Ⅲ 小国レーラ
時を同じくして、小国レーラ。
王城の玉座に座っているのは、ハユ・ネガーヴァ。黒い髪に黒いマント、眼の下の魔寄せの黒い紋様。おまけに八重歯が並みの人の二倍ほどとがっているので、もし市場ですれ違っただけでもその姿は忘れないだろう。それほど『異様』だったのだ。
十八歳という歳ながらもこの国の王を務める彼は、生い立ちから本当に人間なのかということまで何一つ知られていない。
ただ唯一の噂が、『どこかの貴族の出身ではないだろうか』というものだった。
そんな正体不明の王の前に、一人の男がひざまずき、何かの報告をしていた。
「偵察からの報告によると、王女シェルラ・ヒュランを追っていると銀髪の少年が現れ、次々と使いの者をなぎ倒して行ったらしく――……」
ハユの眉がピクリと動く。が、すぐ元の無表情に戻り「続けろ」とだけ呟いた。
「その少年は、何やら『ユーネの商人』と名乗ったそうなのですが」
ここまできて、ハユは急に質問を投げかけてきた。
「歳は? 他に特徴は?」
「え、ええっと……。確か歳は、二十歳前ぐらいかと思われますが。他は、翡翠色の瞳と青い水晶剣だそうです」
「!」
それを聞くとハユは玉座から飛び降り、黒いマントを翻して外へと通じる扉へとゆっくり歩き出した。そして、外に踏み出たその時。
「ど……どこへ行かれます! 王がそのようなことをされては!」
引き止める声を拒絶するかのように、バンッと音を立てて扉が閉まった。
主のいなくなった玉座が扉の閉まる音に反応し、少し震える。
玉座の主は、城の西へと進んで行った。
――不動の樹海へと。




