第1章: 眠りのひび割れ
ベトナムの作家 Thya Ngo による、映画的なスタイルのグラフィックノベル。
穏やかな日常から始まる物語は、やがて説明のつかない現象に浸食されていく。
主人公を襲う唐突な眠気は、休息ではなく——どこかへ通じる“こじ開けられた扉” である。
夢と現実がにじみ合う世界。
抑制された静けさと、金属のように冷たい緊張が交互に押し寄せる——
サイファイ・ノワールを基調とした独立系クリエイターによる作品。
本作『SYNCHRO DREAMLINE』は、
ベトナム語・日本語・英語・ドイツ語 の 4 言語で制作されています。
ご覧いただき、心より感謝いたします。
読みに来てくれたあなたへ。
ここから先は、静かな緊張がゆっくりと脈を打ち始めます。
※本作品の無断転載・AI学習・商用利用・加工等を一切禁止します。
Copyright © Thya Ngo. All rights reserved
食事を終え、私は台所から母が食器を洗うカチャカチャという音を聞いていた。父はリビングルームでテレビを見ており、ニュース番組の音が規則的に響いてくる。私はベッドに横になり、お腹の辺りまで掛け布団を引き上げ、スマートフォンを開いてメッセージをいくつかチェックした。少しだけ目を休ませるつもりが…まぶたがどんどん重くなった。誰かに後頭部をそっと押されたかのように、突然の眠気が私を深いところに引きずり込んだ。
その瞬間、全ての聞き慣れた音が消え去った。
目を開ける — そこは寝室の天井でも、温かい黄色の照明でもなかった。目の前には、暗く長い廊下があり、電灯が故障寸前のように点滅している。背後から誰かの足音が、慌ただしく響いてきた。私の手には…トランシーバーのようなものと、乾いた血の付いた折りたたみナイフが握られていた。
心臓がドクンドクンと鳴っている。それは、ぼんやりとした夢うつつではない。空気の密度、冷たい金属の匂い、耳元で聞こえる重い呼吸 — 全てがあまりに現実的で、一歩下がれば壁に頭を打ち付けるだろうと感じるほどだった。
トランシーバーから誰かの声が響いた。
「時間だ。奴を逃がすな。」
私はそこに立ち尽くしたまま、なぜ自分がここにいるのか、なぜ体が何百回も訓練したかのように戦闘態勢に慣れているのか理解できなかった。私の一部は、これはただの夢だと叫んでいた。しかし、残りの部分 — 腕の筋肉を張り詰め、ナイフを固く握りしめている部分 — ははっきりと知っていた。私は何らかの任務の最中にある。
背後で、誰かが金属のドアを強く蹴ったような、耳障りな音が鳴り響いた。本能が私を動かし、体を傾け、冷たい壁に背中を押し付けさせた。ナイフをきつく握りしめる。手のひらは汗ばんでいるが、その動作は恐ろしいほど熟練していた。
「進め。奴は近くにいる。」
トランシーバーの声が、切迫して響いた。
振り返る — 廊下の突き当りにあるガラス板に、見慣れているようで異質な自分の姿が映っていた。それは私…だが、別の私だ。体に密着した黒い服を着て、顔は埃にまみれ、何時間も続いた追跡の中で目尻が緊張していた。
突然、一筋の光が私めがけて発射されたが、幸いにも男性のチームメイトが私を突き飛ばしてくれた。私の体は — 意識を待たずに — 防御の構えに入った。心臓が激しく脈打つ中、トランシーバーが再び鳴り、その声は刃物のように鋭かった。
「何をしている?なぜ突っ立っているんだ?」
私はごくりと唾を飲み込んだ。喉はカラカラに乾いていた。チームメイトが反射的に私を引っ張り、私もそれに従って走り出した。長い廊下をよろめきながら進む。天井の照明は点滅し、ケーブルが蜘蛛の巣のように張り巡らされていた。
最終的に、私たちは基地にたどり着いた。広々として冷たい空間は、ハイテク科学の様相を呈していた。大きなスクリーンにはデータが点滅し、整理された机の上には様々な未知の機器があり、数人のチームメイトがコントロールパネルを素早く操作していた。金属、機械油、そしてコーヒーの匂いが混ざり合い、親しみやすいようで奇妙だった。
司令官が監視台の上に立っており、低い声で言った。
「よし、解散だ。休んでくれ。疲れている者は休め。」
私はぼんやりとして、どの部屋に帰ればいいのか分からなかった。すると、若い女性のチームメイトが走ってきて言った。
「具合が悪いんですか?私が部屋までお連れしますね。」
彼女は私の手を握り、薄白い廊下を引っ張って進んだ。両側には分厚い本棚や、見慣れない機器が点滅し、名も知らぬ数字やグラフが表示されたスクリーンがあった。私はもう観察する気力もなく、ただ横になって全てを忘れて目を閉じたいだけだった。
ベッドに横になった途端、体がだるくてたまらなかった。掛け布団を被り、手を腹部の横で丸める。本の匂いと機械の匂いが周りに漂っていた。心臓はまだ激しく鼓動し、頭はくらくらしていた。
突然、外から弟の声が響いた。
「お姉ちゃん、朝ごはんできたよ!今日はどうしてこんなにぐずぐずしてるの?いつもは早いのに!」
その声は日常的で穏やかで、私がたった今経験したことと完全に相反していた。トースト、コーヒーの匂い、カチャカチャというナイフとフォークの音…しかし、私の頭はまだ混乱していた。暗い廊下、点滅する光、手に握ったナイフ、切迫したチームメイトの声 — 全てが混ざり合い、何が夢で、何が現実なのか区別がつかなかった。
私は何とか立ち上がり、掛け布団を脇に寄せ、ダイニングルームへと向かった。父はまだテレビの前に座り、ニュース番組に目を凝らしており、母は食器洗いに忙しそうだった。私はパンを数切れ食べようとしたが、頭の中はまだぐるぐるとしており、まるで危険な任務から帰還したばかりで、心拍数を正常に戻そうと努めているかのような感覚だった。
二日目は平穏に過ぎた。点滅する光もなく、暗い廊下もなく、ナイフを握る感覚もない…ただの日常の生活が、あまりに穏やかで、私は昨日の「任務の夢」をほとんど忘れかけていた。
三日目も、全ては普段通りに始まった。私はベッドに横になり、スマートフォンでメッセージを読んでいたが、突然、抗いようのないほどの強い眠気が襲ってきた。まぶたは鉛のように重く、体は完全に動けない状態に陥った。
一瞬にして、全てが消えた。目を開ける — そこにベッドはなく、通常の光もなかった。目の前には瓦礫の山があり、破片や、もうもうと立ち上る煙と埃。焦げた匂い、金属の匂い、金属が重くうめく音が辺り中に響き渡っていた。
一人のチームメイトが、トランシーバーを持って近づいてきた。彼は私を見て笑った。
「今日はよくやったな…でも、なんで今、そんなに戸惑った顔をしてるんだ?まるで夢から覚めたばかりみたいじゃないか。」
私は顔を向け、手はまだ固くこわばり、心臓は激しく鼓動した。呼吸は荒く、目の前の瓦礫の山を見つめた…私のもう一つの部分は、まだこの場所にいた。任務は…決して終わっていなかったのだ。
チームメイトは私の前に立ち、真剣だが早口な声で言った。
「おい!帰ろうぜ!なんでそこに突っ立ってるの?」
私はまばたきをし、集中しようとした。頭はぼんやりとし、心臓はまだ強く鼓動し、手はわずかに震えていた。暗い廊下、点滅する光、瓦礫の山…のイメージは、私がチームメイトについて基地へ戻る間も、頭の中にそのまま残っていた。
基地に戻ると、全てが普通に戻ったようだった。冷たい空気、点滅するデータスクリーン、コントロールパネルを操作するチームメイト、特有の金属と機械油の匂い — しかし、私にとって、全てがぼやけていて、半分は現実で半分は夢だった。
会議室で、計画を議論しているチームメイトの中に座っていると、疎外感がより一層明確になった。彼らは数値、地図、次の任務について話していたが、私には自分の激しい心臓の鼓動と重い呼吸の音しか聞こえなかった。テーブルに置いた手はかすかに震え、私はまるで自分が制御できない夢の中に突然現れたかのように、チームメイトたちを眺めた。
司令官は私を見て、眉をひそめ、低い声で言った。
「大丈夫か?今日は様子がおかしいぞ。」
私は頷こうと努めたが、戸惑いの感覚はまだ残っていた。まるで、もう一つの私の一部が、まだあの暗い廊下のどこかに立っていて、私のあらゆる動きを監視し、任務が要求すればいつでも行動する準備ができているかのようだった。
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今後も『SYNCHRO DREAMLINE 』の世界を一緒に歩んでいきましょう。
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