第十四話(1) 水中大探索……?
◆ ◇ ◆
俺たちが向かったのは、砂漠のエリアを通り過ぎた次の、海岸エリア。
砂でできた一本道がずっと水平線の向こうまで伸びており、その横は真っ青な海が広がっている。
燦燦と先ほどの砂漠エリアと同じ日差しが指していて、常夏の島にでも遊びに来たような気分になった。
「一本道で、初心者に向いていると思ったんだがぁ……」
「この範囲全部、探索するんだもんね……」
ベルナー曰く、これまでは日差しを遮るものがないだけの簡単なエリアだったが、水中マスクの登場ですべてが変わったらしい。
どことなく元気がなくなったベルナーの肩を、ポンポンと手で叩いておいた。
海岸エリアに来るまでの水場も探索するため何人か分かれたから、いまこの海岸エリアに残っているのは、俺たち含めて十数人程度。
対して、目の前に広がるのは、それはそれはたいそう広い海。
「1日じゃさすがに無理だよね」
「ま、それが冒険の醍醐味ってことだ。ほら、持ち場割り振るから、集まれ!」
今度は俺がベルナーに励まされる番だった。
そうして俺とベルナー、モモの2人と1匹が担当することになったのは、一本道のちょうど中間地点のあたりの海の、入口から見て右側のエリア。
ちなみに左側のエリアは、アゼルたちの担当だ。
一本道の中間地点には、休憩できそうな円形の広い場所があり、冒険者初心者である俺がすぐに休憩地点に行けるように、と配慮してくれたらしい。
「意外と水中で動くってのは、体力がいるからな」
「でも、旧文明の遺物があるなら、元気100倍だから!」
「我輩も頑張るんだぜ!」
仕方なそうに肩を竦めるベルナーをよそに、俺とモモは手を合わせながら、意気揚々とマスクをつけて水中に飛び込んだ。
海を模しているからそのまま目を開けると痛いかもしれない、と少し構えていたがそんなことはなく、目を開いてもとくに痛くもないし違和感もない。
かなり綺麗な水だからか、地面やそこいらを泳ぐ魚が綺麗に見える。
しかも先ほどまでとんでもない日差しの下で暑かったからか、ひんやりした水がとても気持ちいい。
冒険に来たはずなのに、まるでバカンスにでも来たようだった。
「わぁ……!」
「あんまり生き物には近づくなよ。調査してねえから、毒があるかもしれねえ」
「我輩、海の中初めてなんだぜ!」
キャッキャとはしゃぐ俺とモモと、それをたしなめるベルナー。
なんだか鍛冶屋の前に通っていた幼年学校を彷彿とさせながらも、俺たちはひとまず辺りを探索し始めたのだった。
数十分くらいならとくに変わらず、2時間ほどが経ったあたりで、体中を違和感が襲い始めた。
「ベルナー。ちょっと休憩してくるね」
「おう、水もちゃんと飲んでおけよ」
なんだか体中が気だるい。
海中を泳いで、見たことのない魚にはしゃいで、地面や岩を注意深く観察していただけなのに、なんだか一気に体調が悪くなった気がする。
それになんだかめちゃくちゃ眠い。まぶたが今にも落ちそうで、油断したら海の中で寝ちゃいそうだ。
そう思い、モモと一緒に一本道の上にある休憩地点に行こうとするも、なかなか前に進めない。
「も、モモ~……」
「仕方ないやつなんだぜ!」
最終的には、モモに引っ張ってもらい、なんとかして地上にあがったのだが。
「か、体が……重い!?」
水中から出た瞬間、全身にのしかかる強大な力。
まさか俺たちが海の中を探索している間に、ダンジョンの性質が変わったとか……!?
よたよたと老いぼれのようにゆっくりと歩きながら辺りを見回す。
「あれ、調整屋くんもちょうど休憩~?」
「ジェシカ、さん……」
「あれ? 調子悪い感じ?」
しかし、ちょうど同じタイミングで休憩地点に向かっていたジェシカは、すたすたといつも通りのスピードで歩いている。
あれ? じゃあこれ、俺だけ?
心配そうに駆け寄ってくる彼女だったが、俺を見るなり、ふふ、と笑った。
「なんかあれだね、疲れ果てた子供みたい」
その言葉で、ピンと来た。
この倦怠感、まぶたの重み。
ベルナーが言っていた「水中では体力がいる」という話。
これ、めちゃくちゃ疲れてるんだ。
「なる……ほど……」
「ほら、とりあえず服と髪乾かしてあげるから、一旦寝な寝な」
「そうし、ます」
熱い日差しの中、一瞬だけ体が温かい風に包まれる。
肌に張り付いていた服が乾き、髪もいつも通りに戻る。
「ほら、あと少しで着くから、頑張って」
もう声を発する気力もなく、ジェシカに手を引かれながら、用意されたテントへ向かう。
そして寝床に案内されるなり、気絶するように倒れ、そのまま真っ暗な世界に入っていった。
寝に入る直前、「アゼル、あんたもか!」とジェシカの声が聞こえた気がしたが、気に留めることもできなかった。
でも、これで学んだ。
水中ってのは、意外と体力いるんだ、って。




