『校庭の花壇には、誰がいる?』
今回は「校庭の花壇」が舞台。
誰も世話していないはずの花壇に、
季節外れの花が一輪だけ、鮮やかに咲いている――
その花は、誰の想いで咲いているのか。
静かな怖さと、少し切ない怪異を、お楽しみください。
夕暮れの校庭は、風が止まって、不気味なほど静かだった。
グラウンドの隅、花壇の前で足が止まる。
そこに――
季節外れの、真っ赤な花が、一輪だけ咲いていた。
他の花は枯れているのに、そこだけ妙に元気で。
「誰か……世話してるのかな?」
私がぼそっとつぶやくと、
後ろからユウがふわっと現れて、言った。
「ううん、違うよ。……あの花、自分で咲いたんだよ」
「え……?」
ユウの目が、少しだけ悲しそうに細められる。
「ねえ、つむぎ。昨日の夜、私ここで見たんだよ。
白い服の子が、花壇の前にしゃがんでた。ずーっと、ずーっと……」
(……それ、やっぱりこの世の人じゃないやつだよね)
そこへ、坂口くんがやってきた。
「……あの辺、昔、生徒が事故に巻き込まれた場所なんだって。
“卒業までに花壇いっぱいに花を咲かせたい”って言ってたらしい」
その瞬間、風がピタリと止んだ。
ざわっと、鳥肌が立つ。
私は花壇に近づいた。
足を踏み出すたびに、地面が“きゅっ、きゅっ”と軋む。
――その時。
耳元で、小さな声がした。
「……まだ、咲かせたいの……」
ぞくっ、と背筋をなぞられるような感覚。
思わず後ずさると、ユウがぽつりとつぶやいた。
「……この子、まだ残ってる」
私は恐る恐る、花壇の花の根元を見つめた。
(……あれ、よく見ると、茎の色が――黒く、にじんでる?)
そこから――
小さな、白い手が、ゆっくりと土の中から伸びていた。
その手は、何かを掘るように、植えるように、動いていた。
ユウが近づいて、そっと手を合わせる。
「……咲いたよ。きれいに咲いたよ。もう、いいんだよ」
私は震える声で続けた。
「ありがとう。きれいに咲かせてくれて……もう、十分だよ」
すると、白い手がふわりとほどけるように、消えていった。
その瞬間。
真っ赤な花が、ふわっと揺れた。
まるで「ありがとう」と言うように――
その晩、私は夢を見た。
夕暮れの花壇の前に、ひとりの小さな女の子。
白いワンピースに身を包んだその子が、
にこっと笑って言った。
「……ありがとう。やっと、咲かせられたの」
その後ろから、大人の声が重なる。
「……よか……った……ね……」
静かな夢だったけど、涙が止まらなかった。
翌朝。
登校すると、花壇には、真っ赤な花がたくさん咲いていた。
誰も水をあげていないのに。
そこには、小さな花瓶と手作りの名札が添えられていた。
『ありがとう』
坂口くんが花壇の前で、ぽつりとつぶやいた。
「でも、この花壇……もっと奥に、何かいる気がする」
「この土は……血と、いじめにあった人の“言えなかった言葉”が、まだ残ってる気がする」
(赤い色と少し赤黒い色の花が……たしかに混ざってる)
その言葉に、背中がすっと冷えた。
風が吹いて、赤い花びらが一枚、私の足元に落ちた。
──そんなこんなで。
今日もまた、“見えちゃうけど、無視できない”事件が、ひとつ終わった。
今回は「花壇」が舞台の怪異でした。
静かな想いほど、深く残る。
誰にも知られずに終わった願いが、
花びらに変わって咲いていたのかもしれません。
夜の校庭で、一輪だけ揺れる花。
もしかしたら、それは「見てくれてありがとう」と
誰かがそっと伝えているのかもしれません。
次回は「お札」がテーマ。
日常の中にある“あってはいけないもの”を扱います。どうぞお楽しみに。




