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Wings' Karma  作者: cape
第一章 風の前奏曲
11/17

Ⅴ 心配

 ダダダダッ、ダダダダダッ。

 軽快な馬の足音とともに、青年の叫び声(悲鳴?)が澄んだ青空へと響き渡る。

「ぎぃーやぁぁぁぁ~~っ! た、助け……って、いぃやぁっ! 俺はこんなところで死にたくな……ひい

 っ!」

 落馬しそうになりながらもかろうじて愛馬、ミスター・マロンマンの首につかまっているのは、もちろんあの青年、セダだ。

「馬が苦手なのは昔から全く変わってないんだな」

 そう言って彼をひやかすのは、レーラの国王ハユ。さすが国王だけあって、乗馬は手馴れたものだ。セダへのひやかしの言葉に加え、薄ら笑いまで浮かべている(しかもそれが実に皮肉を楽しむような顔なせいでセダにとっては非常に不愉快なものであった)。

 そして、そんな彼らを温かく見守っている(?)のは、ヒュランの姫君・シェルラ。馬にはあまり慣れていないらしく、落馬しないようにとしっかり手綱を握っている。

 ダダダダツ、ダダダダッ。

「ね……ねえもうここらへんで……ぎゃっ! ここらへんで休もうよ……うおぉうっ!」

「るっさいな、いい歳こいて情けない」

 ダダダダッ、ダダダダッ。

「でも、しょうがないですよ……。人には得意不得意がありますから」

「シェルラ、君だけだよ、そうやって俺をフォローしてくれるのは……。ほら、あの悪魔のような……お

 うっ! あいつの顔を見てみろ! ありゃ『死んでもお前なんか助けてやんねーからな』って顔だ……あ

 ひぃっ!」

「るせぇ!」

 ダダダダッ、ダダダダッ……ズドーン!

「あぎゃぁぁぁぁぁぁっ!」

 ついに、セダがミスター・マロンマンから落馬した。

 ハユもシェルラも急いで馬を止め、ぶっ倒れたセダの方へと駆け寄る。

「大丈夫ですかっ? 死んでませんかっ?」

 シェルラがそう言っている間、ハユは口笛を吹いて、主人をほったらかしてそのまま突っ走っていこうとしているミスター・マロンマンを止めようとしていた。

「おい、マロン! 戻ってこーいっ!」

 だが、名前を呼んだだけではもちろん戻ってこない。

 で、結局、ハユはあのお騒がせ馬を追いかけることになった。

「こら、マロ~ンッ! いい加減止まれぇ~っ!」

 必死に追いかけるが、さすがに馬の足には追いつけない。

「しょうがねぇな……」

 ハユはそう言うと、サバトの腰にくくってある皮袋から一握り食用の草を取り出し、それを掴んだまま叫んだ。

「マロンッ! お前の恐らく好きであろうホッグ草だぞ!」

 ……すると、なんとミスター・マロンマンはホッグ草の匂いを嗅ぎつけたらしく、急に軌道修正をしてハユの方へと爆走して来た。そしてハユのいる場所へ着くと、すぐにもっさもっさと草を食べ始める。

 その頃、馬のご主人・セダは、シェルラのお陰でなんとか意識を取り戻していた。

「あ……シェルラ? おはよう……。ミスター・マロンマンは? ……ハユが? 良かった……」

 ハユからしたら全然良くねぇよ、と言いたいところだったが、なぜだかシェルラだけはセダが生き返って(?)にこにこ顔なのだった。

「良かったです、生きてたんですね!」

 ……結局、セダの落馬のせいで少し休憩をとることになり、全員馬を置いてその場に座った。

「や、ごめんね……。俺のせいで無駄な休憩とらせちゃって……」

 そういう割には顔がやけに幸せそうである。

 で、なんやかんやでまた雑談が始まった。

「シェラ、カヌレスってどんなところか知ってる?」

「え? セダさん、私の名前は『シェラ』ではなくて『シェルラ』ですが」

「いーの、もう俺達友達でしょ? だから、ニックネームみたいな。いいでしょ?」

「えっ、あ、はい」

 いいでしょ、と訊かれても、どうせこの男だから『いやだ』と言ったところで無理矢理押し通すに違いない、と思って言ったのだが。やはりそのニックネームが定着してしまった。

「カヌレスってさ、なんか意外と開放的なんだよ。この間ちょっと野菜を仕入れに出かけたんだけど、えらい手厚く歓迎してくれて。ただの商人でその扱いなんだから、それがお姫さまとなったらすごいぞ!」

 そう言って、ニッと笑う。

 そんなセダが、シェルラは少し好きだった。

 この人たちなら、絶対に信用できる。そんな笑顔が、何となく可愛いのだ。

 ……と、彼女の目にあるものがとまった。

「セダさん、いつもその帯を腰に巻いてますよね。きれいです」

 ふと、セダの笑みが一瞬消えた。

 その一瞬を見逃さなかったシェルラがすかさず謝ってしまうくらいに。

「あ……、すいません、私、何か悪いこと言いました?」

 だが、彼は再びあの笑顔を作ると、また話し始めた。

「これ、兄さんのなんだ。戦争に出る前にくれたんだけど、いつも首に巻いてたマフラー。これつけてると、兄さんがまだ近くにいるような気がしてさ」

 無理矢理作った笑顔だった。

「じゃ、そろそろ行こうか! 時間がもったいないぞ、ハユ!」

「ん」

 なぜか、シェルラはセダの触れてはいけない一面を見てしまったような気がした。――気のせいだろうか。

「おし、出ぱぁーつっ……いぎゃぁーっ!!」

 ……気のせいだ、多分。

 心配するな、私。

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