喪失
ぽつり、と透明な滴が落ちた。
理由なんてない。
ないはずだ。
なのに、何故私は泣いているのだ。
この喪失感はなんだというのだ。
ぽつり、ぽつり。
また、滴が零れた。
ごめん、さよなら。
また、同じ言葉が頭の中を回る。
繰り返し、何度も、何時だって。
誰かが言った台詞なのだろうか。
聞こえる声に耳を澄ます。
この声の主を私は知らない。
だけど、ひどく安心する声だ。
そして、ひどく泣きたくなる声だ。
貴方は、だれ?
ごめん、さよなら。
声は、ただただ繰り返す。
ふと、目を向ける。
その先には何もない。
何もないのに気になって。
何もないことが気になって。
落ち着かない。
いくら見つめても何もないのに。
何か大切なものがなければならない。
そんな気がして。
ただそこを見つめる自分がいる。