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第二十一話(1) 亡き第一王子!?

「……なんの用でしょう?」

「何を言う! 私と貴様の仲じゃないか!」

「あー……訳の分からない方法で庶民を王国から追放した人と、その被害者って関係ですかね?」


 ギラギラとした目つきでこちらを見てくる第三王子に、気味悪さを感じて顔をしかめてしまう。

 しかし第三王子は俺のそんな気も知らないようで、顔面に笑みを浮かべたまま俺に何かを投げてよこした。

 店の営業停止令状と同じような、羊皮紙の高級そうな紙。

 そこにはこれまた汚い字で、堂々と文字が書かれていた。


『招集義務通達書』


 その下にはつらつらと長ったらしく説明が書かれているものの、要約すると「お前には特別な才能があるから、王国のために身を捧げる義務がある」とのことだ。

 馬鹿らしすぎるあまり、眉間に深いしわが寄ってしまう。

 そんな俺の表情を見て中身が気になったのか、ベルナーやアゼル、ジェシカがそれをのぞき込んできた。モモもジェシカの腕に抱かれて紙を見ている。


「……はぁ?」


 第一声の明らかに嫌悪まる出しなのはアゼルだ。

 アゼルはもともと自由意識が強く、最低限のギルドにしか関与せず自由に生きてるから、なおさらだとは思う。

 同様に眉をひそめていたジェシカだったが、彼女はふいに首をかしげた。


「あれ、でも調整屋くんって王国追放処分受けたんじゃなかったの?」

「そのはず……なんですけど……。しかもあの人から処分の令状をもらってるんで……」


 そう答えると、訳のわからなそうが返ってきた。

 いや、ほんとにそうなんだよね。

 俺の調整屋が気に入らなくて営業停止させて、侮辱罪だかなんだか知らないけど王国を追放させた挙句、なぜか「お前は王国に身を捧げる義務がある」とは、かなり虫が良すぎる話だ。


 ベルナーは一言も言わずに、紙を見つめている。

 まぁ、そら副統括長さまからしたら、こんな人がいるなんて絶句してしまうだろう。

 俺はベルナーに紙を押しつけつつ、第三王子と対峙した。


「第三王子さん、こちらの申し出は断ります。俺はもう王国民じゃないんですし」

「は、はぁっ!? こちらの好意を無下にするとは、不敬な!!」

「好意? 強制か、あるいは押しつけって言うんじゃないですか?」

「うるさい!」


 最初の好意的な会話はなんだったのか、と言わんばかりに、第三王子は声を荒らげる。

 今日、このダンジョンが貸し切りになってしまっているのが惜しい。ほかの冒険者とかいたら、すぐに噂とか広がるのに。


「そもそも、俺を王国から追放したのは、あんただろ。それで王国から離れてなんとか生きてきたってのに、それを無視して王国に身を捧げろとか、さすがに都合がよすぎる」

「都合がよくて何が悪い! 俺は王国の第三王子だ! 民を自由に動かすのは俺の特権だっ!」


 叫びのあまり、唾が飛んでくる。

 そしてなんて傲慢な言葉なのか。これ、本当に王族か?

 呆れすぎて言葉が出ない。

 すると第三王子は、にたにたとなぜか笑い始めた。


「お前がこの令状を断れば、この国だけじゃなく、王国と国交のある国では指名手配されて生きられなくなるんだが、それでもいいのか? えぇ?」

「……っ」


 せっかく調整屋を帝国に開いたというのに、また帝国から出ないといけなくなる、というのは嫌な話だ。

 とはいえ、この第三王子に仕えるというのは、ごめんだ。

 どうしようか。少女からもらった知識によると、ちょうど第三王子が立っているところは、ちょうど遺物になっている。

 けど、ここで急に地面に手をつけて魔力を込めはじめたら、さすがにやつも逃げてしまう。


「くっくっく、残念だが、時間に余裕はないぞ。今誓うか、今指名手配されるか、の二択だ」


 下卑た笑い声が辺りに響く。

 どうにかして突破する方法はないのか。


 ――と思っていた矢先、俺の肩にポンと手が置かれた。


「大丈夫だ、カイン」

「ベルナー?」


 先ほどまでじっと通達書を見つめていたベルナーが、頼もしそうな顔で俺を見下ろしていた。

 きょとんとする俺に頷きで返した彼は、通達書を持って第三王子に近づく。


「誰だ貴様は!」

「そうだな、関係者とだけ言っておこうか」


 そのまま通達書を目の前に掲げると、勢いよく真っ二つに破り捨てた。


「んなっ!」

 第三王子の驚きの声が聞こえるが、ベルナーの動きは止まらない。

 さらに真っ二つにした通達書をくしゃくしゃにして空に放り投げると、懐に入れていた小さな護身用ナイフで斬り刻み、あっという間にチリの山にしてしまった。


「貴様! 何を――」

「王国法令、第42条」


 第三王子の叫びを、ベルナーは遮る。ベルナーは叫んですらいないのに、第三王子よりも声の圧が強く、叫びはかき消されてしまう。


「令状ならびに通達書は王族ないし王族の血を引くものは作成を許さない、だったか。この筆跡はお前のものだよな?」

「不敬な! この俺を誰と心得るか!」

「王国の第三王子、リヒャルシ・マクガライドだな。王宮内でのまたの名を、我儘ばかりの第三王子ってな」


 ベルナーはナイフを仕舞い、やれやれと肩をすくめる。


「お前はまったく変わらないな。良くも悪くも」


 余裕そうなベルナーとは対照的に、第三王子――リヒャルシはぷるぷると震え、顔を真っ赤にしてベルナーを睨んでいる。

 っていうか、第三王子そんな名前だったんだ。


「何者だ、お前は」

「おや、血縁関係者の顔を忘れちまうなんて、ずいぶんと薄情だな」

「……血縁関係者?」


 思わず呟きが漏れてしまう。

 だって、ということはベルナーは王国の王族の血を継ぐものになってしまう。

 冒険者かつ、冒険者ギルドの副統括長をやってる人が?

 いや、まだ傍系という可能性がある。

 なんか、いまの国王の従弟の姪の、そのまた従弟の……みたいな。

 しかし、次に言い放ったベルナーの言葉で、その想像は打ち砕かれることになった。


「王国の亡き第一王子、ベルノルド・マクガライドだ。兄の顔くらい覚えておいてくれな、弟よ」

「――っ!?」


 その場のみなが、息を呑んだ。

 何せ有名な話なのだ。

 王国のベルノルド王子は、頭脳明晰で見目麗しく、仕事もできたし武芸にも秀でていた。物腰柔らかで一般庶民にも好かれ、大人気の王子だった。

 しかしある日の夜、厳重な守りの王城に忍び込んだ間者によって、暗殺されてしまった。

 俺が王都で働きはじめるもっと前の話だったが、その報せは国中、国外へ瞬く間に広がっていき、全世界が悲しみに包まれていた。


 ……だというのに、そのベルノルド王子が……ベルナー!?

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