異世界の怪物 獣神
「行けども行けども牛ばかり……..民家の一軒も見えやしない…….どうなってるんだハンニバル! 」
「そう怒鳴られても………でも確かにおかしいですね。これだけ走っていて民家はおろか電柱1本見えないなんて……. 」
「ああ、おかしすぎる……本当にどうなってるんだ? 」
広々とした草原、その中を疾駆するパトカーの中でベルナルドとハンニバルはため息をついていた。目が覚めて、パトカーで署に戻るために走り続けて2時間、どこまでいっても一向に変わらない風景に、2人のいらだちは頂点に達し始めていた。
「ソードやジョン先輩の行方もつかめてませんし………死刑囚プレスリーのことも……. 」
「そこが問題なんだよな……..せっかく捕捉したのに逃げられたか、それとも捕まったのか……..それすら分からない…….. 」
ベルナルドは頭を抱えて重いため息をつく。
「とりあえず、民家の一つでも見つからんと…….ん? 」
前方200メートルほど先、そこにわずかに光が見える。赤々しい光はおそらく焚き火でもやっているのだろう。そうベルナルドは判断した。
「ハンニバル! 前方200m先、明かりがあるぞ! 」ガバッと伏せていた顔をあげて(どういうわけか上司であるベルナルドに運転させていた)ハンニバルは前方を見つめる。
真っ赤な光に照らしだされ、無数の民家があるのが見てとれる。どうやら小さな集落のようだ。
「本当ですね! とりあえず、あそこまで行って電話借りましょうよ! 」
「そうだな、もう少し近くまでいってからお前が降りて、誰かに電話借りてこい 」
パトカーは一路、前方に見える集落へ向けて突き進む。
「………こりゃあ………どうなってるんだ? 」ハンニバルは目の前に広がる光景に唖然としていた。ハンニバルが佇むのは、光の出所、村の中心の広場らしき場所だ。いや、だったというべきかもしれない。なぜならすでにここは村ではなくなっていたからだ。
元々は石造りの建物だったろう、一戸建ての民家の残骸は重機で解体されたかのように根本から崩され倒れていたり、屋根が吹き飛んでいたり、家の外壁に穴があいていたりとすさまじい状態になっている。
「すでにゴーストタウンで解体寸前でした……..みたいなオチでもなさそうだな……..まだ広場の焚き火はついてるし……..ってあれ? 」
広場に近い木造りのやぐらのような建物の傍に横たわる少女がいた。ぐったりしているが体が小刻みに震えているところを見る限り、死んではいないようだ。
「生存者か! いやそれとも迷子? なんにせよ警察官の僕の仕事だ! 」
ハンニバルは一直線に少女にかけよりその体を揺すって声をかける。
「大丈夫!? しっかりして! 」「う….う~ん……….っ!誰! 」少女は大きく目を見開いて、目の前のハンニバルを見つめた。その瞳に宿るのは警戒の光。
「僕の名前はハンニバル。ロス市警の警官だよ。いったいなにがあったの? 」
「ケーサツ? それってなに? 人類軍の新しい部隊の名前? 」
予想もしなかった返答に戸惑うハンニバルにお構いなしで少女は続ける。
「よく分からないけど助けて! 村はヤツに襲われたの! 父さんも母さんも、ミラもレイもみんな……アイツに…… 」
「………アイツって?」
「後で話すから今は早くここから離れて! そうじゃなきゃまたアイツが……. 」
刹那、地面を揺さぶるよな衝撃が2人を襲った。
「な!? これは? 」
「来ちゃった……… 」
少女は呆然とハンニバルの後ろを眺めている。
「来たってなにが……… 」
「分からないの!? 後ろに来てるのに! 」
ギョッとして後ろを振り返るハンニバルの眼に映るのは、巨大な2本の牙を口元からはやし、両手で巨大な両刃の斧を構える巨漢の怪物。
「なんだよ…….こいつは! 」「こいつは獣神…….四大勢力の一角に所属する荒くれ者……..徘徊獣『ゴモス』! 」少女の叫びに答えるかのようにゴモスが斧を振り上げ雄たけびを上げる。慌てて腰のホルスターから拳銃を抜くハンニバルに向けて巨大な斧が振り下ろされた。
毎回短いのが申し訳ないです..........
今回でようやく主人公たちが異世界と関わり始めました。
さて、ここから現実世界の警官たち対ファンタジー世界を代表するような巨漢化物との闘いがスタートする.......と思います(汗)楽しみしていてください。