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第二話(2) ヤベーやつが仲間になった

「付いていく……って君、今所属しているパーティはどうするのさ!?」

「幸いなことに、今は一匹狼なんだよな~」


 そう言いながら、ベルナーは対面にあった椅子を俺の横に移動させ、そこに座った。

 もう逃がさないという意気をひしひしと感じる。

 どうにかこうにか退路を探さなければと、俺は目だけで辺りを見回す。

 すると遠くのほうに冒険者の集団がいるのに気づいた。しかも見知った顔もいた。


「ジェシカさん!」

「あれ? 昨日の調整屋くんじゃ~ん」


 大声をあげると、昨日魔力枯渇で眠りこけたベルナーを運んでいった女性、ジェシカはこちらを見て手を振り、そして隣にいるベルナーを見るなり爆笑しはじめた。


「調整屋くん、やっぱり捕まっちゃったんだ~!!!」

「笑わないで助けてくださいよ!!」

「おいおい、俺の口説きは無視して他人を口説くってのかぁ?」

「ちょっとねっとりした声で変なこと言うな!!」


 ジェシカは爆笑しながら集団に一声かけると、やはり爆笑したまま俺たちの座る席へやってくる。

 そしてほかの空いているテーブルから椅子を取り、俺の向かいに座った。

 現状、俺の向かいにジェシカ、そして左隣にベルナーがいる。

 なんだこの布陣。メンツすらも謎すぎるだろ。


「ちょっとジェシカさん、この人どうにかなりませんか?」

「ん~……ならないと思うよ?」

「そんな即答しなくても……!」


 ようやく笑いが収まってきたのか、「は~、笑った笑った」と言うとジェシカは肩を竦めた。


「その男はね、ちょうど三日前にパーティから最後の一人が脱退したところなの」

「……脱退?」

「おいジェシカ、あんまりバラすんじゃねえよ」


 そっと左を一瞥すると、ベルナーが口を尖らせている。

 おそらくジェシカの言うことは、彼にとっては俺に知られたくないことなのだろう。

 聞いておいてよかった!!!!!


「ベルナーはね、戦闘ジャンキーなの」

「戦闘ジャンキー?」

「そう。どこの街に行くにしてもダンジョンを通ってモンスターと戦いたがるし、ちょっとした寄り道でもダンジョンに潜って最下層に行こうとするの」

「仕方ねえじゃん。俺、戦うの好きなんだから」

「仕方ないで済む話か?」


 思わず左に突っ込んでしまう。

 その様子をおかしそうに見つつ、ジェシカは話を続けた。


「しかもそいつ、体力お化けで魔力お化けだから、ま~~じでいつ何時でもダンジョンに行きたがるわけ。だからパーティの面々はそれに嫌気がさして全員いなくなっちゃったっていうのが、事の経緯ね」

「なるほどわかりました。ではベルナー、いつかどこかでまた会いましょう」

「おいおいそんな性急に事を決めちゃあ、いろんなことを見逃しちまうぜ」


 心外とでも言わんばかりに、ベルナーはかぶりを振る。

 でもここまで一切の否定はしてないから、おそらくジェシカの言ったことは本当のことなんだろうな。


「でも、ベルナーがそんなに人を気に入るなんて、珍しいじゃない。やっぱり昨日のやつで?」

「おうとも! あの戦いはしびれたぜ!」

「あら~……調整屋くん、大変なやつに好かれちゃったわね~。もう諦めてパーティ組んでやったら?」


 ぐっと拳を握りしめるベルナーに、眉尻を下げてこちらを見つめるジェシカ。

 まさか昨日の最後の魔法砲でこんなことになるなんて、思いもしなかった……!

 だが、俺にはまだ切り札がある。

 ここでベルナーとパーティに入ってダンジョンに連れられて大変な思いをするより、優雅な馬車で悠々自適に行きたいじゃないか!!

 幸いなことに、王都のお店のときに貯めたお金はあるから、多少豪遊してもなんとかなるほどのお金はあるからな!


「ベルナー、君は勘違いしてる」

「おん?」


 きょとんとするベルナー。ジェシカも首を傾げている。

 そんな二人に、俺は静かに告げた。


「俺はそもそも、冒険者じゃない」


 そう、そもそもとして、俺は冒険者ではないのだ。

 もともと武器調整屋として活動していたから、王都の商業ギルドには加盟していたものの、王都から出るにあたって会員登録を凍結させている。

 だが、冒険者としての登録はここまでしていないし、するつもりもない。

 冒険者になると国に入るときの制限がかなり緩和される反面、昨夜のようなモンスター襲来などへの対処が義務となる。

 武器調整しかできず戦えないと思っても、街中に避難するのは叶わず、武器を手に戦わないといけないのだ。

 昨夜のことでさえいっぱいいっぱいだったというのに、再び同じことが起きても対処することは難しい……

 そんなことを二人に(主にベルナーに)話したのだが、ベルナーはすぐに普段の表情に戻ると、レザージャケットのポケットを探り始めた。


「なんだ、そんなことか。ほれ」

「そんなことって……え?」


 彼が取り出したのは、冒険者ギルドの登録証。

 そして氏名欄には『カイン・デメタミス』という俺の本名が書かれていた。


「こんなのを用意するなんざ、朝飯前だぜ」


 反論しようにも、驚きのあまり喉がカスカスで声にならない。

 ジェシカはその様子を見て、爆笑しながら手を叩いていた。


「あっはっは! 調整屋くん、本当にベルナーに気に入られちゃったのね!」

「ま、待って! 俺登録とかしてないのに、なんで!」

「だってそいつ、冒険者ギルドの副統括長だもん。書類を“作る”だなんて、ちゃちゃっとできるわ! あー、おかしい」


 俺は呆然としながらジェシカを見て、そしてベルナーに視線を移す。

 ベルナーはすさまじく自慢げに胸を張っているが、これバレたら普通に犯罪じゃないか。


「書類の偽造がバレたら、君お縄じゃないの!?」

「そこはあんたが黙ってればいい話だろ?」


 さらりとのたまうベルナーに、呆れが止まらない。


「…………そもそも、どこから俺の個人情報を手に入れたのさ」

「それはまぁ、俺の伝手でちょちょいとな」


 商業ギルドにしか出しておらず、どこにも公開していない苗字が判明している時点で、もう察するところはある。

 十中八九、ベルナーは本気だ。

 にっこりと満面の笑みでこちらを見るベルナー。

 しかしその瞳は、獰猛な狼のようにこちらを見据えて離そうとしない。

 たとえここから逃げようとしても、逃がさないと言わんばかりに。

 向かいにいるジェシカは笑いっぱなしで助けは求められなさそうだし、他に周りに助けてもらえそうな冒険者の人たちもいない。


 ――あれ、これもうベルナーとパーティを組むしか道はないのでは?



 そうして俺が折れるまで、そこから数分も必要としなかった。

次話→3/27 22:00ごろ。

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