Ⅰ ユーネの商人
午後一時。ここ、ユーネ街の一番賑わう時間だ。特に中心街は道具屋、武器屋などの店であふれかえっているためか、朝から晩まで一日中騒ぎ声が絶えない。その中で、今日は一段と華やいでいる場所があった。
噴水広場前。
集まっているのは、どうやら何かのヤジウマらしく、「やれーっ!」だの「いけぇーっ!」だのと叫びまくっている。
その中心には二十かそこらの青年と三十後半ぐらいのヒゲ親父がいた。ヒゲのほうは鼻から血を流し、右目の周辺に青いアザができている。一方、青年は平然とした顔でヒゲを見下ろし立っている。ケガすらしていない様子だ。
「これで終わりですかい? 泥棒さんよぉ」
青年が大げさに肩をすくめ、やれやれという風に首を振る。そして、またヒゲが立ち上がる。
どうやら『ケンカ』のようだ。
ヒゲは拳を右の脇腹に抱え、青年に突進して行く。が、青年はそれを見事な跳躍力で軽々と飛び越え、そのままヒゲの後頭部に強烈な蹴りを喰らわす。しかも青年は、これを五秒と経たぬうちにこなした。
……まったく、どういう体の造りをしているのだろう。
ヒゲはあっけなくコンクリートの地面に倒れこんだ。
ヤジウマ連中はあっけにとられ、辺りはしーんと静まり返る。と、その時。青年はその静寂を破るように大声で自分の店の宣伝を始めた。
「さぁさぁ寄ってきな! 弓や刀にアクセサリー! ケンカもいいけど店もよろしく、セダの何でも屋だ! おばちゃん、野菜も採れたてだぜ~っ! さぁ寄っといで~!」
……なんと、青年セダの店にはさっきのヤジウマやらカップルやらが行列をつくりだした。なぜこんなに売れるのかというと、それは恐らく品揃えの良さにあるのだろう。
ここ、『何でも屋』は本当に何でも売っていた。武器・防具類はもちろん、クレープや採れたての野菜だって揃えてある。しかも、万が一店に無い物があったとしても、注文すれば五日以内に届けてくれる。そんなわけで、何でも屋は営業時間中ずっと行列ができている店ナンバーワンなのだそうだ。
――そして、午後七時。
何でも屋の閉店時間になると、セダは店の商品をテントごと抱えて歩き始めた。今日中に注文された品を、夜のうちに仕入れにいく。大抵彼のなじみの農場やら問屋やらがあるので、(初めは迷惑がられたが)遅い時間でも行けば必ず手配してくれているのだ。
確か次の仕入れ場所は、ユーネの東にある街、リッツだ。リッツに行くのは今回が初めてで、知り合いの商人が紹介してくれた市場を覗きに行くということになっている。セダは暗闇の中、少し心寂しいのをごまかすために、ご機嫌な鼻歌を歌いながらスキップを始めた。そういえばまだ時間がある。
「あ、たまには散歩がてら遠回りするかっ」
次の日住民から「深夜の街をスキップしながら大声で歌う不審者がいる」と苦情が入ったことをセダが知ることは全くなかったそうだ。




