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灰色の憂鬱  作者: ma saki
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私の癖。


冷たい微笑みを浮かべ私を見つめる王様。鳥肌が立っているのできっと良からぬことを考えていらっしゃるのでしょう。



「王様の望みは叶いましたか?」


王様は黙り込んで返事をしてくれません。人が話しかけているのに無視するとは、何様なのでしょうか。

私が少々むっとした顔を見せると、王様はその美しい唇の端を釣り上げました。その表情はきっと誰をも虜にしてしまうものなのだろうなぁと、人ごとのように考えます。



「…まだ、お前の名前を聞いていない。お前の名はなんと言う。」


ああ、そういえば自己紹介もしていませんでした。でも、わざわざこの方に名前を教える必要性を感じません。あちらの方の自己紹介は私が求めたものではありませんし、さてどうしたものかと。



「それを教えれば、王様は何を私にくれますか?」



言ってから思いましたが、本来王様に自ら何かを求めることは何らかの罪に問われてしまうのでしょうか。でも私はこの方の国民ではありませんしきっと関係ありませんよね?


悶々と考えていると、王様がその思考を遮断するように言いました。




「お前は何が欲しいのだ?」




私が欲しいもの。いつも思うけれど、自分が何を求めているかなんて問われるまで考えもしません。私は、相手の人が求めてきたことに対してつり合うだけをもらいます。


例えば、近頃居候させていただいてた変態画家さん。彼が私に求めたことは、モデルになること。そして、彼に体を許すことでした。

それに対して私が求めたことは、主に衣食住を保証してもらうことです。



つり合いが取れているかは本当に私の主観で、ただの自己満足です。何かを与えれば何かをもらえる、つまりギブアンドテイクが私の「癖」なのです。


ちなみに、髪の毛をどうにかして欲しいという王様の望みを叶えたのは、私をこんなに良い部屋で寝かせておいてくれたことに対するお礼のようなものです。

ハサミで前髪をチョキチョキと切る予定が、強風の後に自然と整っていたことには少々驚きましたが、自分でやる手間が省けて良かったです。前髪は自分でも何とかなりますが、後ろはなかなか上手くできませんから。



「そうですね…。では、私にいろいろ教えてくださいますか?気が付いたらここにいたので、一応自分が今置かれている状況を把握したいなぁ、と思いまして。」


すると、すかさず宰相さんが言います。

「それならご心配なさらないでください。この状況を説明するのはこちらの義務とも言えることですので、後ほど私が詳しくお教えします。」


「それはそれは、ありがとうございます。


私は東雲 夢と申します。以後お見知りおきをー」



なんだか堅苦しくて疲れてきました。義務、とか言われましても、私はこの人たちに何かされた覚えもした覚えもありません。

自分で言うのもなんですが、私は我慢強いほうではないのです。でも、今ここを出て行ってもきっと後々困るんだろうなぁと思うと逃げ出すこともできませんし…。



とにかく手っ取り早く宰相さんにいろいろ教えてもらいましょう!


「宰相さん、いろいろ教えて…「セイ、一先ずこの娘と二人きりにさせてはくれぬか?」」



言葉を遮られてしまいました。私は宰相さんとお話があるだけで、王様には全く用事はないのですが。



宰相さんを見ると、王様の顔を見てぎょっとしています。私からは王様の後ろ姿しか見えないのですが、一体どうしたのでしょう。




「…ほどほどになさってください。


では、後ほど迎えに参りますので、お話はその際に。では、失礼いたします。」



そう言って、宰相さんは出て行ってしまいました。



残されたのは私と王様だけ。

なぜでしょう。なぜなんでしょう。宰相様がドアをぱたん、と閉めた瞬間から、王様の雰囲気が一変しました。先程までは事務的であったのですが、


今はなんというか…肉食獣のような…。一瞬で毛が逆立ってしまうようなオーラを私は一身に浴びています。目を合わせたら終わりのような気がして、きょろきょろと視点を定めていられません。


「…シノノメユメ、奇怪な名だな」


声が予想よりも近くに感じてびくっと体を震わせてしまいました。バッと顔をあげると、すぐそこに王様が。ついさっきまでドアの近くにいたのに、いつの間に近づいたんでしょう。


「失礼なこと言うんですね。つなげて読まないでください。東雲と夢は離して読むんです。ちなみに夢が名前です。」



「…ユメ」



とても、とても甘い声で名前を囁かれてしまいました。耳がじんじんと、甘くしびれています。ふと、視線をあげると、見ないようにしていた王様と目が合ってしまいました。


その目はまさに獲物を狩る直前の獣の目でした。これも実際に見たことはありませんが、絶対にそうだと思います。

そこにあるのは豪華な天蓋付きベッド。ええ、狩られる獲物はこの私でしょう。



そして、耳元で静かに囁かれました。




「ユメ、お前を抱くぞ。」





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