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南果ての国の能力者たち

作者: 柚月レイ

 空は青く、白い雲が時折形を変えては去ってゆく。ゆるやかな風は熱を孕み、肌をさっと撫でてその場で消えた。視界には薄く小さな砂煙。近くには石を積み上げて作った背の高い家々が並び、砂煙でよく見えない。家の窓は大きく切り取られ、そこから色鮮やかな布が落とされていて目に楽しい。

 けれど妙なのは人が一人もいないことだ。もしかしたら話に聞く昼寝の時間なのかもしれない。暑い国では昼の最も気温が高い時間は仕事にならないため寝て過ごすのだという。

 少し長めの深い紺の髪にそれよりも薄い色の瞳をもつ青年と、肩口で真っ直ぐに切り揃えられた癖のない金髪をもつ細身の少女に導かれるまま広い道を進む。その奥のいっそう大きな建物が徐々に近くなり、大きな門が見えた。近くで見ると壁や屋根のそこらじゅうにひびが入っているのが分かる。建物の薄汚れた壁は所々に穴が開き、屋根の頂上は崩れている。廃屋。そんな言葉がまさにぴたりとくる建物だ。大きさこそは立派だが、その見た目は今まで見てきた家々の方が手入れが施されている。

 訝しげに感じ、けれどそれを顔に出さずに少女を見ると彼女はすっと手で促した。

「どうぞ」

 恐る恐る一歩進むと頬に何か不思議な感触を得た。ゴムのような、ゼリーのような、柔らかなものだ。驚いて後ずさる自分を見ると、少女は小さく笑って小首を傾げた。髪に飾られた無数の鈴がシャンと鳴る。

「大丈夫よ、安心して通って」

 今度は少女に優しく手を引かれ、その不思議なものをすり抜ける。今までの空気とは何か違う違和感を感じ、顔を上げて再度驚いた。

 そこは砂煙の舞う南果ての町とはまるで違っていたのだ。

 門の向こう側に見えていた建物の壁は真白、屋根は小金に輝いている。舗装された足元には赤や黄、褐色など様々な色のレンガが敷き詰められ、遠目にみると美しい幾何学模様になっている。広場のようなその中央には澄んだ池があり、中には1対の獅子が背中合わせに立つ像がある。像の口は噴水だ。壁に沿って青々とした木々が立ち並び、レンガのないところには手入れの行き届いた芝生。

 そのあまりにも美しい光景に言葉が出ない。ただ促されるまま後をついて白い噴水の前まで来て一行は立ち止まった。

「ここなら平気でしょう。ね、ウェリン」

 少女は言って背の高い青年を見上げる。彼は頷いて噴水の縁に腰を下ろした。

「来る途中説明したことを覚えているか?ここでやってみてくれ」

 何も疑問に思わずに腰紐に差した剣の鞘を両手でしっかりと握る。体の前で構え、説明された事を思い出しながら気を集中させると、鞘の龍紋が波打ちはじめた。足の先から背中、首を通って指先までを何か不思議な感覚が駆け巡る。思い切り頭上から振り下ろすと剣のなかった鞘に水のように透明な剣が現れた。鞘から2匹の青龍がそれに巻きつく。

 目の前にもってきてまじまじと見つめると向こう側に人が見えた。

「へぇ、そんな能力もあるんだ」

 膝裏まで伸びた、鈍い銀色の髪をもつ男だ。秀でた額には能力者の印である紋。黒い服に赤い装飾が数え切れぬほど付いており、柔い太陽の光に反射してきらきらと美しい。そしてそれは彼が動く度にぶつかり合って心地良い音を奏でる。

「ベルファスト。あなたも呼ばれてたの?」

 少女が振り返ると薄い桃色の服の裾が翻った。長い裾には金の糸で縁取りが施されている。

「セルビアじゃねーか。ウェリンも。久しぶりだな」

 男が言うのに濃紺の髪の青年、ウェリンは左手を上げて応えた。その甲には能力者の紋。ベルファストのものとは様が違うようだ。

「で、そのかわい子ちゃんは誰よ」

 明るい面立ちのベルファストは細い顎で自分を示しながら問いかけた。

「エヴァレットよ。エヴァレット・エルジャス」

 セルビアに紹介され、軽く会釈をする。同時に、己の薄い栗色の髪が視界に入った。長く癖のないそれを首裏で1つに結わえている。

「エヴァレット?お前男か!」

 からかいの含まれた口調。少しむっとして思わず顔をしかめてしまった。馬鹿にされた。そう感じた。それに気付いたのか否か、セルビアが少々慌てて口を開く。

「エヴァ、彼はベルファスト・クディニア。同じ能力者よ」

「"天才"が抜けてるぜ、セルビア。よろしくな、かわい子ちゃん」

 自信に溢れた笑顔を見せて握手を求める。重ねた掌は固く、ゴツゴツしていた。

「…エヴァレットです」

 こいつ、苦手だ。内心そう思ったが顔にも口にも出さない。それが礼儀だ。

 ふと気が付くと剣はいつの間にか消え、またもとの青い鞘に戻っていた。

「気の集中が乱れると力は弱まるんだよ」

 不思議そうに鞘を見つめ、飾りのサファイヤに触れる自分にウェリンが言った。

「そうか…」

「まあ、初めてであれだけできれば十分さ。気の集中はこれから鍛えればいい」

 まるで大人が子どもを安心させるかのように軽く頭を撫でウェリンは立ち上がる。

「行くか」

 そしてベルファストと共に先を歩き始めた。セルビアと自分とで後を追う。


 目まぐるしく起こる出来事に、まだ付いていけないでいた。


気まぐれ小話を気まぐれに投稿。

2004年に書いたものです。文章が稚拙でお恥ずかしい。

このお話をもとに連載作品を執筆予定。

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