Ⅰ 伝説
昔、とても仲の良い二人の天使がいた。
二人は毎日のように戯れ、そして何よりも心から愛し合っていた。一人はフィロ、天界でも評判の美貌を持つ、温厚で人望のある女性。もう一人は端正な顔立ちとは裏腹に、勇敢かつ腕の立つ男性天使、リジェラ。二人でいれば、何があろうがどんなに苦しかろうが幸せだった。微笑ましい姿だった。
――しかし、悲劇は突然起きて、幸せを奪っていく。
ある日、フィロは地上へ降りて小鳥たちと歌っていた。リジェラは死者からの伝言を王神に伝えなければならなかったため、いなかった。
そんな時だった。
急に空が陰り、激しい雨が降り出した。小鳥たちは驚き、彼女のもとから飛び去った。
――雨……?
上を向くと、冷たい雫が顔を打つ。さっきまであんなに澄んでいた空なのに。早く帰ったほうが良いのかもしれない。嫌な予感がしていた。
フィロが翼を広げようとした、その時。目の前に、黒い歪が現れた。
「!」
そして、次の瞬間、彼女の首に激痛が走った。
意識が遠のいていく……。
助けて、リジェラ!
次の日、天界は大騒動となっていた。天使たちの間では、こんな噂が広まっていた。
フィロが、何者かによって殺害された。
そして、フィロの遺体を運んだものの話はこんなものだった。首筋に、噛み付かれたような跡があった。明らかに、あれは動物の牙の跡ではない。毒蛇や狼ならばあのくらいの傷はつけられるかもしれないが、それくらいだったら自分で治療できただろうし、第一に飛んで逃げることも可能だったはずだ。つまり、原因は……
ヴァンパイア。
こんなことを言っては何だが、単に刃物や矢などの武器で殺害されただけならまだましだった。だが、ヴァンパイアの牙には、古来からの伝承があった。
満月の夜にヴァンパイアの牙を立てられた者は皆、次の月が光で満たされる日、血を糧とする彼らの同胞となり、再びこの地を踏まん。
そう、彼女は次の満月の頃には、もう天使ではなく、ヴァンパイアとして生きているのだ。
この話は後に、リジェラも知ることになるのだった。




