お前も分かっているんじゃないのか?』


「逆境を覆すのが楽しいんだろうがよ」


『ふん……いいだろう。群れには手を出さん』


 ニィ、とオーガロードの笑みが深まった。


『聞いた通りだ……テメェら、分かってんな!』


 オーガロードの言葉に、群れはおとなしく一歩後ろに下がって武器も下ろした。静観するつもりらしい。


 オーガロードは片足を一歩踏み出して私に対して斜めに立ち、片手で巨大な大剣を構えた。大剣はオーガロードの身長より多少小さい程度だ。オーガロードが2メートルとして、1メートルと70センチくらいだろうか。刃も相当分厚い。その分刃物としての切れ味は期待できそうにないが、あれを振り回せばそんなことは関係なく肉も骨も断てるだろう。比べたら双方に悪いが、例えばエルなどでは重すぎてまともに持ち上げることもできないと思う。そんな大剣を苦もなく片腕で構えたオーガロードは、真っ直ぐに私を見据えた。


「オーガ族頭領のグレン・イブキだ。グレンが名、イブキは称号みたいなもんだな。お前は?」


『ミコト。種族は九尾と名乗っている。ランク8の化け狐だ』


「へぇ、やっぱ格上か」


『一対一はやめておくか?』


「は……それこそまさかだな」


 まあ、それはそうだよな。オーガロード……グレンの方が格下なのは双方共に分かっていた。おそらくランク7だろう。十分に化け物ではあるが、私ほどではない。それを知りながら、こいつは一対一を所望してきたのだ。


「いざ、尋常に……ってな」


『ふん……』


 グレンが拾った小石を軽く放る。それが地面へと落ちる瞬間、両者は動いた。


 ーーグレンは前に、私は斜め後ろに。


 瞬発力は向こうの方が上らしい。いや、おそらく身体能力全般は、というべきか。私が距離を取ることを見越していたグレンが追ってこようとするが、大人しく距離を詰めさせるはずもない。地面から岩でできた多数の太い針が隆起して、グレンを襲った。


「はっ」


 大剣が一閃され、針が簡単に砕かれる。砕いた直後にしゃがんで、首に迫っていた風の刃も避ける。再び隆起させた地面を今度はジャンプで躱し、飛ばした狐火は大剣を盾にして対応された。ならばと地面を隆起させると同時に狐火で囲んでみると、グレンは隆起した岩を大剣で薙ぎ払いつつ片腕で炎を掻き消した。その瞬間を狙って風の塊をぶつけてやると、とんでもない反射神経でもって大剣を体と風の間に差し入れる。しかし、崩れた体勢では受けきれなかったらしく、弾き飛ばされて背中から樹に激突した。


『ほう、やるものだな』


「げほっ……魔法の展開バカ早ェな……。お前、本格的に化け物じゃねェか」


 ニタァ、と笑う私に、グレンの好戦的な笑顔が引きつっている。狐火を掻き消すという暴挙に出たグレンの左腕はひどく焼け爛れていたが、見る間に治癒されていった。再生能力が非常に高いらしい。


 グレンは立ち上がり、再び大剣を構える。その目は油断なく私を睨み据えていた。


『勝てると思っているのか』


「当然。つーか、懐に入りゃァ俺の勝ちだろ」


『入れれば勝ち目はあるかもしれない、程度の話だろう。……入れれば、な』


 魔法特化のランク8である私の魔力はとんでもなく多い。先ほどのように魔法を乱発しても大した負担にならない程度には。逆に身体能力特化であろうグレンに懐に入られれば、ランク差など覆して殺される可能性は十分にある。だが、そんなヘマをしでかすつもりはない。


 私は再び地面を隆起させると同時に、グレンの周りに狐火を展開した。先ほどと同じように岩を大剣で薙ぎ払いつつ魔力を纏わせた左腕で狐火を掻き消そうとするグレンは、しかし、寸でのところで舌打ちをして腕を引いた。大剣を盾にして後方へ下がる。


『気付いたか』


「さっきよりかなり威力高ぇじゃねェか。あんなもんに腕突っ込んだら火傷なんて話じゃねえ、腕が消し飛ぶだろ。えげつねえ」


『ふふ。また私との距離が開いたな』


 グレンが後方へ下がったため、彼我の距離は更に開いている。つまり、グレンが勝つために詰めなければいけない距離が多くなったということだ。


 まあ、わざと奴の後方だけ狐火を薄くしていたからなんだがな。


『せいぜい足掻くがいい、グレン』


 私はグレンを囲むように……まるで嬲るように、再び多くの魔法を展開した。

普通に悪役っぽいミコトさん…

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