第一話(3) 温かい料理にありつきたい
「この魔法銃! なんか急に弾が出なくなったんだけど!」
「うーん、銃身が熱すぎて歪んだみたい! 直しておいたのと、銃身の熱放射をよくしておいたから頻度は減るはず!」
「たいへん! 剣が折れた!」
「折れたのは直せないから、これ使って! めちゃめちゃ頑丈にしといたから、骨に当たったくらいじゃおれないと思う!」
「盾の補強を頼みたい!」
「任せて! どんなものも貫かないようなかってえ盾にしておいたよ!」
モンスターとの戦いが始まり、はやくも小一時間程度が経った。
その間俺は屋根の上で待機しつつ、ときおりやってくる調整をこなしていた。
俺の突発調整屋に並ぶ人がいなくなり一段落して、ふう、とため息をつく。
普段はここまで魔力を急に消費することがないから、少し疲れてしまった。
とはいえ、魔力自体はまだまだあるので問題ないが、これが2、3日続くとなるとまた話は変わってくる。
「いまどんな感じかな?」
屋根から落ちないように気を付けつつ、あたりを見回す。
イノシシ型のモンスターと戦う人たちが多く見えた。
先ほどよりも減ったようには見えるが、街道の奥にある森のほうからまだ続々とこちらにやってきているみたいだった。
「カイン!」
「はーい! って、さっきの人」
「よ。……って、危ないからあんま屋根の端に行くなよ」
「ごめんごめん」
やってきたのは、さきほど双眼鏡を調整した男だった。
両手に魔法銃を持ちながら屋根にあがってきた彼はさっさと座ると、身に着けるレザージャケットのポケットからビスケットを取り出し食べ始めた。
「戦いの首尾はどんな感じ?」
「あー……」
ビスケットを食べ始めるのだから結構余裕があるのかも……と思って聞いてみるが、男は急に眉根を寄せてしまった。
「ヤバいわけではねえが……まだまだ終わんねえだろうな。なんせピエトリの森のモンスターが一気にやってきてるからなぁ」
「ピエトリの森の?」
ピエトリの森は王都の南にある大きな森林で、この国で一番大きいとされる王都の数倍の大きさがある。そこにはこの国でも有数の大きさを誇るダンジョンがあり、初心者にはもってこいの難易度だ。
ただ彼が言うに、なぜかそこにいるモンスターが軒並み王都に向かってやってきているんだとか。
「大移動ってこと?」
「それにしてはこちらに敵意を向けてるんだよなぁ……。誰かが巣にちょっかいでもかけたか?」
「さすがにそんなことはしないでしょ。冒険者じゃない俺だって、モンスターの巣には手を出しちゃダメって知って――」
そこでふと思い出す。
あのアホ第三王子、たしか南のダンジョン行ったとか言ってたような……
しかもあれのことだから、きっとモンスターの基礎知識とか学んでなさそうだよね……
いや、いまそんなことを考えてる暇はない。
「となると、あとどれくらいでこれって終わりそう?」
「そうだな……3日くらいってとこか」
「3日!?」
空腹も相まって、くらっとめまいがする。
「それくらいすれば、モンスターたちも落ち着くと思うんだよな。さすがにモンスター全部倒すとなると、3か月とかかかると思うが」
なんてことだ。となると最低3日は温かいご飯にはありつけないということになる。幸先不安なスタート再びだ……
「もし疲れてるようなら、王都の中に逃げると良い。今の王都は結界がしっかりしてるから、モンスターが来ても入れないはずだ」
「ちょっと諸事情で、王都に戻れないんだよ……」
がっくりと項垂れる。
あのアホ第三王子め。なんてことをしてくれたんだ……
となると、さっさとこのモンスター退治を終わらせるには、何かしらの一手を打たないといけないってことになる。
どうしようか、と辺りを見回す。
「ベルナー!」
すると、冒険者の女性が一人、屋根の上に跳んであがってきた。
ここ4階くらいの高さがあるんだけど……と思ったが、おそらく跳躍スキル持ちなのかもしれない。
彼女は双眼鏡の男――ベルナーという名前らしい――を見つけると、すぐに駆け寄ってくる。
「どうした?」
「打開策が見つかったわ。あのモンスター、雷魔法を与えると痙攣して倒れるんだけど、そのあと何事もなかったかのように森へ帰っていくの!」
「本当か!」
俺は盗み聞きしつつ、期待に胸を膨らませる。
つまりリリーのような魔法の使い手がいれば、この戦いは終わったといっても過言ではない!
……しかし、俺の希望は無残にも打ち砕かれる。
「いまここに雷魔法を使えるのは、俺と、あと数人しかいないな……この少人数でいけるか……?」
盗み聞きしながら、再びがっくしと項垂れた。
しかし、ふと思いつく。
「ねぇ、ベルナー」
「ん?」
俺は二人に近づく。女性のほうが怪訝な顔をするが、ベルナーが「王都の調整屋、カインだ」と紹介してくれると、「あぁ! あそこの有名なところね」と友好的になった。
「で、どうした。カイン」
「ベルナーさ、魔法銃使ってたよね」
「使ってたが……それが?」
「大きい魔法銃って使える?」
「使ったことはないが……武器はおおよそ使えるぜ。俺のスキルはちょっと特殊で、簡単に言や、どんな初見の武具防具でも人並みに扱える、ってやつだからな」
ベルナーは腰に手を当てて、俺に自信満々の笑みを向ける。
よし、なら行けそうだ!
「さっきの雷魔法の話で、ちょっと試したいことがあって」
俺はそう言うと、手元のアイテムバッグから武器を取り出した。
これは元のお店に置いてあった、俺の身長より大きな砲身を持つ魔法砲だ。
機序的には魔法銃と同じではあるが、図体が大きいからその分威力もでかい。
難点といえば衝撃が大きさの分強いため、扱える人間が少ないことと、魔力の消費が馬鹿みたいに多すぎて何発も打てないということ。
「待った……今どこから取り出した……?」
「うん? 普通のアイテムバッグ。あ、調整スキルでちょっと改造してるけどね」
「改造……? いや、まぁいいか。それでこれを?」
「調整スキルでいまから扱えるようにするからさ、これで一網打尽にするってのはどう?」
戦闘なんてはじめて経験するから、この提案はもしかしたらあまり良くないものかもしれない。
しかし俺はしっかりと見えた。
ベルナーの口の端が、ニヤリとあがるところを。
たぶん第一話は(4)でまとまると思います。