怪物との戦い 特殊部隊の介入
「遅いな……..ハンニバルの奴なにやってんだ？ 」車内でひたすら待ち続けるベルナルドの怒りは我慢の限界をとうに通り越して一周した感じにまでなっていた。
苛立ちながら、いいかげんハンニバルを呼びに行こうと、ドアに手をかけた時胸元の無線機からハンニバルのどなり声が聞こえてきた。
「こちらハンニバル！ 村は完全にぶっ壊されてて生存者は少女１人のみ！ おまけに怪物がいきなり現れて…….とにかく早くパトカーで来てください！ こっちはただいま怪物と交戦中！ 」
こいつ、イカレタか？と一瞬思ったベルナルドだがすぐにその考えを否定した。なぜならハンニバルからの無線の直後、目の前の村でひときわ目立つ木造りのやぐらのような建物が吹っ飛んできてパトカーの傍に突き刺さったからだ。
「くわしいことは分からないが……… 」ベルナルドは股の間に挟んでいるレミントンＭ８７０ショットガンを握りしめる。
「とりあえず、まともな状況じゃなさそうだな 」アクセルを勢い良く踏み込んだベルナルドを乗せたパトカーが意外に遠い村の中心に向けて走り出す。
「くそ、くそ、くそ、くそ、くそ！ 」最初のゴモスの一撃をなんとか、かわし、右手にもったグロック拳銃を連射するハンニバルだが目の前の怪物、ゴモスはひるみもしない。唸り声をあげて再び斧を振り上げる。
「うおぉぉぉぉ！！ 」少女を左手でつかみ上げて右にタックルをかますかのような勢いで転がるハンニバルは先ほどと同様にゴモスの攻撃をよけた。
ゴモスの攻撃のパワーは強力だが、その動きはそれほど速くはないことをハンニバルは感じ始めていた。
目標を外したゴモスの斧が地面に激突し、地響きを感じさせるような衝撃が２人を襲う。
「ぐわあ！？ 」衝撃におもわず体を飛ばされてしまったハンニバルはうっかりつかんでいた少女を離してしまった。
その少女はゴモスの真ん前に着地している。
「しまっ！？ 」慌てて駆け寄ろうとするハンニバル。その前でゴモスの大きく毛むくじゃらな腕が少女に向けて伸ばされていく。その時だった。
空を切り裂くようなサイレン音が突如聞こえてきた。ゴモスは伸ばしかけた腕をとめ、音の聞こえてくる方向に首を回す。その先にいるのは………
「よう！ ファンタジー世界の住人みたいな怪物さんよ！ 仲間と少女を救うためのヒーローの参上だ！ 悪役は悪役らしく素直に倒れてくれよ？ 」
すさまじい速度でサイレンを鳴らしながら突っ込んでくるパトカーを見て、一瞬、動きを止めたゴモス。そのすきにハンニバルは少女を突き飛ばしゴモスの視界から強引外すと同時にその右手にもつ拳銃の銃口をゴモスに向ける。
「おい！怪物！ 」ハンニバルの叫びに顔をこちらに戻したゴモスの視界にハンニバルの手に握られる黒光りする拳銃が映る。
「さすがに目ん玉はやわらかいよな？ 」次の瞬間、ゴモスの右目をハンニバルの放った９ミリ弾がつぶした。
天を震わせるような雄たけびを上げ、よろめくゴモス。その健在な左目で自分の目をつぶした犯人を捜し出そうとするが、その眼に映るのはこちらに向けて突っ込んでくるパトカー。
「よーし……そろそろだな……..いっけえ！ 」パトカーを操縦していたベルナルドは怪物がこちらを向いて斧を振り上げ始めたのをみて、アクセルに重しを乗せて運転席から飛び降りた。そして腰からベレッタＭ９２拳銃をぬき、慎重に狙いを定める。
新人のくせに射撃の天才とまで呼ばれるソードには及ばないが、ベルナルドもまた射撃の腕は一流だった。その彼が狙うのはわざと開けておいた給油口。
ゴモスはいよいよ高々と斧を掲げ一気に振り下ろそうと力を込める。
「ファイア！ 」
ベルナルドの拳銃から放たれた弾が給油口に命中するのと、斧が車体に食い込むのとほぼ同時だった。刹那、ゴモスの体は巨大な炎に包まれた。
「グウォォォォォォ！！」すさまじい断末魔の叫びと共にゴモスの体が膝から崩れ落ちるように地に倒れていく。
拳銃弾さえ苦にもしないゴモスに唯一ある弱点。それは火だったのだ。
「ふう……..アシはなくしちまったがとりあえず危機は回避できたか……. おい！ハンニバル！大丈夫だったか！ 」
ハンニバルは拳銃弾をゴモスの右目にブチ込んだあと、脇に飛ばした少女を抱えてゴモスからできるだけ遠くへ逃げるたに全力疾走していた。
そのため、ベルナルドのすぐそばまで駆け寄ってきていた。
「大丈夫です！ この子も無事です！ でも、けっきょくここがどこか、アイツはなにかとか、大事なことがさっぱりわかりません 」
少女は突き飛ばされた時の衝撃で気絶しており、事情をきくことができない。おまけに怪物を倒すためとはいえ、貴重な車両を失ってしまった。
「しかたない。こうなりゃ徒歩で行くしかないな。ハンニバルはその子を背負って…….. 」それ以上ベルナルドの言葉が続くことはなかった。突然首元に剣のようなものが当てられ動きを止められる。さらに目の前のハンニバルの喉元にもナイフのようなものが後ろから当てられていた。
突然の事態に混乱する２人の頭に突然殴りつけらような衝撃が走り、２人の意識は急速に闇の中に沈んでいった。
「こちら『ドス』第一分隊。目標捜索中に新たな所属不明者を発見。ゴモスとの交戦を確認。少女を守りながらの交戦で２人で１体を倒した。我々が追う目標と同一の種類の可能性を考え拘束しました 」
「よし。こちら『ドス』総隊長ゴードン。私の全権限をもって命じる。目標追跡は一時中断。第一分隊が拘束した２人をただちに中央都市に移送しろ 」
