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Wings' Karma  作者: cape
第一章 風の前奏曲
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Ⅴ 風の前奏曲

「!」

 その黒い影はセダたちを目にしたとたん、腰に差してあった剣を抜いた。それに気づいたセダも抜剣

 ――しなかった。

 その代わりに、なぜかカタコトで喋り始める。

「こばぁんわ! あなた誰でーす?」

 ……辺りはあっという間に静まり返った。本当に時が止まったかと思うほど静かだった。さっきの意味のわからん言葉を聞いた二人は、「こいつバカだ……絶対にバカだ……」という顔をしているし、しかも悲しいことにタイミングよくヒュウ~ッと音をたてて風が吹いた。

「あなぁた誰です?」

 黒い影は呆れ顔のまま適当に返事を返す(多分『あなた誰でぇす』を聞きたくないからだろうが)。

「レーラから来た……。ハユ・ネガーヴァ・レーラだ」

 だが、カタコトをもう聞きたくないという願いはあっけなく破れた。

「あお、ハユさんですね! 会えて嬉しです! わたしよその国から来て困ってたです」

 そう言いながらハユの手を握ってぶんぶん振る始末である。

 ―――が、それも束の間、しばらくすると二人とも「ん?」という顔をする。そして約三秒後。

「あぁ~~~っ!」

 二人そろって叫びだした。これを全部ひっくるめて一言にするなら、「意味不明」というのがぴったりだろう。

 で、その二人は叫んだ後しばらく黙っていたが、しばらくするとセダが口を開いた。

「顔がずいぶん変わったから分からんかったけど、これがあの泣き虫のハユだとはなぁ……。しかも国王にまでなったとはな……」

「いっとくが俺はあんたよりは泣き虫じゃなかったね! にしても髪のびたなあ、お前。かなり印象変わったぞ」

 すっかり打ち解けてしまい、こんな話が十五分くらい続いた。後から聞いたのだが、二人は小さい頃、よく一緒に近所の貴族の館に花火を打ち込んだ仲だったらしい(その後シェルラが二人の生い立ちを怪しんだのは言うまでもない)。が、しばらくすると話題は「シェルラについて」になる。

「よくお前、こんな可愛い女の子つかまえてきたな」

 ハユがそう言うと、姫様の頬が少し赤く染まった。

「つかまえたんじゃねぇ、助けてやったんだ」

 話の矛先はシェルラに行く。

「何から助けてもらったんだ?」

 セダが超呆れ顔で答えた。

「なんでって……。そうだよ、逆に俺が聞きたいくらいだ。なんでわざわざこの子にスパイを?」

 だが、当のハユは「は?」という顔をしている。

「何言ってんだ、俺は別にスパイなんて送ってね――ん?」

 ハユの「ん?」の声に、聞いていた側の二人が一緒に顔を上げた。

「送って無くてなんだ?」

 セダが急かすと、ハユも必死に思い出そうとしながら話を続ける。

「俺が玉座で書類を書いてたら、急に頭の中が真っ白になって、……そうだ、意識が無くなった感じ。 それからしばらくその状態が続いて、五分後くらいに元に戻ったような気が。ていうか第一なんで俺は ここにいるんだ?」

 そこまで話したとき、シェルラが呟いた。

「父です」

 男二人が同時に「え?」という前に彼女は説明を続ける。

「多分『シェルラをケーネで発見した』というのを知って、ケーネに近いレーラの王の身体を乗っ取り、 私へのスパイを送らせたんでしょう。ハユさんは全然悪くありませんよ」

 そう言いながら黒い片目だけで微笑んだ。

「私のせいで話を変えてしまいましたね。すみません」

 ぺこっと頭を下げる。

 なぜかその様子が、セダにはどこか悲しげに見えた。

「なんで父さんに?」

 一瞬ためらったような顔をする。が、しばらくすると、自分の過去を打ち明け始めた。

「父は昔、といっても私が二歳のころですが、戦争に勝つために自分の娘を使って兵器を造ろうとしたのだと聞きました。でも、製造過程で何かの手違いがあったらしく、人の感情を持った不完全な状態になってしまって……。その不完全なのが私なのですが、父は『不完全なものは捨てろ』と仰ったそうです。もっとも、その後に弟を使って完全体を造ったそうですけれど……。それからしばらく、もちろん王家らしい扱いも受けず、城の隅の小部屋に押し入れられるようにして育ってきました」

 この子は父親に、どうでもいい駒としかみなされていなかったのだ。

「それで――城を出たのか」

「はい」

 きっとさっきの『捨てろ』というのは、「追い出せ」なんかではなく、「殺せ」という意味なのだろう。

「それと、父は今、このエレストルにある何かを探すため、悪く言えば世界を荒らしています。その始めとして、まずはカヌレスを侵攻するそうです。それで、今からでもカヌレスへ行ってそのことを知らせようとしたのですが……」

「スパイだな」

 再びシェルラが頷く。セダはふと、なぜこの娘が身の危険まで犯してここまで一人出てきたのか不思議に思った。それに、ヒュランの周りには国土を守るように囲った『防の山脈』があるはずだ。それを馬も引き連れずたった一人で歩いてきたというのか。だが、今はそれを表に出すことはなかった。

「にしても、ハユが何でここにいるのか分からないってことは……。あんたの父さんは俺を見て戻っち まったんだよな。何でだろうな、俺がそんなに醜かったっていうのか!」

「それはないと思いますが……。でも、何か意味があったんでしょうか」

 それからしばしの沈黙の後。

「んじゃ、カヌレスに行くまでついてってやるか! 店のほうは連絡をしてしばらく休みにするからさ。ハユも来るんだぞ」

 突然だった。

 突然だったが、嬉しかった。

 あっという間にシェルラの片目に笑みがこぼれる。

「はいっ!」

 そして商人と姫と王は明日のため仮眠をとることにした。邪気に気づかず、これが風のような前奏曲とも知らず。

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