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愚者の旅立ち
海に溶けるか、海を染めるか。
――轟、大地が揺れる。知らぬ者が語るならば、地震、だがこれは。揺れているのではない。
『揺らしている』のだ。何かが、大地を。音と振動は続く、やがて、地平線上に小さな点が現れた。
点はだんだん大きくなる。だが少し待って欲しい。こんなに早く地平線の点が大きくなるだろうか、
点は急速に拡大する。やがてぼんやりとだが、形が分かる。――あれは、『列車』だろうか、
黒煙を吹くそれは、際限なく巨大化する。やがて視る者達は気付く、アレは列車、アレは都市、アレは国、
独立自治移動都市国家、開発者の妻の名を取りドーラと名付けられた、その列車は国家を内包していた。
やがて、轟音は止み列車は動きを止める。これは列車、当然駅に停車する。世界に7つ存在する
マザー・ステイション、その一つ東京辿り着いた。到着を告げる汽笛替わりに中央教会の鐘が鳴り響く、
ある者にとっては約束された福音。ある者には旅立ちを告げる鐘。だが多くの者達はまだこの鐘の意味を
知らない、ただ確実なのはここが始まり、起点、
やがて、愚者は人を知り、世界を知る。