Ⅶ 王としての権力
「今どこ」
「おそらく、『名も無き地』とエルガヒューネの境目辺りだと思われる」
「……名も無き地って、名前ちゃんとついてるじゃないですか」
「いや、本当はあそこさ、いくら地図で探しても地名が出てこなくて……。それにさ、今どこって訊かれて『どっかとエルガヒューネの境目』って答えるのは、なんか訊いた側としてもかわいそうかな、って」
「今のを要約してみよう。つまりは適当な思いつきってとこか」
「そうだ」
……セダたちはつまり、名も無き地(セダ命名)とエルガヒューネの国境付近に来ていた。カヌレスまで一気に走るのは無理だろうから、エルガヒューネの宿で休もう、ということだった。
セダが落馬して休息をとってから、何時間ぐらい走ったろうか。たびたび小休息をとったが、そろそろ馬もバテはじめていた。
「もうちょっとで宿に入って休めるぞ! ほれ、一気につっ走れ!」
そう言って、ハユはホッグ草をサバトの口元に持っていってやる。
「ほら、セダたちも馬に食わせてやれ」
差し出された草を受け取り、セダとシェルラもそれを馬に食わせてみた。
「はい、どうぞ……うふふ、くすぐったい」
「おし、ミスター・マロンマン、食え……って痛い痛い! 俺の手はエサじゃねぇ! ぎゃあっ!」
各々の馬にエサをやり、多少彼らに元気が出てきたところで再び勢いよく走り出す。
……が、恐ろしいことに勢いよく走るということには、ある大きなリスク(?)が伴った。
そう、セダは乗馬が異常なまでに下手クソだったのだ!
「いーぎゃあああああーっ!」
ヤバい、このままじゃまた休むことになっちまうと思ったハユが叫ぶ。
「セダ、手綱だ、手綱! 手綱さえしっかり握ってれば尻と足が浮いても生きてはいられるから!」
必死にこくこくとうなずきながら手綱を握りしめるセダ。それからハユはしばらく、セダの実年齢について頭を痛くさせることになった。
――あれから約二時間後。彼らはやっとエルガヒューネの国境門へと辿り着いた。
「着いた……。死ぬかと思った……」
セダは完全にバテていた。そんな彼をよそに、ハユとシェルラはすたすたと歩いている(もちろんシェルラはちらちらとセダのほうを見ているのだが)。
……と、セダは自分の背中に人の手が触れるのを感じた。
「ん?」
後ろを向くと、いかにも俺は警備兵です、という風貌の男が二人たっている。
「なんでしょうか、愛の告白ならお断りですよ? 俺はもっと美人な人がいいから」
セダがあお向けになって言うのも無視し、男たちは勝手に話を進める。
「この国のものではないようだが。何の用だ?」
……休みに来たっていうのに、こんな迎えかたってありかよ?
「あのね、俺たちはただ休息をとりにきただけなの。あんたらは宿ってものがどうしてあるのか分かってんのか? なのになんで旅人を拒むんだよ? ……あーなんでそんな顔すんだよ! まだわかんねーのか?あんたら何歳だ、本当は!」
セダはやっぱり仰向けになりながらぎゃあぎゃあわめく。
と、その時、救世主(?)ハユとシェルラが来た。
「何やってんだ、このドアホ……。本当においてくぞ」
「ドアホってなんだよ! てかせめて『ド』は抜けよな……。おいてくって言ってもさ、このおっさんたちが離してくれないんだよ」
「は?」
振り向くと、確かにそのおっさん(とはいってもまだ三十ちょっとぐらいなのだが)がいた。仕方なくハユは訊ねる。
「あの、なぜ通していただけないのでしょうか?」
「それが通行証がないと門を通れない仕組みになっててよ……ん?」
男はハユの顔をまじまじと見つめる。そして直後、何か思いついたような顔をすると、彼はいきなりハユの前にひざまずいた。
「これは、レーラの国王陛下であられましたか! 今までのご無礼をお許しください」
――態度一変である。
さっきまでは口調も態度も『何だこのガキンチョどもは』という感じだったのに、今となっては頭で地面に穴を開けたいのかと思うような態度だ。だが、ハユはそれを無視して再び訊ねる。
「どこか、良い宿はありませんか? なるべく馬小屋があるところだと嬉しいのですが」
「はっ、ただいま!」
頭をさげ、とっとと宿の手配をしに行ってしまった彼らの背(もしくはあさっての方向といってもよさそうだ)に向かい、セダが呟いた。
「……王様っていいよな。好きなときに権力を使える」
「ん? 何か言ったか」
そしてはぁ、とため息をつき、首を振る。
「……いや、何にも」




