Ⅳ 作られた存在
「で、あんたは本当にヒュランの王女なのか?」
シェルラがこくりと頷く。
……と、セダがゆらりと立ち上がった。
「そうか――それじゃ、俺はあんたを」
そして、刀を手にかけ、彼女へと飛びかかる。
「殺すしかねぇなっ!」
「きゃぁっ!」
――シェルラはうっすらと目を開いた。
私は殺されたのだろうか。
しかしそこには、目にも鮮やかなお花畑は無いのだ。
その代わりに――
「ひぃっ……」
剣の切っ先と、へらへらと笑う男の姿があるだけだった。
「ははっ、俺があんたを殺すと思ったんだろう? そんなことしないよ」
シェルラはふと不思議に思った。
何かヒュランに恨みがあるなら、私を殺してもおかしくないはずなのに。
「どうして……私を殺さなかったんですか?」
だがセダは相変わらず笑っているだけだ。
「何言ってんの! 俺が恨んでるのはあんたの親父だけだって。親の罪を娘が背負うなんてたまったもんじゃないよ、な?」
そんな風に話す彼を見ていると、なぜかシェルラの目に涙が溜まってきた。涙はまなじりにあふれ、そのまま地へと落ちる。気がつくと、姫は商人にしがみついて泣きじゃくっていた。
「うっ……、えぐっ……」
――五分くらい泣いたろうか。
シェルラが泣き止むと、セダがぽつりと呟いた。
「あんた、変わった目の色してんな」
聞こえるか聞こえないかの呟きだったが、彼女はしっかりと聞こえたらしく、返事をよこした。
「父からの遺伝です。こんな目、無いほうがましなんですけどね」
そして、悲しげに続ける。
「この目には、『人』としての感情がありません」
そういわれて初めて気づいたが、確かに彼女の金色の瞳からは一筋の涙も流れた形跡が無かった。
「もしかして、あんた本当に」
セダが途中まで言いかけると、その話を肯定するようにシェルラがさらりと流す。
「父に作られた存在なのです」
そう言うと、彼女は地面に目を落とし、それ以上何も言わなくなってしまった。
と、その時。
夜の闇から、黒いマントをなびかせながら歩く人影が現れた。




