第十八話(2) 凶悪モンスターの倒し方
「武器屋くん、これって……」
「炎属性の魔力がついてる……これならいけるぞ!」
「でもなんで急に出てきたんだぜ?」
疑問の声ももっともで、こんな急に成長する素材というのは聞いたことがない。
俺も驚き半分訝しげ半分の気持ちで辺りを見回していると、側に横たえていた少女が目を開いているのがわかった。
「あ、君!」
すぐさま駆け寄って、様子をうかがう。
弱弱しい体は相変わらずだったが、俺の手を握りにこりと笑いかけてきた。
「もしかして、君のおかげ……?」
その問いに少女はこくりと頷いた。
そもそも普通の少女じゃないということはわかってはいたけど、まさかこんなすごいことを起こせるなんて。
そういえば、ベルナーたちに紹介していなかった、と振り返る。するとすぐそこにベルナーが心配そうな表情で立っていた。
「おいカイン、急にどうした? 一人でうずくまっちまって」
「一人じゃないよ、ほらこの女の子」
「は?」
ベルナーはきょとんとした表情で俺をじっと見つめる。
俺も理解ができなくて、ベルナーを見つめる。
……まさかこの少女、俺にしか見えないってこと……?
「カイン、大丈夫なんだぜ?」
「あ、モモ! ちょっとこっちに来て。アゼルとジェシカも!」
俺が急に大声で呼んだからか、呼ばれた三人が驚いた様子でこちらを向く。
そして駆け寄ってきた三人に横たわる少女を紹介したが、三人はベルナーと同じように、不思議そうなものを見る表情になった。
つまり、俺にしか見えてないってことになるわけで。
「あー、なんだ……つまり、そのお前にしか見えてない女の子が、この鉱物を出現させた、と」
「カイン。もしかしてお前、一人で行動してたときに頭でも打ったか?」
「違うよ!」
慌てて否定こそしたものの、人間ではなく一応旧文明の遺物であるモモも感知できてないとすると、なかなか信憑性に欠けてしまうのは否めない。
とはいえ、この鉱物が急に発生したのも論理的な説明ができない。
「それで、どうするんだぜ? あいつと戦うんだぜ?」
うーん、と考え込んでいると、モモが突っ込んでくる。
そうだ、そんなことで言い争いをしている場合じゃなかった。早くしないと旧文明の遺物がスライムなんかに溶かされてしまう。
「アゼル、ここにある鉱物だと、その……火炎放射器? って作れる?」
「おう、これだけありゃ充分だ。んで、みんなで火炎放射器で炙ってやれば」
「いや待った」
会話を止めたのは、ベルナーだった。
「さすがにこのスライムを表面からちまちま炙っていくのは、効率が悪すぎだ。それに、スライムは触手を伸ばして人の体を貫いてくるが、お前らにゃ避けられるか?」
厳めしい顔で尋ねてくる彼を前に、俺とアゼルはそろって首を横に振った。
たぶん避ける避けない云々の前に、火炎放射器とやらを持つので精一杯だと思う。
「だろ? だからもっと中に炎を入れ込めるやつだといいんだが」
「スライムの中に? たとえば爆弾とか?」
「特効薬ではあるが、ここが崩落して生き埋めになりたくないなら、やめたほうがいいな」
「んー……」
三人で考え込む。
意外と洞窟の中というのは、制限が多いようだ。
そもそもスライムというのは、体内にある小さな核を潰すことで倒すことができる。
しかしこの核はあまりに小さく、そして周りにある粘液質かつ何もかも溶かしてしまうような部分が多く、倒すまでに時間がかかると言われているのだ。
だから粘液質の部分を炎なり薬なりで減らし、小さな核を見つけて倒す、というのが一般的な倒し方だ。
だから爆弾というのは、かなり良い方法だったりする。
粘液質の部分を効率的に消せるし、剣や槍みたいにピンポイントで狙わずとも核を潰せる可能性が高まるのだ。
…………こんな洞窟の中じゃなければ。
「なるべく炎をスライムの中に入れられて、爆発は起こさないもの、か……」
「自分で言っててなんだが、なかなか難題だな……」
「……あ」
ふと思いついて声が漏れる。
期待に満ちた目でこちらを見るベルナーとアゼル。
とはいえ、あまり自信がないはないので、おそるおそる言葉を発した。
「あのさ、剣身から炎が出る構造って、いける?」
「まぁ、いけなくはないが……斬るついでに炎で燃やすってことか?」
一瞬怪訝そうにしたアゼルだったが、こくりと頷く。
しかし再びベルナーが口を挟んだ。
「剣だとすると、一、二回スライムに斬りつけただけで、剣が溶けちまうぜ」
「そうだよね。だからさ――」
そこで言葉を一度切ると、俺はアゼルの肩に手を回す。
「俺とアゼルでずっとその炎が出る剣を作り続ける、ってのはどう?」
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